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名前のない"私"  作者: 月乃
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日常(2)




「自分が自分でなくなってしまうような気持ちになるんです」 




行きつけのヘアサロンで担当の美容師と話しているうちにふとそんなことを呟いてしまった


「そんなことないですよ!育児や家事、立派にやり遂げてこられたから今があるんですから」


「そう…なんでしょうか?ありがとうございます」



なんだか苦い気持ちでお礼を口にする

家事も育児も主婦なら誰でもしてることだ。私は専業だし、仕事と両立している人に比べたらかなり楽な生活であると思う


夫が働き、妻が家を守る。時代遅れではあるが、これは我が家に必要な役割分担であり、日常だ

ただ、家族のためだけに動く日常が続き過ぎて私が"何者"だったか分からなくなるだけで…



「奥様は働いたり習い事始めたりはされないんですか?」



深い思考の底にいた私にふと、声が響く



「考えてはいるんですけど…迷ってます」


「難しく考えずに色々な人と関わってみたら、またご縁が広がってきっと楽しくなりますよ!」


美容師の明るい声が反芻していく



小さい頃から体が弱い息子をサポートするために、今までずっと仕事をせずに家事と育児に専念してきた


これまで働き者の夫のおかげで有難いことに余裕のある生活をしてこれたし、なにも不満はないけれど、これ以上の何かを、充実感を望んでもいいのかな…?











「何か始めてみようと思って」

『いいんじゃないの?何するの?』




電話越しに聞こえる夫の声。仕事が忙しく週末にしか家に戻れない大輔との会話は専ら電話ばかりだ


「うーん…まずは勉強?かな…?」


スマホの向こうから夫の笑い声がする


『奈緒ちゃんずっと家事育児に一生懸命だったからやりたい事分からないんじゃない?』



図星。なんでこの人は私のことこんなに分かるんだろう。私より分かってるんじゃない?

興味があること、好きなこと、あるにはあるけど仕事にするほどの情熱はなく趣味にしたって続かない

お家の掃除や料理の方がよっぽど続いてる




『まあ、難しく考えないでさ、ゆっくり見つけたらいいんじゃないかなー』


大輔の言う通りだ。

焦って何かをしてもきっと挫折してしまうだろう




でも今の私には"何も無い"んだよ?




焦りのような、何かを失うような、虚無感のような、ただ真っ黒な自分の心の扱いが分からない



こんな贅沢な悩みごと、たくさんの"自分"をしっかり持って日々家族のため働く夫には言えないな


奈緒は通話の終わったスマホの画面をただ、見つめた。











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