◇学校で、幼馴染たちとの朝
今回は佐藤麦の現実のお話です。
朝早くにパン作りの手伝いをして、いつも通りに登校する。
進学先が決まったからって、学校は休みにならないからね。
といっても、午前中で授業は終わりだし、その中身もほとんど自習。
受験中の子は問題集を解いてたり、先生に質問したり。
朝のホームルームだけ出て家で勉強する子もいるし、図書館で自習しててもいいんだって。
欠席しちゃうと内申点が下がるから、朝だけは顔を出すようにって先生が言ってたなぁ。
進学校とか、有名私立高校の受験なんかはすごく難しいみたいで。
かなちゃんに見せてもらった問題集は、ちんぷんかんぷん!
僕が授業で習ってない事が沢山書いてあるの、反則だよねー。
「みんなーおはよー!」
教室に入って、仲良しのみんなが集まってる席に向かう。
もちろん、すれ違うクラスメイト達とも挨拶を交わしながらね!
「オッスオーッス!」
五十嵐宏太。こうちゃんは、幼稚園からの幼馴染。
坊主頭で、180㎝もある背の高さ!
小学生の授業のクラブ活動で始めた野球を、今でも頑張ってる。
私立の強豪校を目指してたんだけど、スポーツ特待生までは取れなかったみたいで。
だったら近場でコツコツ頑張るって言って、僕と同じ高校に入るために頑張って受験勉強中。
こうちゃんはすごく努力家で、野球で鍛えた根性もあるから、きっと大丈夫。
…たまに野球部でバット振ってるみたいだけど、大丈夫だよね?
「おはよう麦」
佐藤奏。かなちゃんは、小学校からの幼馴染。
苗字が同じだから、同じクラスになると僕の前の席はかなちゃんになる。
仲良くなったのも、毎日話してる内に、だったと思う。
縁の無い眼鏡をかけてて、170cmある高身長!
運動神経が良くって、すっごく頭も良くて、本が大好き!
図書委員会と図書クラブに3年間入ってた筋金入り!
高校はたくさん本があるって理由で、私立の付属高校を受験するって。
特待生が取れるようにって受験勉強を頑張ってるけど、きっと大丈夫。
「ムギーおはー」
御堂日向。ひなちゃんは、幼稚園からの幼馴染。
ショートカットで、これまた170cmの高身長!
お父さんが警察の人で、剣道の有段者!
その影響で小さい時から剣道をやっていて、地方大会で優勝しちゃうくらいに強い!
僕たちも電車で応援に行ったけど、恰好良かったなー!
そんなひなちゃんには、強豪私立高校から沢山スカウトが来てたみたいなんだけど。
面倒くさいって、全部はねちゃって。
結局、僕と同じ高校に推薦入学が決まってる。
剣道は続けるみたいだから、僕の高校は剣道部が全国大会に出ちゃうかもだよ!
「おはようムっくん」
安藤実優。みーちゃんは、なんと産まれた時から幼馴染!
長い髪を三つ編みにしてて、仲良しの中では唯一僕より身長が低い。
中学校では、緑化委員とお料理クラブに3年間入ってる。
僕も緑化委員とお料理クラブに入ってたから、クラスが違っても放課後は大体一緒に居ることが多かったなー。
家がお隣さんで、父親どうしも中学までの同級生!
同じ時期に同じ病院で産まれたから、みーちゃんとは本当に産まれた時からの付き合いになるんだ。
子育ての時期が同じだったから、お母さんどうしもすっごく仲が良い。
文字通りに、家族ぐるみの付き合いがあるってわけ。
「なあー、むぎー。
アニガーやってみたかよー?」
「宏太、その話をすると、勉強ができなくなるぞ」
「えー、気になるじゃんかー。
それに、遊びたくなったらバット振るから、オッケーだぜ!」
「オッケーじゃ無いわよ、アホたれ。
勉強に集中できなくなるってハナシよ。」
「そんなん、いつだってそうだぜ!
毎日毎日勉強勉強、バット振らなきゃやってらんねーぜ!」
「アンタ、受験生でしょーが」
「まぁまぁ、ヒナちゃん。
コウちゃんも毎日勉強してるこそ、だよね?」
「そのとーり!
さっすが実優は器のでかい女だぜ!」
「…ならアタシは器が小さいって?
いい度胸してるじゃないの、コウ」
「ヒナちゃん、ヒナちゃん、落ち着いて。
いま叩いたら、頭が悪くなっちゃうよ」
「この頭はこれ以上悪くならないわよ」
「ひっでーぜ!」
勉強三昧で、息抜きに飢えてるこうちゃんがAnimal Gardenの話をしたがってるけど、みんなに止められちゃってる。
うーん、僕がアニガーを始めるっていうのはみんなに話してたことだし、僕もツキノやスズメさんの話をしたいんだけど。
受験が終わってないのに、ゲームの話で盛り上がっちゃうのは不味いよね。
「麦。宏太が落ち着かない様だから、触りだけ話してやってくれ」
「かなちゃん、いいのかな?
受験生にゲームが楽しかった話って」
「まぁ教室の中だからな。
軽い感想くらいにしておいてくれ」
「おう!
ちょこっと教えてくれたら満足だぜ!」
「…アンタ、ちょこっとじゃ気が済まないでしょーに」
「あはは、そうかもね」
「おいおい、実優まで俺を信用してくねーのか。
こうなったら、麦が最後の砦だな!
俺を信じて、教えてくれい!」
「あー、うーん、そうだなー。
モフモフと、遊んできた。
以上。」
「…えっ、以上?」
「以上」
「おいおいおいおい!
流石にもうちょっとこう、グラフィックがすげえとか、音楽がすげえとか、もうちょっとあんだろー」
「以上です」
「…おう、マジか」
「マジです」
「おあー」
「うわー、さっすがムギ。
一刀両断だわー」
「ムっくんだもん、当たり前だよ」
「お見事。
これで、宏太も満足だろう」
一言話し出すと、止まらなくなっちゃうのが幼馴染ーず。
当然、僕だってその中に入ってるわけで。
いまアニガーの話をしたら、止まらくなっちゃうのは目に見えてるし。
あんまりはしゃぐと、クラスメイトに怒られちゃうかも。
だから、自分のためにもバサッと言ってみた。
こうちゃんには、応援の激だと思って欲しいけど、ちょっとかわいそうかな。
ゲームの内容じゃなければ、もうちょっと…いいかな?
「でもまぁ、1日1回のログインが限度かな。
朝も、ゲームする時間は無かったよ」
「ほーう!そうなのかー!
早起きしてもダメなのか?」
「コイツ、コロッと元気になったわね…」
「沈んでたの、一瞬だったねー」
「麦は詰めが甘いな。
…ログイン制限が理由か?」
「うん。3時間ごとに6時間の休憩ってなると、昼の1時に始めても、次のログインが夜の10時なんだよ。
僕、9時には寝ないと朝起きれないし。
もっと早起きしても、お父さんたち働いてるから。
僕もパン作りしないとねー」
「真面目かっ!
…いや、麦はそれでいーんだけどよ」
「ムギは真面目なのがいいトコなのよ、アンタと違ってね」
「ひでえっ!」
「ムっくん、優しいから。
お手伝い、したくなっちゃうんだよね」
「確かに。親の職場が実家横だと、気にはなるか」
「まぁねー。でも、3時間もゲームできたら十分だよ。
高校に入ったら、そんなにできなくなるかもだし」
「うおー!羨ましいぜー!
俺も3時間と言わず、野球がしたいぜ!」
「あーあー。だから言ったじゃない」
「あー。スイッチ入っちゃったね」
「正に、言った通りだったな」
「おいおい、皆で言うことねーだろ?
そもそも、俺はいつだって野球がしたいぜ!」
「アホね」
「アホだね」
「アホだな」
「ひでーぜ!」
あー、やっぱりバサッと言ったままにしておけば良かったかな。
こうなるかもって思ってたのに、続けちゃったのは。
僕がアニガー話をしたかったからなんだろうなぁ。
こうちゃん達は今から受験なんだから、反省しなきゃ。
「ごめんねこうちゃん。
僕、やっぱりアニガーのこと話したかったみたいで」
「?かまわねーぜ?
むしろ、どんどん話してくれよ!」
「「「アホ」」」
「だから、ひでーぜ!」
「いいのよ、ムギ。
こいつがアホなのが悪いんだから」
「ムっくんは悪くないよ。
後で、私とお話ししようね」
「俺も気にはなるからな。
受験が終わったら、アニガーのこと教えてくれ、麦」
「ホットな話題は今聞きたいぜ!」
「「「黙って(ろ)」」」
「…お、おう…」
こうちゃんはいつも元気で、その…いつも面白いから。
僕たちが集まると、大体にぎやかになる。
もちろん、こうちゃんがいじめられてるわけじゃないよ?
仲の良い幼馴染の、いつもの掛け合いってだけ。
みんな、嫌なことは嫌だって言えるし。
お互いに信頼してるもの。
「ホームルーム始めるぞー!」
「先生来たね。
かなちゃん。こうちゃん。勉強頑張ってね」
「ああ。俺は図書室に行くが、宏太はどうする?」
「いつもどおり、奏についてくぜ。
教室にいたんじゃ、遊びたくって仕方ねえ!」
「静かにしてんのよ、コウ。
カナも、自分の勉強に集中すんのよ」
「頑張ってね、コウちゃん。カナちゃん」
こんな感じが、いつもの朝の光景。
ウィートじゃなくて、佐藤麦のいつもの朝。
高校に入ったら、カナちゃんが別の高校に進学しちゃうんだけど。
あと2か月は、これが僕の日常です。
当小説はAnimal Gardenの話を中心にしつつ、佐藤麦の話も挟みます。
割合的には、5対1くらいにできればと考えています。