破墓
一六歳の誕生日は、ここで迎えた。
もっとも、「ここ」と言うのは、あくまで、遠隔操作しているロボットが居る「国立第5魔法学園」跡地であり、私の本当の体が有る場所では無い。
あのロクデモない出来事が起きたのも、その年だ。
運よく、あの「同時多発事故」のほんの一〇日ぐらい前に、「退学」に成功した御蔭で、今も生きていられている。
今年と同じく(一〇年前の富士の噴火の天候への影響は、まだ残っているが)もう梅雨入りしていたと思う。
「あっちからマズい気配が近付いて来とります。複数ですが……一まとまりになってるようです」
この件に協力してくれている地元の「魔法使い」系のコミュニティに所属している「魔法使い」系の五〇過ぎの男が、そう言った。
ひょっとして、こいつは……このロボットの「体」だけを見て、変性された声だけを聞いてるから、敬語を使っているだけで、私がアラサーの女だと知ったら口調が変るんじゃなかろ〜か?
そんな、しょ〜もない考えが頭を過る。
「こっちは、自動車の走行音を検知しました。EVじゃなくて、ガソリン車かディーゼル車です」
『力づくで停車て下さい』
後方支援チームは、そう返答。
こっちのカメラに映っている映像や、私の発言は、基本的に後方支援チームに全て送信されている……と言うか、私の本当の体のすぐ側に後方支援チームが居る訳だが……。
ホラー映画なら、心霊スポットでは、携帯電話が通じなくなるのが定石だが、幸か不幸か、物理的な肉体を持たない魔物や悪霊が電子機器に干渉出来た実例は、今の所、無い。
心霊が電子機器に干渉出来たなら……まず、このロボットなんて動かなくなるし、EVじゃなくても、ここ二〇年間ぐらいに製造された自動車は車載コンピュータが壊れたら単なる粗大ゴミと化すので、車で逃げる事さえ出来なくなる。ホラー映画より絶望的な状況だが、「魔法と科学技術は互いに相性が悪い」のと似た理屈で、その手の心霊は人間に取り憑いて肉眼で見ない限り、電子機器の存在そのものを認識出来ないようだ。
もっとも、精神操作系の能力を持つ悪霊が人間に「外部に電話が通じなくなっている」という強い暗示をかけた例は有るらしいが。
夜……しかも、小雨で視界が悪い中、車のランプが私達を照らし……。
「道の脇に居て下さい」
私は「魔法使い」に、そう声をかける。
「わかりました」
「うおおおおッ‼」
叫びの有無に関係なく、ロボットの性能は変らないが……気分の問題だ。
走って来た軽ワゴンに正面からブチかましをやり……流石にパワー負け。
「両脚部パイル射出」
制御AIにそう指示すると……アルファルトに脚部に仕込んだ杭が突き刺さり……。
「⁉」
音が何か変だ。支援AIが、そう指摘してるが……その指摘が無くても肉眼ならぬ肉耳でさえ、過去に同じ真似をやった時とは音が違うのが判る。
続いて、バランサー関連のエラーが次々と出て……。
下を見る。
「ウソだろ……」
杭を突き刺した事による路面のヒビが予想より遥かに酷い。
しかも、そのヒビから泥水が吹き出て……あと、路面が異様に凹んでいる。
そう言う事か……。
排水なんかを考慮してない急拵えの道路が、十数年間、メンテされていない。
アスファルトの強度は予想以上に落ちてて……更に、その下の地面は液状化している訳か……。
「下脚背部装甲、展開」
私の音声指示と共に、展開した装甲が路面にふれる。
かんじきのように、路面との摩擦力が増大し……。
やがて、車は止まった。
中ではエアバッグが展開されているようだ。
多分、車載コンピュータによる緊急停止だろう。
「車に乗ってる連中の確認お願いします。人数と……あと、可能なら状態を……」
私は、魔法使いに、そう頼んだ。
「は……はい……」
懐中電灯が車内を照らし……。
「えっと……男性3名。見た感じでは、二〜三〇代ぐらい……」
なるほど、日本有数の心霊スポットと化して、「浄化完了見込み:早くて数十年後」という状態になってる「国立第5魔法学園」跡地から生配信をやってたマヌケ2名と……カメラマンだろう。
「あれ?」
「どうしました?」
「服装が例の動画と違うみたいですけど……」
「えっ?」
『え〜、こちら、久留米チームの後方支援部隊です』
そう連絡が入る。
いつもなら、モニタなんかに、どのチームの所属の誰の発言かを示す情報が表示されるが、今回の件に協力している地元の魔法使いコミュニティの人達には、簡易式の音声通信機しか渡してないので、無線通話の際は、さっきのように名乗る必要が有る。
『えっと、ウチと他複数のチームで、例の生配信動画の映像と音声を分析してみたんですが……』
「映像だけじゃなくて音声も? 何を分析したんだ?」
『あの生配信の撮影現場には、カメラマンとカメラに映ってた2名に複数のスタッフが居た模様です。少なくとも、照明とマイク係が各1名づつ』
「他のルートで結界の外に出た奴が居ないか、探して下さいッ‼」
思わず叫んだが……そうは言っても、ここは、日本有数の心霊スポットの1つ。
魔法が使えない私でも……探知系の魔法を使う事さえ危険な事は判っている……と言っても門外漢の「理屈だけの理解」かも知れないが……。
ほんの数日前、人生最悪の日を迎えたと思っていた。つまり、三〇歳の誕生日だが……。
だが、それよりロクデモない日々は……今、始まったばかりだった。