アータヴァカ/関口 陽(ひなた)(1)
「お前、明日、学校は大丈夫なの?」
現場に向かうトラックの中で、あたしは、相棒に、そう質問。
「今更、それ、訊くか?」
相棒は面倒臭そうに返事。
明日は、一応、土曜日だが、九州の進学校では、別に、成績が悪くなくても補修授業を受けるのがフツ〜だそうな。
なんで、九州の連中の中には、昔の漫画やアニメによくある「成績が悪いんで補修」って意味が判んないのが居るらしい。「補修って、成績がフツ〜でも進学校だったら受けさせられるモノだろ」って感じで。
「お前、この稼業をやりながら大学に行くつもりなら……」
「行くつもりだ」
「高校行かずに、大検受けた方が良かったんじゃね?」
「ああ、そうすりゃ良かったと後悔してる」
あたしは強化装甲服「水城・戦闘型」の、相棒は、同じく強化装甲服「護国軍鬼4号鬼」のヘルメットを被る。
「制御AI起動。着装者コードネーム『大元帥明王』」
「護国軍鬼4号鬼、制御AI起動。着装者コードネーム『羅刹女』」
『制御AI起動承認。承認者コードネーム「三角龍」』
後方支援チームの1人の声と共に、ゴーグル型の網膜投影モニタに次々と英語のメッセージが表示され……えっと、何回見ても「今んとこエラーなし」以外には、良く意味が判んね。
『無線通信、聞こえてますか?』
「問題ないっす」
続いて……何故か、某有名韓流女性アイドルの最新曲が流れ出し……。
『聴覚センサのチェックです。何が聞こえました?』
「タイトル知らないけど、最近良く聴く曲」
『視覚センサは問題有りませんか?』
「問題無しっす」
次の瞬間……トラックのコンテナ内の電灯がOFFになり……。
『暗視センサ確認して下さい』
「はい。視覚センサを暗視モードに切り替え……問題無しっす」
再び、電灯がONになる。
『装備確認お願いします』
「えっと、メイン焦点具、バイクに積んでます。サブ焦点具1、確認。サブ焦点具2、確認。サブ焦点具3、確認……」
焦点具ってのは、早い話が、西洋魔術で言う「魔法の杖」だ。
と言っても、杖型の奴ばっかじゃない。
これが無けりゃ「魔法」が使えねえって訳じゃねえけど……有ったら術の威力は上がり、しかも霊力の消耗も減らせる。
あたしがメインで使ってるのは、接近戦用の武器を兼ねた大型ハンマ、そして、師匠の形見である拵えを今風にした脇差、あと、強化装甲服の両腕と両足の装甲内に格納された「御札」型のヤツが4つだ。
やがて、トラックが停車。
あたしと相棒は、コンテナ内から出ると、軽く体を動かす。
これも、出撃前の動作チェックの一環だ。
「さて、行くとするか……対象は?」
『ここから少し先で、県警の警官に職務質問されているのが、防犯カメラに映ってました』
……。
「また、このパターンか……」
相棒がゲンナリした声で、そう言った。