8_逢瀬
投稿大幅遅刻ですね。すみません。言い訳を連ねるとすれば、夏風邪を引いておりました。皆さんも十分に気を付けましょう。布団の上に寝転がっていては時間の無駄ですよ…… (かなり短めです)
白磁のように眩く輝く廊下を進む。些少な汚れも見当たらず、抜かり無く手入れされていたのが見て取れる。
しかし我々六人がここに入って早五分、何ひとつとして動く物を見ていない。もしやもう全員此処から逃げたのだろうか。この計画は何かと杜撰だ。無きにしも非ず、である。
とはいえ任務放棄を敢行する理由足り得ない。我々の任務は施設内部に留まった容疑者の逮捕だ。作戦の成功を願い行動する他無い。
廊下の突き当たりに差し当たった時、久々の扉に行き着いた。
この施設、最初のエントランスホールから伸びた部屋以来殆ど廊下続きなのだ。偶に部屋がある事もあるのだが、其処ももぬけの殻である。
右手に続く廊下を無視し、目の前の部屋のクリアリングを行う。私は扉の右端に移動してA7を目線の高さに構える。
"ドガァァン"
ビルーが扉を人蹴りで蹴破る。手前に開くタイプの扉を蝶番を壊す事もせず蹴破っている。肉体改造済みの私でも一撃で蹴破る事など困難だと言えば、その異常性をありありと認識できるだろう。あくまであの丸太のように太い脚の筋肉の成せる技だ。
扉が破られた瞬間、部屋の手前左側に銃を突きつける。そこに誰もいない事を瞬時に確認し、皆とタイミングを合わせ、部屋の左奥まで進む。
「クリア」
誰からとも無くそう発する。緊迫した空気が幾分か緩和した気がする。入り口に近い所にいたエリスが部屋の電気を点けた。
そこに現れたのは寝室である。今までの無の部屋とは打って変わり、人が生活していたというのが見て取れる。しかしベッドから棚、小物まで全て薄く埃を被っている。もう使われていないのだろう。
部屋をぐるりと回っていた時、ふと枕元の小棚の上に置かれた写真が目に付いた。デジタル上のデータとして写真を保管するのが一般的な今、わざわざ現像化するとは一体どんな写真なのだろうか。手に乗ってガラス面に薄く乗った埃を払い除ける。
そこに現れたのは家族写真…だろう。海を背景に四人が写っており、左から母親、二歳ほどの男の子、五歳ほどの男の子、そして父親らしき人物だ。父親は顔がペンで塗り潰されており詳細が分からない。金髪の家族は仲睦まじく見えるが、それを踏み躙る何かがあったのだろうか。
「どうしたんだ?エヴァン」
その声にはっと、意識が引き戻された。
「いや、何でも無い」
音を立て無い様にそれを元の位置に戻し、皆の後を追うようにして部屋を出た。残した写真が妙に後ろ髪を引いた。
廊下を出て左側、先程無視した廊下は、途中から左側の壁がガラス窓に置き換わっている。そこからは生産ラインと思わしき様々な機械類や、実験施設と思わしき所も見える。大きなホールの様な区間に、様々な機械類が所狭しと並べられている姿は一般的な製薬工場のそれとは大きく乖離して見える。
しかしながら此処から見た限り人の姿は見当たらない。作戦が失敗していないか、再度不安になってきた。まあ私達は仕事をきちんと遂行している。仮に失敗したとして、私達の責任にはならない無いと信じたい。
とにかく早く下まで下りなければ。そんな焦燥感が図らずとも皆の間にあるのか、足の進みが速くなる。
大きなステンレス製の扉の先に広がる空間は壮大であった。オキアミを飲み込む巨鯨の口の様に、広く自らを曝け出し私達を迎え出る。先程上から見た機械類は此処から見ればより大きく見える。三メートル程の高さはあろうか。カッ、カッ と靴を鳴らしながら間を縫って進む。部屋に響き渡る私達の靴音が、神秘性とも取れる非現実味を添加している。
部屋の奥まで着いた時、これまでと一風変わったが現れた。
「なんかドラゴンの顔っぽくてかっこいいですね」
エリスが私の耳元で囁く。そう、彼女の言う通り目の前にそそり立つその機械はまるで竜の頭の様な見た目をしている。蛇に似た、海竜と呼ばれる竜だ。端々に無骨な装飾が施されている。まるで教会の女神像の様に求心力を湛えたそれは、芸術品をも思わせる。
「うーん、此処にもいなそうだな。とりあえず本部に連絡しとくぜ」
そう言ってビルーが胸元から通信機を取り出した。
【こちら突入チーム、目標は確認できず。繰り返す……
本部との通信手段、あったのか…。いや、無ければおかしいのだが。何故全員に配らない?軽い憤りが沸々と湧き起こる。やはり今回の作戦杜撰がs……
"ウィーン"
視線の先七メートル程にあった、壁に見えた場所が開いた。
" カツッ カツッ "
静寂を彩る様に、顔が半分機械化した男が出てきた。左目は見えなくなったからか、カメラの様なもので補っている。あれは何だ?見たことも聞いたことも無い。未知だ。
【訂正。不審人物と接触。対話を試みる
ビルーが本部にそう呼びかける。
「やあ、皆さん。僕の名前はモーン=ベルセ。此処の施設長を兼任している、しがない薬剤師さ。団体様の見学かな?歓迎するよ」
少し掠れた声で男はそう言った。
【不審者を目標と断定。作戦を遂行する
「モーン=ベルセ、貴方には違法薬物製造の容疑が掛かっている。大人しく捕まっておけ。その方が双方楽だろう」
ビルーが言う。それまでの砕けた口調とは打って変わって真剣な口調だ。
「確かにそうだね。僕には時間も少ない。だけど僕はここで抵抗しない、というのは僕の得にならないと思ってるんだ。まあしょうがないよね。早く済ませよう?僕に残された時間はもう僅かなんだ」
「貴方にどんな事情があるのか我々は知らないが、そう言うのならば遠慮は無しだ。捕まってもらう」
ビルーのその言葉を待っていたかの様に竜頭の機械が動き出した。
作者のおはなし1
改めて大幅な遅刻、申し訳ないです。
では次の更新についてです。作者のリアルの都合もあるので確実なことは言えませんが、今週中にもう1話更新が入ると思います。できるだけ早く1幕を終わらせたいので。
作者のおはなし2
暑い暑い暑ーい!昨年ってこんなに暑かったですか?分かんないですけどとにかく辛いです。うぅ…。WBGT(暑さ指数)が31近くなっているのも目にしました。さっさと夏が過ぎて秋が過ぎて冬が来て……は今度は寒い寒いと騒いでますね。取り敢えず今はクーラーの効いた部屋でミルクアイスでもなめておきましょう。涼しいですから。