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パズルゲーに転生した侯爵令嬢はパズルで自由を掴み取りたい

作者: いちしろ

「レイラ・パズラット!君との婚約を破棄する!」


 騒がしかった夜会の雰囲気が一変し、シンと静まり返る。

 整った顔立ちの金髪のイケメン男性、そして小リスのような愛くるしい瞳を潤ませながらその男性に寄り添う女性。

 そんな2人の前に立つ私、パズラット侯爵家長女のレイラ・パズラット。

 突然の婚約破棄宣言に頭が真っ白に……


 ん?

 真っ白??


 気が付いたときには頭の中は真っ白などではなく、色鮮やかな様々な情報が滝のように溢れ、そこで理解した。

 そう、婚約破棄の衝撃で思い出したのだ。

 私、転生してるー!


 そうだ、これは前世でやりこんだ乙女ゲー要素を盛り込んだパズルゲー「オーブ・サンクチュアリ」の世界だ。

 いや、パズルゲー要素のある乙女ゲー? わからんけどどっちでもいいや。


 オーブと呼ばれる光の球に思いを込め、敵を倒したり仲間と絆を深めたりしながらヒロインがイケメンたちと愛を育んでいくというストーリー。


 オーブに思いを込める……というのがパズル部分。

 オーブを動かして、同じ色のオーブもしくは同じ形のオーブを縦横斜めにいずれか4つ並べたらオーブが消えるよくある形式のパズル。

 クリア=思いが通じた……ということになる不思議な世界ゆえに、ひたすらパズルをクリアし続ければストーリーが進むゲームなのである。


 パズル自体は様々なモードやステージがあり、やりがいがあって面白かったと思う。ハイスコアを狙ったり対戦したり障害物があったりと。

 しっかしストーリーの出来が……ね?


 よそ見しながら廊下を走って王子とぶつかったヒロインが、王子の側近から厳しく注意を受けたときの王子とのやりとりなんて本当に酷かった。


「ぶつかってしまい申し訳ありませんでした!私は決して王子に害をなそうとしたわけではないのです。私の思いはオーブを見ていただければわかります」

「ああ、では君のオーブを見せてもらおう」


 パズル開始→ヒロイン勝利


「君を信じるよ。君ほど真っ直ぐな女性はいない」


 ……で王子からの好感度が上がるんだもんなぁ。

 意味不明すぎてもう笑っちゃう。


 ほかにも仲違いしていた者たちがパズルを通じて仲良くなったり、跡取り問題で悩んだ貴族が息子たちにパズルで争わせ勝ったほうを跡取りにしたり、パズルが強い者を重役として起用したり、パズルトーナメントで優勝した者を娘の婚約者としてあてがったり、最終的には敵国が攻めてきたときに国同士がパズルで勝負したり……と、話し合いでうまくいかないときはパズルをすれば万事解決というご都合ストーリー。


 ゲーム中は「ストーリーはパズルのオマケ!」と思って笑いながら読み流してたけど、今はこの世界がリアルだ。

 となるとこの後は……


「レイラ、聞いているのか!」


 おっと! 聞いてたけど考えごとで頭いっぱいで目の前の人たちを無視してたわ。

 そうそう目の前の金髪イケメンが、私の婚約者だったローカス・フォルト侯爵令息。

 隣の小リス系女性はヒロインだ。ゲームではデフォルト名がなかったから名前は知らんけど。


 とりあえず無視し続けるわけにもいかないし婚約破棄する理由でも聞いてみようか。


「ローカス様、私に何か問題がございましたでしょうか」

「特に無い!」

「え」


 自分含め周囲の時が止まったかと思った。

 止まったというかもう凍りついたよねみんな。

 何言ってんだコイツ……ってなったよね。


 そんな凍りついた空気に気付かないのかローカスは生き生きとしながら話を続ける。


「僕は真実の愛を見つけた。ミルフィの輝くオーブこそが僕の道標なんだ」

「ローカス様……」


 あ、ヒロインの名前ミルフィっていうんだ。へー。

 前世の記憶を思い出した今となってはローカスなんてどうでもいいんだよね。

 よし、とっとと破棄しよう!


「婚約破棄の件、承知いたしました。では父には私から伝え……」

「オーブで思いを伝えあおう!僕が勝ったら婚約は破棄してもらう。君が勝ったら婚約破棄は取り下げよう。だが僕は決して負けない!この愛をオーブに託そう!」


 はい!?

 今普通に婚約破棄了承したよね私!

 何でわざわざパズルで決着つけようとするの!?バカなの!?

 ああ、オーブ・サンクチュアリの世界だからか。ほのぼのだろうがシリアスだろうがお構い無しに唐突にパズルぶっ込んでくるしょうもないストーリーだもんね……。


「出でよオーブ!」


 ローカスが高らかに声を上げた瞬間、私とローカスの目の前に見慣れたものが現れた。

 縦長の四角い枠、その横にはこれから降ってくるであろう色とりどりのオーブ……あのパズルの画面だ。

 どういう仕組みで現れたんだろうとか、実際どうやってオーブ動かすんだろうとか、気になることはいろいろあるけどとにかく一番言いたいのはこれ。


 ……シュールすぎない?


 華やかな夜会の会場で目の前にいきなりパズル画面出てきたんだよ? 誰か突っ込もうよ! あ、突っ込まないか。オーブ・サンクチュアリの世界だもんねそうだよね!


 あ、呆けてる場合じゃない。

 言うことは言っておこう。


「ローカス様、私が勝利した際は婚約破棄の取り下げよりもお願いしたいことがございます」

「何だ? 言ってみるがいい」

「私が望むのはー……」



 ***



「ん〜! 平和だわー」


 体を伸ばしながら一息つくと後ろから声がかかる。


「レイラお嬢様、紅茶が入りました」

「ありがとうディル」


 声をかけてきたのは、肩までの黒髪を後ろでひとまとめにし清潔感のあるジャケットを着こなしている従者のディル。

 慣れた手つきで香りの良い紅茶とクッキーを並べながら人当たりの良い穏やかな微笑みをこちらに向けてくる。


「それにしても本当にこれで良かったのですか?」


 ディルは遠慮がちに尋ねてくる。


「あの夜会でのこと?」

「はい……」

「だから、私としては願ったり叶ったりだったんだってば! 信じてよ!」


 目の前に広がる湖を見ながら私はキッパリと言う。


『私が望むのはー……』


 あのときに私が望んだのはローカスの家であるフォルト侯爵領の一部、今まさに私の目の前に広がっている湖畔一帯の地域。

 領民も住んでおらず、フォルト侯爵家がたまに避暑で使用する別荘があるぐらいの場所だ。

 衆目にさらされての婚約破棄宣言、もしオーブでの勝負に勝ったとしても心に負った傷は癒えない、その傷を癒すために静かな場所で過ごしたいという体で周りの同情も誘いながらお願いした。


 そこからは怒涛のオーブ勝負の連戦だった。


 ローカスに勝利したら「僕には領地を渡す権限などない! 父と交渉してくれ」と言われ、


 ローカス父であるフォルト侯爵との勝負に勝利したら「陛下から賜った領地を無断で渡すことはできない」と言われ、


 颯爽と登場した王子に「私に勝ったら父と話す機会をあげよう」と言われたのでサクッと倒して、


 最終的には陛下と直接勝負して勝利してこの地を手に入れたのだ。


 途中で「何て気高いオーブなんだ……ぜひ私の婚約者に」とか言い始めた王子をもう一度全力でぶちのめす作業も発生したけどね。

 前世でやり込んだからねこのパズル。同時消しも連鎖もお手の物となっている私に敵はいなかったわハッハッハ。あ、ちなみにオーブは「動けー」って念じたら自由に動かせたのよ。


 なぜこの地を欲したかというと、金のため。


 ローカスではない別の攻略対象者のルートで判明するんだけど、この湖のほとりには大昔に作られた地下へと続く入り口があって、その先には大量の金塊があるの。最っ高じゃない!


 これを元手に個人的に商売を始めてもいいし、別の国に渡ったっていい。

 この国にも自分の家にも思い入れはない。家を出ることにしたらたくさんの人に止められるだろうけど、全員パズルでぶちのめせば問題ない。そういう世界だもの。


 ただもし家を出るとしたら一つだけ心残りがある。

 それはー


「お嬢様? お嬢様が何をお考えかはわかりませんが、私はどこまでもお嬢様に付いていきますからね」


 目の前の彼の一言で、その心残りも無くなった。

 ゲームでは非攻略対象者、私のそばに控えるモブキャラだったディル。

 そのビジュアルの良さに「なぜ攻略できないんだ!」とか「非攻略対象者ゆえにしょうもないストーリーに巻き込まれなくて良かったのかもしれない!」とか複雑な思いを抱かせる男である。

 見た目はどストライク、そして前世を思い出す前も思い出した後も変わらず優しく私のそばにいてくれる性格の良さ。惚れるなというほうが無理でしょう……!


 今後も私利私欲のために私は全力でパズル勝負をするだろう。だってそういう世界だもの。

 でも人の気持ちはパズルで買う気はない。

 パズル力と、金塊で成す予定の財力しか取り柄のない私だけど、目の前の男性をどうしたら落とせるか。

 これから一生かけて頑張ってみようと思う。


 と思っていたら、頑張る必要なんてなかったことに私が気付くのはそう遠くない話。

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