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DAA - Blue -  作者: E-theL
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少年騎士と小さな王女

幼少期のエニシダさんと少年時代のリオネルのお話。

推定年齢、エニシダ8歳頃〜 リオネル15歳頃〜

私は今、色んなことを思い出して、クスクスと笑っていた。

温かいコーヒーを片手に、城の自室でくつろいでいる。

ゴージャスな椅子やベッドがあるにも関わらず、地べたに座り込んで友達からもらった手紙を呼んでいた。

友達ってのはちょっと遠い国のハルっていう男の子ね。

かなりワケありな子。なんか年上なのに年下みたい。

で、吸血鬼の友達が居たり、宇宙人と一緒に暮らしていたり。

顔は女の子って言っても騙せちゃうくらいに、キレイでカワイイし、頭もいいから文句なしなんだけど…なんていうか、恋愛の話になると逃げるかキレるか、ちょっとへんなとこがある。

宇宙オタクの……ってハルの説明ばっかじゃん!


「キャットが発情期で困ってるんだ、助けて」


手紙の中身を口に出して読みながら、私はゲラゲラと笑った。

キャットっていうのは、ハルと同居している宇宙人ちゃん!

宇宙人ちゃんには、性別という概念は無くて、見た目が女の子だったり、男の子だったりするんだ。

ノリが良くて私は好きだけど…ハルにとっては、研究対象で大事なサンプルなんだって。

ハルとキャットのことを話すと、実験体だとかなんとかって言ってるけど、実際はかなりの仲良しだと私は見てる!


それはそうと、今はちょっとムカムカしててさ…だからちょうど昨夜届いたハルの手紙を読んで、気晴らししてたんだ。


リオが数日間、城に居ないんだってさ。

彼が行きそうな城のあちこちを探し回っても見当たらないし、私が帰ってくればすぐにでもおかえりってしてくるはずだから、本当に居ないみたい。

廊下を歩いていた使用人に聞いたら遠征中だって。


リオってのは、私が小さい頃から、この国と私に仕える城一番の弓使いにしてイケメン騎士、リオネルのこと。

イケメンかどうかはその人次第だから…あいつ自称イケメンだからね、ププ!笑える。

私はカッコイイとは思ってないけど。

そもそも、私は何ヶ月も城から離れて一人で旅をしているから、リオと会えない日々には慣れてるし、別に気にすることでは無いんだけど…

彼に見せたいものがあって帰ってきたのに、居ないなんて!

暇じゃん!城なんてつまんないし、世話係のお姉ちゃんが私の服の文句ばっかり言ってて、うげーって感じ。

別に何着ても良いじゃん!個人の自由でしょ!


私の誕生日にリオがくれたペンダントを見ながら、彼と出会った時のことを思い出した。

まだ私が幼かった頃、私はリオが嫌いだったんだよね。


今から15年くらい前の話…


コレオプシスの女王、レディクレアから新しい靴を譲渡される少女、ジェニスタは、クレアの娘であり、この国の王女様である。

鮮やかな赤色で、宝石などの装飾が施された豪華なヒールの靴を見て、王女ジェニスタは怪訝な顔をしていた。

召使いや家来達が見守る中、レディクレアの声とジェニスタの声が広間に響いていた。

「ジェニスタ、きっとあなたに似合うはずよ」

「イヤ!はかない!かわいくない!」

母親に腕を掴まれてジタバタと駄々をこねるジェニスタはもう8歳だったが、幼い頃から我が強く、母親はもちろん、家来の言うことも聞かない問題児だった。

「いーやー!」

ガっとレディクレアの手を振りほどき、ジェニスタは全速力で広間を走り抜け、広い廊下に飛び出した。

その足には靴など無く、素足でペタペタと走り続けた。

広間に取り残されたレディクレアと家来達は困った表情で苦笑いをしていた。


最初はムスッとしていたジェニスタだったが、走っている最中、何だか段々と楽しくなってきた。

肩までかかる黒髪を後ろで結んでおり、結んだ髪は馬のシッポの様にゆらゆらと揺れていた。


曲がり角を止まることなく勢いよく曲がり、目の前に人が居ることに気がついた頃には、曲がり角の先に居た誰かに衝突してしまった。

「わっ」「ふんがッ」

誰かの腰に思い切り顔をぶつけて後ろに倒れ込んだジェニスタは、尻もちをついたまま手で顔を覆った。

「ィタァ〜〜!」

「あぁ、申し訳ございません」

透き通るような、だが芯のある、爽やかな少年の声がして、ジェニスタは顔を上げた。

目の前にしゃがみ込み、手を差し出していたのは、小麦色の髪に青い瞳をした、美しい少年だった。

少年からは何やらお花のような、華やかで優しい香りがしていた。

近くにいると、自分が花畑にいるような感覚になった。

「寒くないのですか、裸足で」

ジェニスタの姿を確認し、少年は真顔で問い掛けてきた。

「あんた、だれ?」

いかにも自分大好きみたいなナルシスト感を醸し出しているこの人は、きっと鏡を肌身離さずに持ち歩いているに違いない、と、この時のジェニスタは思った。

「申し遅れました、私はリオネルフィンアルクスと申します。本日からこの城に…」

「わかった!リオね!」

リオネルの話を最後まで聞かずに、ジェニスタはにっこりと笑った。

「レディジェニスタ、まずは足を綺麗にしないと」

「へ?」

抵抗する暇もなく、ジェニスタはリオネルに軽々と担がれてしまった。

「ちょっと!なに!?」

お姫様抱っことはまさにこのこと。

少年に抱えられたお姫様は、召使いの女達が待つ部屋へと連行されてしまった。



ジェ「なんであたしのなまえ知ってるの!」

リオ「お母様から伺っております」

ジェ「しんちょーは!」

リオ「143、9センチ」

ジェ「たいじゅーは!」

リオ「32、2キログラム」


「きっもーい!!」


二人の召使いの女によって拘束され、三人目の召使いの女に足を洗われていたジェニスタは、くすぐったさに時々笑いながらもジタバタともがいていた。

その姿を嫌な微笑み顔で見ていたリオネル。

会ったばかりだというのに何を言っても的確に答えてくるリオネルに、ジェニスタは気持ち悪さを感じていた。

「ほら、とても綺麗な状態ですね」

召使いの女達の手によって綺麗になったジェニスタの足を手に取り、土踏まずを人差し指でなぞるリオネル。

その様子を召使いの女達は目を輝かせて眺めていた。



「あの青い瞳に見つめられたら興奮しちゃうわ!」

「近くを通ると良い香りがするのよ〜」

「まだ子供なのに、いやらしいわよね」

「すれ違いざまに挨拶する時の笑顔が美しいわ!」

「大人になったら求婚しちゃおうかしら」

「ジェニスタ様、羨ましいわよね〜」

「クレア様はどこであんな美少年を見つけたのかしら」


新しく城にやってきた若い騎士リオネルの噂は瞬く間に城中に広まっていた。

どんな時でも冷静であり、仕事熱心で、騎士としての腕はもちろん、本来は召使いの役割である王女の身の回りの世話までも率先してやっているリオネル、その美しい見た目と紳士的な姿からも、城内の女達は皆リオネルに夢中になった。

だがそんな様子のリオネルを快く思わない人がひとりいた。ジェニスタである。

自由を奪われ、誰に対してもいい顔をして気取っているリオネルに、嫌悪感を抱いていた。


喧嘩…といってもジェニスタから一方的ばかり。

を繰り返しながら二人は成長していった。

お互いに子供の頃からずっと一緒だったので、まるで兄と妹のようだった。

時々、リオネル直々に剣技の訓練を受けていたが、興味のないジェニスタはいつも嫌々やらされていた。

銃に対しては関心があったため、母親がジェニスタの為にガンエキスパートを雇う事もあった。

だがしかし、それすらも気に入らないジェニスタはいつも反抗的な態度で、自己流で銃の知識を身につけた。

今に至る機械技術の知識などもちょうどこの頃だ。

そうしてジェニスタは16歳の頃、この時リオネルは23歳頃、から城を抜け出すようになり、頻繁に外に遊びに行くようになった。


その二年後……


一人で勝手に外に出ていくジェニスタを良く思わないリオネルは、一度だけジェニスタにキツく言ってしまったことがある。


「だから!貴女が心配なんです!」

珍しく大きな声をあげたリオネルに、ジェニスタは目を丸くして驚いた。

今まさに外へ出ようと支度をしていたジェニスタの自室に数分前、リオネルがやってきたのだ。

ベッドの上には、普段城内で着せられている黄色やオレンジ色をしたシンプルなドレスが脱ぎ捨ててある。

今は、ブルーのジャケットを着て、黒縁の伊達メガネをかけていた。

自分の事をエニシダと名乗り、世界中を旅しているのだが、リオネルはそれを止めさせたいと思っていた。

「リオも一緒に来ればいいじゃん?」

「私は城を離れられません」

「じゃあしょうがないね」

ベッドの上にあぐらをかいて、持っていく荷物をまとめながら、なにやら怪しげな機械を弄くり回すジェニスタ。

真剣なリオネルとは裏腹に、ジェニスタはウキウキした様子だった。

そんな彼女の背中を見ながら、リオネルは優しく問いかけた。

「レディジェニスタ、貴女は私の事を、どう思っていますか?」

一瞬振り向いたジェニスタは、口をへの字に曲げて、「は?」という顔つきで立ち上がり、そのまま機械を触りながら部屋の中をうろつき始めた。

「ねぇ、それってどういう意味?」

「そのままの意味です」

リオネルの言葉に、ジェニスタはピタッと足を止めた。

静止したジェニスタの後ろ姿は、どことなく普段とは違う感じがした。

数秒間、二人の間に沈黙が流れる。

くるっと勢いよく振り向いたジェニスタは、いつもの調子で笑顔で答えた。

「おぬしは優秀であるぞ!」

ふざけたように笑うジェニスタに、リオネルはフッと小さく笑い、首を振った。

「はぁ」

リオネルは小さくため息をつき、そのまま歩いて、機械に夢中なジェニスタの目の前に立ち塞がり、彼女の両肩を少しばかり強めに掴んだ。

その位置は密着するほど近く、急に眼前に現れたリオネルに、ジェニスタは動揺した。

リオネルは、真剣な眼差しでジェニスタの瞳を見据えた。

「…な、なに?」

眼鏡の奥のヒマワリ色の瞳が一瞬揺らいだ。

次の瞬間、目の前の彼は一瞬のうちにいなくなった。

近過ぎて見えなくなったのだ。

リオネルは自らの唇をジェニスタの唇に重ね、自分の気持ちを伝えようとした。

予想もしてなかった突然の出来事に、ジェニスタは一瞬凍りついた。

彼の唇が離れていき、ようやく顔を見れた。

リオネルは嬉しそうな表情で微笑んでいた。

「いや、待ってよ、待って…」

困惑するジェニスタは、つけていた眼鏡を外して頭を抱えた。

両手で髪の毛をぐしゃっと潰しながら、リオネルの顔を驚いた表情で見つめた。

「…分かってくれましたか?」

再び距離を縮め、リオネルは今度は真顔でジェニスタに迫った。

「なんなの……」

綺麗なリオネルの顔面を再び目の前にして、ジェニスタは顔を歪めた。

もう一度口付けをしようと近づいてくるリオネルからジェニスタは再び少しばかりの距離を置いた。


分かってる。

ジェニスタは自分の気持ちに気づいていた。

幼い頃はただ本当に嫌いだと思っていたリオネル。

ジェニスタがリオネルに対して感じていたあの嫌悪感は、嫉妬心だったのだ。

物心ついた頃から、薄々と感じていた…

リオネルが好き。


「レディジェニスタ、貴女は、誰よりも美しい…貴女にとって私がただの騎士であっても、私は貴女を愛しています」

リオネルの愛の言葉を聞いたジェニスタは、突然、笑い出した。

「ふふ…ふふふふ……ふっはっはっはっ」

「私と貴女の関係性はもちろん承知の上です。ですが私の気持ちを…これ以上隠し通すのは無理です…貴女が大切なんです。レディジェニスタ、貴女を想わずにはいられない!」

リオネルの言葉に被さるように、ジェニスタの笑いは止まらなかった。

ひとしきり笑った後、笑い疲れて息を切らしながらジェニスタは、心配そうに見つめるリオネルに近づいた。

「ご、ごめんリオ、嬉しいんだ…うれしくて、笑いが止まらなくなっちゃった」

「心外ですよ」

「リオ…ありがと」

不満そうにしているリオネルに、ジェニスタは優しく微笑みながら、彼の頬に手を添えた。

先程まで大笑いしていたジェニスタの瞳はうっすらと潤んでいて、艶かしさがあった。

そんな彼女の瞳をじっと見つめ返し、リオネルは小さく微笑んだ。

「あぁ、美しい」

数センチの距離で二人でクスクスと笑い合うと、ジェニスタはニヤついた顔で「マジでキモイ」と一言言い放ち、先程リオネルがしたように、彼の唇にキスをした。

待ってましたと言わんばかりに、お互いに蕩けるようなキスをしながら、二人はドレスの散乱したジェニスタのベッドへと身を投げた……。



二人の間には、王女と騎士、世話係としてではなく、れっきとした恋愛感情が生まれていた。

大人になるにつれて膨れ上がっていったリオネルへの想い…王女と騎士という地位の違いに、ジェニスタは次第に複雑な感情に悩まされるようになっていった。

そうしていつしかジェニスタは城に帰らなくなり、髪を染め、怪しい物に手を出してしまった。


怪しいものとは、主に気を高める作用のある、紫色の煙が出るドリンクである。

飲まずに直接体に注射することも可能だが、それには副作用があり、大変危険である。

場合によっては幻覚作用や凶暴化の恐れがあり、過剰摂取は死に至る。

このドリンクは地下都市で流行っているが、詳しい説明はまた別のエピソードにて話そう。



そして現在に戻る……


「突然の愛の告白にはホント笑っちゃったなァ」

リオネルからもらったペンダントを首にかけ、暇つぶしに散らかした道具を再び手にした。

ネジのようなものを取ったりはめたりしながらピタリと手を止めた。

「うーん…リオが居ないなら、ハルに会いに行こうかな…助けが必要みたいだし」

リオネルに見せたくて持って帰ってきた小さな丸い塊をポケットにしまい、ジェニスタは立ち上がった。


この豪華絢爛な城で生まれ育ったジェニスタだったが、何度来ても身に合わず、自分の城ながら居心地は良くなかった。

「どうもココの空気はうげ〜って感じ」

顔をしかめながら自室の扉に近づき、ドアノブに手を掛けた。

その瞬間、自分の力では無い力で扉が開き、ジェニスタは部屋の中に押し戻された。

同時によく知る花の香りがして顔を上げた。

そこには、しばらく帰って来ないはずのリオネルが居た。

「…り」扉の前の彼の名を呼ぼうとしたが、ジェニスタの顔を見たリオネルによって真っ先に抱き寄せられ「おっ!」と力強い声が出てしまったジェニスタ。

無言の熱い抱擁に、ジェニスタはリオネルの背中をポンポンと軽く叩いた。

「うっ、力入れすぎっ」

ようやく体を離したかと思いきや、リオネルはジェニスタに口付けをした。

「は!?ちょっと!」

びっくりした様子で部屋の外を左右覗き込むジェニスタ。

扉を閉め直し、再びリオネルに向き直る。

「誰かに見られたらどーすんの…」

幸い、廊下には誰もおらず、二人の関係は未だ誰にも知られていない。

「申し訳ございません…」

そう言いながらまたキスをしようと近づいてくるリオネルに反省する様子はなく、ジェニスタはされるがままに、それを受け入れた。

再会の口付けが終わると、ジェニスタは不思議そうにリオネルに尋ねた。

「あ、ていうか、リオ、なんで城に居るの?遠征中だって聞いたんだけど」

「貴女が帰宅したと言伝を頂いたので、帰ってきました」

二人が今再会したのは、数ヶ月ぶりだった。

長い時だと、何年も会えないこともあるため、リオネルにとってジェニスタの城への帰宅はとても重要だった。

「まじ?きもい」

「旅はどうです?新しい発見はありましたか?お怪我はありませんか?危険なことはしていないですよね?」

「大丈夫だってば!あ、新しい発見と言えば、見て、コレ」

リオネルに見せたかった物が入ったポケットに手を入れるジェニスタ。

だがポケットは空っぽで、どこにも何も入っていなかった。

「…おかしいな……ここに入れたはずなんだけど」

反対側のポケットや別のポケットを漁りながら謎の球体を探すジェニスタの横で、リオネルが口を開いた。

「これですか?」

リオネルが丸い物体を手に持ち、手の中でコロコロと転がしていた。

「床に落ちていましたよ」

ポケットに入れていたこの塊は、先程の二人の再会のハグによってポケットから転がり落ちていたのだ。


謎の球体を不思議そうに回しながら眺めていたリオネルの手の中でカチッと小さな音が鳴った。

次の瞬間、謎の球体はバコン!と大きな音を立てて辺りいっぱいに青色の煙が立ち込めた。

リオネルは咳き込み、しばらくの間、煙で何も見えなかった。

「どういうことです!これは!ゴホ!」

「んっふっふっ」

リオネルの問に、怪しげな笑い声をあげて近づいてくるジェニスタ。

爆発の瞬間、ジェニスタはガスマスクをつけていたのだ。

ゆえに彼女だけ、煙の影響は受けなかった。

「ジェニスタ?」

青色の煙は次第に薄まっていき、うっすらとしか見えなかったジェニスタの姿が鮮明になっていく。

しかし先程まで見ていたジェニスタとは違い、彼女は途端に背が高くなっている。

「レディジェニスタ…いつの間にそんなに背が…」

ようやく目の前まで近づいてきたジェニスタは、ニヤニヤしながらリオネルの前にしゃがみ込んだ。

「めちゃカワイイよ、プッ!」

笑いを堪えながらも顔は全力で笑うジェニスタ。

何かがおかしい。

リオネルはそばにあった姿見を見た。

そこに映る自分は、明らかに身体が小さく、顔も子供の頃の様に幼くなっていた。

「な…!何をしたんですかジェニスタ!」

「見せたかったってのは、このこと。魔法のボール。魔法の国に行ってきたお土産デース!」

楽しそうに説明しながらベッドにポスンと座るジェニスタとは裏腹に、リオネルは困惑した様子で彼女の膝に手をつき、身を乗り出した。

「今すぐ元に戻してください!」

「え?戻し方なんて知らないよ。ちっちゃいリオもイケてるよ?」

「困りますよ、こんな姿でどうやって貴女や国を守るのですか…」

しゅんとするリオネルの頭をポンポンと優しく叩き、ジェニスタは立ち上がった。

「じゃ!私帰るね!」

「は!?」

「あとはメル爺に聞いて」

メル爺とは、この城の一室に住んでいるマメカル族のメイジである。

マメカル族とは、身長は50センチ程しかないが知識は誰よりも豊富な種族である。

「頑張ってー!」

まるで嵐のように、ジェニスタは部屋を後にした。


城の入口広間で、別れを惜しむ少数の使用人達に囲まれたジェニスタの元に、息を切らしながら近づいてくる足音がした。

その方向を見た使用人達から驚きの声が上がる。

「はぁ…はぁ…」

そこには金髪の小さな男の(にされてしまったリオネル)が居た。

リオネルは小さい体で使用人達の間を通り、ゆっくりとジェニスタに近づいた。

「この姿でここまで来るのに倍の時間がかかりましたよ!」

「ねぇ許してよ…メル爺ならさっき茶室にいたよ」

「…レディジェニスタ」

まっすぐと瞳を見つめてくる小さなリオネルは、何か言いたげに、ジェニスタの服をぎゅっと掴んだ。

察したジェニスタは優しくゆっくりと、リオネルを抱き寄せた。

「しばらく、会えなくなるのですか」

彼女の胸の中で小さく問いかけるリオネル。

その声色はとても悲しみに満ちていた。

自分の胸に顔を埋めるリオネルの頭に自らの顔を寄せ、ジェニスタもまた小さな声で応えた。

「帰ってくるよ、必ずね」

「行かないでと言ったら?」

二人は別れを惜しむように、しばらくの間お互いを離さなかった。

使用人達も悲しげな顔をしていて、ジェニスタをとくに可愛がっていたご高齢の世話人は涙を流していた。


「だが断る」


いつもの調子で顔を上げ、ジェニスタはニコッと笑った。

リオネルはジェニスタの手を取り、普段のように、手の甲に口付けをした。

「どうかご無事で」

「そっちもね」

本当は彼女の唇に口付けをしたかったリオネルだったが、公衆の面前ということでここでは耐えた。


城の入口の大きな扉をゆっくりと押し開けて、ジェニスタは皆に背を向けたまま歩きながら手を振っていた。


外からの眩しい太陽の光を全身に浴びて、リオネルは大きく息を吸い込んだ。

愛する王女様は行ってしまった。


「リオネル様、どうしてそんなお姿に…?」

ずっと気になっていた周りの使用人達がようやくリオネルに問いかけた。

だが答えはわかっていた。

ジェニスタのイタズラは今に始まったことではない。

幼い頃からジェニスタのイタズラは日常茶飯事で、一緒に居る時間が多いリオネルはとくに標的にされていた。

今回もそんな事だろうと察していた使用人達はクスクスと笑い合い、先程までの悲しい雰囲気を一瞬で消してしまった。

「笑わないでください!」

ジェニスタのイタズラによって小学生くらいのサイズにされたリオネルは慌てた様子でメル爺のいる茶室へと向かった。


遠征中ということもあり、一刻も早く魔法を解除したかったリオネルは、ジェニスタに言われた通り、メル爺の元へと向かった。

茶室に辿り着き、ノックをしてから扉を開けると、そこにはゆっくりとお茶を啜るメル爺の姿があった。

お茶を飲む手を止め、リオネルをじっと見つめるメル爺。

いつもと違うその姿に、メル爺はハッとしてリオネルに近づいた。

「ついてきなさい!」

話が早いメル爺は、入口で突っ立っているリオネルの横をすり抜けて、どこかへと向かっていった。


後を追うリオネル。

メル爺はどうやら地下室へと向かっているようだった。

大人しく後をついて行くと、暗い螺旋階段を降りた先に、鉄の扉がどっしりと身構えていた。

存在感すら感じられるその扉は、ギギィーと音を立ててゆっくりと動いた。

どこにも触れていないのに勝手に開いた扉を不思議そうに眺めていると、メル爺が口を開いた。

「ふぁっふぁ!わしの姿で開くように設定したんじゃよ!ふぁ!」

嬉しそうに笑いながら、メル爺はそそくさと歩いて行ってしまった。


普段はあまり訪れない地下室はリオネルにとって新鮮だった。

見慣れない道具に輝く光、蠢く煙に異様な匂い…まるで別の次元にやってきたかと思わせるような、異質な場所だ。

「ずっとこの城に居たというのに、こんな所があったなんて…知りませんでした」

「ジーニーはずっと前から知っておったぞ?よく遊びに来ては"なんかちょーだい"ってわしにおねだりしておったわ!魔法の粉やなんやらを持っていってイタズラに使ってな〜」

メル爺はジェニスタのことをジーニーと呼んでいるようだ。

「なるほど…あの時のイタズラは魔法だったのですね…」

当時は幼い少女がやるには不思議だった、レベルの高いイタズラは、全てここから始まったのだ。

今になって理解したリオネルは頷いた。

「はて、リオ、服を脱いで、横になりなさい」

木の机…のような木製の台の上を指差しながら、メル爺は分厚い本を取り出した。

言われるがままに、リオネルは台の上に横になった。

怪しげな呪文を唱えながらメル爺は、緑色やオレンジ色の粉をリオネルに振りかけた。

ひとしきり呪文を唱えたあと、振りかけた粉を満遍なくリオネルの身体に刷り込んでいく。

「リオ、ジーニーから嫌という程聞いたぞ、おまえの話を」

メル爺は作業の手を緩めることなく、ひたすら粉を刷り込んでいる。

緑やオレンジの粉はいつの間にかなくなっていて、リオネルの体に浸透した様だった。

「そうでしょうね、私がかっこいいとか、優しいとか」

目を瞑り、ニヤけた顔でリオネルは自慢げに言った。

だがしかし、返ってきたのは予想もしてなかった言葉と、痛みだった。

「ぐぅあ!?」

「いやいやいや、リオはうざい、リオはいけ好かない、きちく、ナルシスト、きもい、だ!」

酷い言葉を口にしながら、痛みにもがくリオネルを押さえつけるメル爺。

だが50センチ程しかないメル爺は、いとも簡単に突き飛ばされてしまった。

「アァアァア!!」

全身を引きちぎられるような、激しい痛みに、リオネルは声を上げ続けた。

メル爺は魔法でなんとかリオネルを押さえつけることに成功した。

まさか魔法解除が、こんなに痛いものだとは。

考える暇もなく、痛みはしばらく続いた。

「子供の頃じゃがな、ふぁっふぁ!ジーニーはおまえをとてもよく気に入っておるようじゃ!口を開けばリオが〜リオは〜」

隅で杖をつきながら、痛みに喘ぐリオネルを心配するでもなくメル爺はお茶をすすっていた。

「くっ…ぅん!こんなッ!聞いて…!ないですよ…!」

「よく言っておったわ!リオはクソヤロウ!ふぁっふぁ!」

隣で高笑いするメル爺を涙目で睨みつけながら痛みに耐え続けるリオネルだったが、彼は内心落ち着いていた。

愛する王女からの数々の陰口に、どうしてやろうか冷静に考えていた。

人の事を散々貶しておいて且つ、この痛み。

屈辱的だった。

次に会った時には…たとえ貴女が王女であっても容赦はしない…そんなことを考えながら、私は叫んだ。

「ジェニスタァァァ!!」

地下室には、愉快な老人の笑い声と、リオネルの悲痛な叫び声が響いていたが、分厚い扉の向こう、城内には二人の声は一切届かず、外は至って平和であった。。。

毎回、書いていて、めっちゃ楽しいです…笑

私だったらこんなイケメン騎士に好かれたら嬉しいどころじゃないです…笑

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