「猫にも花にも雲にも、挨拶するタイプのひとなんです」
【おはなしにでてるひと】
瑞木 陽葵
「公園を歩くだけの朝」が、いちばんリッチな時間だと思ってる。 猫に挨拶したり、花に話しかけたり、スマホのカメラを構えたり。 ――そんな朝に付き合ってくれる人がいるの、奇跡だと思う。
荻野目 蓮
陽葵の“朝の公園ルーティン”はもはや生活の一部。 猫にも花にも、自然に反応する姿を見ながら、 「そういうとこだよなあ」と思いつつ、隣を歩いてる。 ――必要なときだけ、静かにツッコミとフォロー担当。
【こんかいのおはなし】
「歩くぞー!」
朝テンションは、意外と高い。 日曜日の朝、公園に入ると空気がすこしだけ透き通ってる気がする。
「にゃー、おはよー」
「それ、向こうから挨拶返ってきたことある?」
「たぶん、耳ピクッてしたのが“おはよう”だと思ってる」
「陽葵脳の翻訳すごいな」
そのまま、花壇の前で立ち止まる。
「わ、これ咲いてる……! 昨日までつぼみだったのに」
スマホを取り出して、ぱしゃ。
「毎日観察してる人のコメントじゃん」
「だって咲いた瞬間に立ち会えるって、ちょっと奇跡でしょ?」
「……わかる気もする」
道すがら、ウォーキング中のご婦人に「おはようございます」と笑顔で挨拶。
「いい朝の挨拶だったね」
「ね、ああいうの、声のトーンで元気もらえる」
池の前で、きょろきょろさがしてみる。
「なんか、今日いないかも……あのカモたち」
「きっと休暇だな」
「カモにもオフが必要だもんね……」
最後に空を見上げる。
「見て、あの雲……ライオンの横顔みたい!」
「雲見てるとき、ほんと生き生きしてるな」
「空って、自由って感じしない?」
「陽葵って感じだな」
「どゆこと!」
「なんでも思いついたこと、すぐ言う自由人」
「自由じゃなくて、感性豊かって言って?」
「はいはい」
ふたりでベンチに腰かけて、
飲み物のフタをきゅって開けた。
「こうやって“ただ一緒にいるだけ”って、けっこう貴重なんだよ」
「うん。俺もそう思ってる」
「お、名言っぽい」
「録音する?」
「……それはちょっと照れる」
風が吹いて、木の葉がふわっと揺れる。
ひとやすみ、ちいさな朝の宝物みたいだった。
【あとがき】
挨拶、花、雲、池の水面。 日常にあるすべてが、ふたりの会話のスパイスになる。 “なんでもない朝”が“記憶に残る朝”になる瞬間。 その時間を分け合えるって、なんて贅沢なんだろう。