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初夏
"何者"かになって生きないといけないのだろうか
名前も知られずただひっそりと生きていてはいけないのか
いつも息苦しく溺れそうだ
人口10万人ほどの栄えてるとはいえない、田舎。
家の前を流れる高い堤防に囲まれたゆるやかで大きな川は数年前に起きた豪雨災害の名残なのか、以前に比べて濁ってるように見える。
前はもっと濃い緑が美しく輝いていたのに。
自然が時代にとともに変化したのか、この景色を見る私の目が濁ってしまったのか、もう分からない。
風が頬を撫でてどこかへ吹き去っていく。
初夏の風はほんのり冷たく湿り気を感じる。
もうすぐ梅雨だ。憂鬱な、季節だ。
奈緒は座っていた堤防の階段からゆっくり立ち上がった。