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輝く星の夜に

作者: 来栖胡桃


もしも一年に一度だけ逢うことが出来るなら誰に逢いたいですか?


そんなキャッチコピーのCMがふと耳に入る、そういえば、そんな季節になるのかと、ふと、カレンダーに目をやる、カレンダーは7月を指していた


7月7日それは織姫と彦星が逢う事を許された日


私の地元では織姫と彦星を決めて、逢瀬が円滑に進むように七夕祭りを行う。


今年は私が織姫の番で今日は彦星との顔合わせの日だった。


巷では、織姫と彦星に選ばれたら結ばれるというジンクスがあり、恋人同士でなると永遠に結ばれるらしいと噂されている。


彼氏持ちでもない私からしたらとてもうれしいことだった。

いい人に出会い、もしかしたら一緒になれるかもしれないという淡い期待を持ちながら、身支度を済ませ、私は彦星役の人との待ち合わせの喫茶店へと向かう。


数分待ってから、向こうの方からやってきた男の人を見ると私と大学が同じの如月きらさぎ れんだった。


如月くんは女の子慣れしていて、よく女の子と話しているところを見かけてる。


「初めまして、じゃないね、木崎きさきさん。」


「そうだね、如月くん」


私たち二人は珈琲を頼み、たわいもない話を始めた。


あの授業はどう?とかあの先生はどう?とか話したことはあまりなかったけど結構話しやすい人だなと話をしてみて思いながらふと、思ったことを口に出そうと思い、口に出す。


「君が織姫役だなんてびっくりだよ!」


「私も如月くんだなんてびっくりだよ!」


二人で同時に言ったせいで、くすっと二人とも笑ってしまった。


「僕のことは蓮でいいよ、僕も木崎さんの事は天音(あまね)って呼ぶからさ」

「うん、わかった。蓮は、相手誰だと思ってた?」


「僕は彼女がいるしさ、彼女かな?って思ってたよ。別に天音が嫌なわけではないけどね。」


見た目以上にちゃんとしているのに少し驚いた。よく女の子と喋って言うところを見ているから女たらしと勝手に思っていたが、そんなことも無くしっかりと彼女持ちだという事をハッキリと言ってくれるなんて少し好感が持てた。


「わかってるよ、一応、永遠に結ばれるっていうジンクスあるしね」


「そうだよなぁ、でも、僕は天音で良かったかもなぁ」


彼は嬉しそうにしながら呟いた。


それを聞き、少し、ドキリとした自分がいただが、それは彼にとっては普通なことで、特に意味もないのだろうと考えていた。


「私も蓮でよかった、知らない人だったらって考えるとすごく不安だったの。」


「だよな、僕も不安だったよ。」


「明日から稽古だったね?確か。」


「そうだよ、明日から稽古。よろしくな。」


「こちらこそよろしくね。」


私たちは明日会う約束をして、その日はそこで別れた。


家に帰ると明日の支度を済ませ、今日の事を少し思い出し、明日から頑張ろうと自分を奮い立たせ、床についた。


次の日、私は織姫の衣装合わせに来ていた。


毎年、毎年、その人に合わせて作り直すらしく、色々とやることが多かった。


あれやこれやと衣装合わせを終えた私は、彼と一緒に打ち合わせをしていた。


織姫と彦星は舞を踊ったり、町内を歩き回ったりしなければならない。


その為、早めの段階で舞の練習をしなければならないのだ。


今日から舞の練習が始まったが、二人で舞う場面が多く、覚えるのが大変だった。


「天音、大丈夫か?だいぶ疲れてるけど」


「大丈夫だよ?」


「本当か?だいぶ顔に出てるぞ?」


「大丈夫だよ、もう少し休憩したら治ると思う」


「ならいいけど、無理禁物だからな。」


彼はそういうと頭をなでてくれた。


こういう何気ない行動に何故か私は幸福感を覚えていた。

そう思うたびに、彼には彼女がいるのにと思うと罪悪感が大きくのしかかる。


その日の稽古が終わり、彼と一緒に帰ることになり、疲れてしんどいはずなのにもかかわらず、とても体が楽に感じる。

まだ知り合ってそこまで経っていないのに、何故か、どんどん彼から目が離せなくなり、自分が彼に惹かれてしまっているのを自覚し、少し、緊張していると


「つかれたなぁ、久しぶりにあんなに動いたよ。」


急に声をかけられたわけではないが、少しびくっとなりながら答えた。


「本当、あんなに動くと思ってもなかったよ。」


私の家の前まで送ってくれた彼は、また明日というとそのまま帰っていく。

その背中を少し、見つめてから家に入った。


毎日毎日、私たちは七夕祭のために舞の稽古を練習し続けた。

蓮といる時間が少しずつ伸びるのと同時に私の心の中に恋心が芽生えていった。

彼には一緒になる彼女がいるというのに、彼といるとドキドキして目も見れなくなってしまう。

こんな気持ちになってしまうのならいっそ私の方から告白して、玉砕して気まずくなってしまった方がいいんじゃないかと考えをぐるぐるさせていると蓮が声をかけてきた。


「天音、今日時間ある?」


「うん、あるよ。どうしたの?」


「いや?別にあるなら公園で話したい。」


「うん、わかった。」


私たちは練習が終わると公園へ向かった。

公園へのベンチに腰をかけた。

次の瞬間、気付いた時には蓮の腕の中だった。


「ダメなのは100も承知だけど、抑えられなかった··········」


そう言われ私は顔を赤らめる。

どうしてこんなに好きな人から言われる言葉は全て心地よいものになってしまうのだろうと考えてしまう。


「僕に彼女がいるのは分かってる。だから、こんなことをするのがダメなのも分かってる。でも、こうして天音といるうちにどんどん自分の中で天音の存在が大きくなってきているのも事実なんだ」


そう言われてキュンとしてしまった自分も悔しい··········。

どれだけ言葉を並べようと結局は彼女さんを裏切る事になるのは明らかなんだ。なのに、彼から紡がれる言葉を待っている自分もいるのがとても憎らしい。


「僕とつきあっ」

「待って!それ以上は言わないで。私も何も無かったことにするから、今日の事は忘れよ?」


そう言って、私は彼の腕から逃れ、サッと立ち上がり何も無かったかのように歩き出す。


「天音、待って!僕は·····君を·····」


彼が私の腕を掴んだが、私はそれを振り払った。

彼は振り払ったのを見て、俯いた。


「おやすみなさい」


そう一言彼がポツリと呟いた。


私はその場を逃げるように立ち去った。


本当はあんな風に言われて嬉しかった。


自分が好きだと自覚してしまった彼からそんな言葉が紡がれるなんて思ってもいなかった。

彼女がいるにも関わらず言ってくる人だったのかという絶望感が心に深い闇を落とす。


私はそんな風に告白なんてされたこともなく、悠々と暮らしてきたこの私に春が来たというのは嬉しかった、相手は彼女持ちでということを考えるとどうしていいのかわからなくなっていた。


好きな人から告白されるというのはこんなにもドキドキするんだと実感したと同時に明日からどんな顔をして彼に会えばよいかわからなくなっていた。

好きだったからこそ、彼のあの行動はとても悲しく、つらかった。

その日はとても悲しく、一晩中、泣いていた。


翌朝、私は真っ赤に腫らした目を保冷材で冷やして、少し目の腫れを抑えてから、家から出て、大学へ行こうと歩いていると後ろから誰かが後ろから私の名前を呼んでいるのが聞こえ、立ち止まり後ろを振り向くと息を切らしている蓮君がいた。


「昨日は本当にごめん。急に言われたし、戸惑ったと思う。だけど、最後まで話を聞いてほしい。

このままにしておきたくないから。」


そう言われ、とりあえず、話くらいは聞いてあげようと思い、近くにあった公園のベンチへと腰かけた。

隣に彼がいる。認識したとたんに鼓動がどんどん早くなっていくのを感じる。

本当に私はこの人が好きなんだと実感すると同時にこの人には彼女がいて、自分の入る隙なんて一つもないと思うとどんどん自分がダメな人間であると自覚する。


「ごめん、急に呼び止めて。講義とかは大丈夫?」


「講義は今日はない日だけど、舞の稽古があるからじっとしていられなくて……」

講義自体はなかったが、一人でいると色んな感情が溢れてきて涙が止まりそうになかったから、気分転換に大学で友達と話をしようと思っていただけだった。そんなことを考えていると彼は意を決したように話し始めた。


「昨日のことなんだけど、本当に天音が好きなのは本当。でも、最後まで話を聞いて欲しかった。実は、彼女と別れたんだよね。七夕祭の準備が始まるとさ色々忙しくなってどんどん会えない時間がつづいてさ。」


彼は少し悲しい表情をしながら、少し腰を曲げ、前かがみになりながら、何かに祈るように目を伏せた。


「稽古の帰りに彼女の家に寄ろうとしたら、別の男とさ、キスしてるの見ちゃってさ。俺浮気されてた。」


そういうと彼は静かに肩を震わせていた。

その光景を見て、蓮の悲しみを私にも少し背をわせてほしいと思った私は彼の手を握った。


「私も最後まで話を聞かなくてごめんなさい。最初会った時に彼女いるからって言ってたから。そんなことになっているとは思っていなかったの。」


彼の震える手をぎゅっと握りしめながら、自分の気持ちに素直になろうと決意し、話し出す。


「蓮が好きです。告白されたときとてもうれしかった。だから、答えはよろしくお願いしますかな」


そう私がそういうのと同時に顔をパッと上げ私を見上げる。

彼の目が泣いていた影響か、とてもうるうるしていて、目が合ったのが恥ずかしくなりパッと手を放す。

それと同時くらいに蓮が私に抱き着いてきた。

その勢いに負けて私は体制を崩してしまい、蓮に押し倒されるような形になる。


「言ってくれて、ありがとう。俺も好きだよ。大事にするかからね、天音」

そういうと蓮は私に口づけを落とす。

彼とのキスはとても暖かく、彼の甘い匂いで包まれていた。


キスが終わると彼は身体を起こし、私をゆっくりと引き上げてくれた。

彼の顔が見れずにいると、スマホがけたたましい音を鳴り響かせる。

そこで、正気に戻り、慌ててスマホを止める。

舞の稽古が始まる20分前を指していた。

「そろそろ、行こうか」

「そうだね」

私達二人はベンチから立ち上がるとゆっくりと稽古場へと歩みを進める。

稽古場につき、そこで別れた。


前以上に練習がスムーズに進み、とても楽しい一日になった。


彼との時間がとても愛おしく感じるようになったのはとてもうれしかった。

これかもどんどん彼との時間が愛おしく感じるのかと思うとそれだけで小躍りしたくなる気分だった。


練習も終わり、本番になっていた。


今日は、リハーサルを行うため、本番用の衣装を身にまとい通して舞を踊る。

蓮の本番用の衣装をまとった姿を誰よりも先に見れるというのは本当に嬉しかった。

そんなことを考えていると自分の着付けが終わり、リハーサル場所へ歩き出す。

先に着付けも終わっていたのだろう。

蓮が、他のスタッフさんと話し合っていた。

話が終わったのかこちらに顔を向けとても驚いた様子で、こちらに近づいてくる。

「天音、本当にきれいだね。一瞬誰かと思ったよ。」

彼はそういうとぎゅっと私に抱き着いてき、耳元でささやく。

「本当にきれいだよ、天音。流石、俺の大好きな彼女だ」

そういわれ、私は自分の顔が真っ赤になっているのが分かるくらいに体が熱くなる。

それと同時に本当に愛されているのを感じ、とても嬉しかった。

「ありがとう」

そう呟くと彼は満足したように体を離し、ニコりと笑うと舞台まで私をエスコートしてくれた。

無事にリハーサルも終わり、その頃にはあんなに明るかった空が今では満点の天の川が浮かんでいる。

今からは私と蓮は織姫と彦星へと変わる。

どれだけ待ち望んでも会えない二人が出会える唯一の日。

今日は雲一つない、晴天のおかげで、上には満点の天の川が広がっていた。

まるで私たちの舞を織姫と彦星が歓迎しているようだとその時、強く感じた。

恋人同士でなると永遠に結ばれるらしいと言われている七夕祭。

永遠に結ばれるのかどうかは分からないが、この瞬間が永遠に続けばいいなと思っていると、蓮から声をかけられた。

「さぁ、本番だよ、天音。楽しんで祭りを成功させようね。」

そういわれ差し出された手に手を重ね、うんと返事をし、歩き出した。








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