ニルリティ/高木 瀾(らん)(1)
迷惑系の動画配信者なんてモノが、この世に発生してくれたせいで、ホラー映画が作り易くなった。
そう云う話は良く聞く。
ホラー映画ファンに向けたものや、映画祭に出品したり、賞狙いとか、ホラー映画ファンの成れの果ての監督が好きに作って良い場合なんか……ではないデート・ムービーに丁度いい程度のホラー映画では、わざと犠牲者のキャラをステレオ・タイプなモノにするらしい。
まぁ、それは、そうだ。
本当に怖いホラー映画を観た後で、ホテルにしけこんでも、やる事をやる気分にはならないだろう。
そして、迷惑系の動画配信者が、あからさまに危ない場所に入り込んで酷い目に遭っても、まぁ、迷惑系の動画配信者達以外の世の中の大多数の人達にとっては、怖いは怖いが、あくまで他人事の自分の身に降り掛らずに済むようなタイプの怖さだ。フィクションとは言え「明日は我が身」の話などではなく、コンテンツとして消費しているが内心では阿呆と思ってる奴らが死ぬか……死ぬ方がマシな目に遭うだけの事だ。
と言っても、私の場合、どうやら生まれ付き「恐怖」って感情を欠いてるらしいせいで、ホラーはコメディの一種にしか思えないが。早い話が、一般的なホラー映画の「怖がらせる為の演出・展開・カメラワーク」などが、私にとっては「笑わせる為の以下同文」として機能するらしい。
私にとっては、デート・ムービー向けのホラー映画はベタだが退屈凌ぎになる程度のコメディで、ホラー映画ファンの成れの果ての監督が好きに作ったホラー映画は斬新で大爆笑出来るコメディだ。
そのせいで、去年、高校に入った途端に再会した(双子の妹のクラスメイトになったらしい)小学校の頃の初恋の女の子に思いっ切りフられた。
デートの時に、デート・ムービー向きのヤツではなく、本当に怖い系のホラー映画を選んでしまった挙句、思いっ切り大爆笑してしまったのだ。
そして、その日のデートが終る頃には、小学校の卒業式の日のファーストキスは、何かの拍子に脳裏に浮んだ途端に、ほんの数秒間とは言え平常心を失なうクラスの嫌な思い出と化し、ついでに、彼女から別れ話を切り出された時に、そんな事を言われるとは思わず、そこそこいい喫茶店で一番高価いコーヒーを頼んでしまったせいで、すっかりコーヒーが嫌いになった。
「あれ? あいつらか? 警官どこに行った?」
私は四輪バギー「チタニウム・タイガー」で、相棒は三輪バイクに乗って現場に向かっている途中に、問題の動画配信者2名を見付けた。
しかし、監視カメラに映っていた職務質問していた警官が見当たらない。
「近くの防犯カメラの映像から……」
「んっ?」
動画配信者2名が、虚ろな眼差しで、こっちを見て、首をかしげる。
「職務質問してた警官の足取りを追ってくれ」
『了解。少し待って』
私の依頼に対して、後方支援チームから返答。ちなみに、去年フられた私の元カノだ。
「問題ない。ああ、こっちは、こっちで……どうした?」
相棒が何かに気付いたらしいので、私は、そう訊いた。
「こっちの存在に気付かれたみて〜だけど……」
「異界の魔物だか悪霊だかに取り憑かれてるとしても……そいつらは、一般人からすると私達の格好が変なモノだと理解してるのか?」
「何か、奴らも、こっちを変だと思ってるぽいが……何で変だと思ってるかまでは判んね」
「どっちみち、心霊関係の事件なら、お前がメインで、私はサブ……」
「うわっ⁉」
動画配信者2名が口を大きく開いた途端、相棒が叫びを上げる。
どうやら、口から気だか霊力だか魔力だかを放出して攻撃してきたらしい。
しかし、私は、元から霊感とやらが一般人の平均を更に下回ってる上に、私が着装している強化装甲服「護国軍鬼」は、魔法系・心霊系の攻撃・干渉を、ほぼ一〇〇%防ぐ代りに、着装者は、その手のモノを認識出来なくなる、という副作用が有る。
要は、この手の事件が起きた場合は「着装者だけは生き残れるが、事件の解決や被害者の救助には、支障が大有り」という代物だ。
なので、物理攻撃で何とかなる相手は、私がメインで、相棒がサブ、魔法・心霊関係の事件だと、相棒がメインで、私がサブになる。
「敵の攻撃の威力は、どの程度だ?」
「おめぇ、何で、この手の話になると、何つ〜か『解像度』だか何だかがクソ低い質問しか出来なくなるんだ?」
「見えない。知識がない。自分が何が判ってないかさえ判ってない。で、こいつらはブッ殺しても大丈夫なヤツなのか?」
どうやら、相棒は、動画配信者に取り憑いた悪霊だか魔物だかの攻撃を防いでるようだが……困った事に、私には、ダンスかパントマイムをやってるようにしか見えない。
多分、霊感とやらが有る人間からすると、辺りには、気だか(中略)だかが飛び交って見えるのだろう。
「調べてみね〜と、それも判んね」
「理解した。とりあえず、対象を拘束する」