表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/23

第1話「叱責と、止まった歯車」

アクセスいただき誠にありがとうございます。

この出会いに感謝いたします。


──5月初旬、ゴールデンウィーク。


春先に開幕したプロ野球も、1か月が経過した。

まだ順位は大きく動く段階ではないが、どのチームも夏場以降の争いを見据え、力を試す重要な時期となっていた。


そんななか、青嵐ブレイズでは恒例のファン交流イベントが開催されていた。

2日間にわたって球場を一般開放し、選手たちが練習を披露しながらファンと触れ合う──いわばチームとファンをつなぐ“お祭り”である。


神代 駿は、ブルペン横の投球体験エリアで子どもたちと向き合っていた。


「もうちょっと、右足をしっかり踏ん張って……そう、それ!」


声は出す。笑顔も作る。だが、どこか気持ちが上滑りしていた。


──俺が、プロとして教えられることなんて、あるのか。


フォームは崩れていない。球速も、変化球も、平均以上だとは思う。

それでも、結果が出ない。ベンチを温める時間が増えるばかり。


「神代、お前……何やってんだ」


背後から飛んできたのは、チームの監督・田嶋の低くて太い声だった。


「子ども相手でも、見られてるって意識は持っとけ。プロが立ってるんだ、気合い入れてやれ!」


「……すみません」


駿は思わず背筋を伸ばし、頭を下げた。


「ファン交流だろうがなんだろうが、見られるってことは評価されてるってことだ。フォームがどうとか言う前に、“プロとしての姿勢”を見せろ。……お前の投げるその一球で、夢見る子どもがいるかもしれねぇんだぞ」


田嶋の言葉は怒鳴り声ではなかったが、重みがあった。


駿は無意識にグラブを握りしめた。


──“見られてる”ってことを、忘れてた。


「イベントってのは、プロとして立つ覚悟を問われる場所でもある。中途半端な気持ちなら、そこに立つな」


そう言い残して、田嶋は背を向けた。


ピリついた空気が一瞬広がったが、子どもたちの無邪気な声がそれを吹き飛ばす。


「お兄ちゃん、もう一回投げてー!」


「……よし、行くぞ」


無理に口角を上げ、駿は再びボールを構えた。

だがその球には、どこか迷いと力みが混ざっていた。


──本当に、このままでいいのか。


自分の投げる意味すら見失いそうななか、観客席の最前列。

ひとりの少女が静かに駿の姿を見つめていた。


黒髪を軽くまとめた、その横顔。

彼女の視線は、まっすぐに駿だけを捉えている。


──この出会いが、すべての始まりだった。

読んでいただき誠にありがとうございます。

もしご興味いただき次も読んでいただければ幸いです。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ