初めてのログイン、初めてのペット 5
少し光沢のある、真っ黒でモッフモフな体毛。
頭の上に、ちょこんと乗っかってるまん丸なお耳。
つぶらな瞳は、ちょっと小さめ。
四つ足の状態で、目線が僕の膝下くらいかな。
立ち上がったら、腰か、太もものあたりに抱きついてくれそう。
鼻のところが、ちょっぴりピンク色で。
真っ黒な爪は、なんだか丸みを帯びてる感じがする。
そして、この子の一番の特徴は。
真っ黒なおでこと胸のところに、白毛の綺麗な三日月模様!
おでこのところは、左側が開いている、右曲線の縦の小さな三日月模様。
胸のところは、両肩を通るように、三日月を横にしたUの字みたい。
『投影完了。
e-pets=ツキノワグマの幼生体ですね』
「きゅま~」
「か、かわいいーーー!」
あわわ。
きゅまーって言ったよ、きゅまーって!
ヤバイ。
見た目もかわいいけど、声もかわいいっ!
『通常形態。デフォルメ形態も、続けて投影いたしますか?』
「大丈夫です!
僕、この子にします!
この子に決めました!」
「きゅまー」
あっ、あわっ、あわわっ。
さっきも見たけど!さっきも見たけど!
あの時は、かわいいモフモフを連続で見ちゃったから、脳がバグっちゃってて。
覚えてるけど、覚えてないっていうか!
いや、今も頭がバグってるかもしれないけど!
こんなにかわいい子を見たら、こうなるってホントに!
『それではウィートさま、最終確認です。
貴方の最初のadoptは、e-pets=ツキノワグマでよろしいですか?』
「はいっ!
よろしくお願いします!」
「きゅむきゅむ」
あああっ!
お座りしてるっ!
かわいいなー、かわいいなーっ!
手のひらと、足の裏、ピンク色だぁ。
かわいいなー、かわいいなーっ!
『プレイヤーの承諾を確認しました。
e-petsタイプの投影を終了。
e-pets=ツキノワグマの電子体が生成されます』
「…ああっ、僕のクマさんが消えちゃったー!」
きゅむきゅむ鳴いてたクマさんが透明になって消えちゃった!
ああっ、僕のかわいいクマさん…!
あっ、でもっ。
クマさんが居たところに、キラキラした光が集まって来てる!
眩しいワケじゃないけど、凄くキラキラしてて。
あれ、さっきスズメさんが電子体がどうこうって言ってたような…
『今までウィートさまにご覧いただいたのは、e-petsのタイプを投影したもので、写真や動画のようなものですね。
これからウィートさまがadoptするのは、電子体として確立されたe-petsです。
いうなれば、今こそがe-petsの誕生の瞬間と定義できますね』
「誕生っ!?
いま産まれるの?
ここで?
いまっ?」
あわわ、情報が多すぎて処理しきれないよっ!
さっきとは違う意味で脳がバグるー!
なんとなく、ペットショップに行くような感じだと思ってたから…産まれる瞬間に立ち会うなんて、思ってもみなかった!
『もう産まれますよ、ウィートさま』
「…もうっ!?」
うわっ、うわっ。
キラキラの光が、卵の形になってきてるみたい!
明るいんだけど、眩しくないっていうか。
じっと見てても、目が痛くならない、優しいキラキラの光。
…って、いつの間にか、虹色に光り出してる?
虹色じゃないかもだけど、色んな光がグラデーションみたいに流れて。
これが、誕生の瞬間ーっ!?
「きゅまま~」
「産まれたーっ!」
小っこい!
小っこい!
モフモフ!
かわいい!
なんか、なんか、なんだか!
僕、感動した!
すごっく、すっごく感動したよ!
『おめでとうございます、ウィートさま』
「ありがとう、スズメさん!
僕、すっごく嬉しいよ!
この感動…言葉にできないよー!」
「きゅまー」
さっきの映像で見たまま。
お尻を着けて座ってる体勢そのままなのに、なんでこんなに可愛く思えちゃうんだろう?
小首をかしげてこっちを見てるの、反則だよー!
『現時点で、ウィートさまとこの子とのadoptは完了です。
初めてのadopt成功、おめでとうございます』
「ありがとう、スズメさん!
僕、この子こと、大事にするね!
大切に育てるからねっ!」
『ええ。ウィートさまのそのお気持ち、大切になさって下さい。
Animal Gardenを楽しむ上で。
そして、e-petsと仲良くなるために。
とても大切なことですから』
「僕、忘れないよ。
今日の事。
今の気持ち。
絶対に、忘れない!」
『はい。私も嬉しく思います。
では、adoptしたe-petsと、最初にすべきことをしましょう。
貴方のパートナーに、名前を付けてあげて下さい』
「名前…僕が考えて、この子に名前をあげるんだよね」
『先ほど、誕生の瞬間とお話ししましたが。
この子は電子体として確立した存在として、今、ここに居ます。
ウィートさまが名前を付けてあげることは、この子の存在を認めてあげることになるんです』
「…僕が、認めてあげる…」
そっか。
ただ喜んで、興奮してばっかりじゃダメなんだ。
僕は、この子と家族になるんだから。
しっかりと、この子に向き合って。
ここに居ていいよって、安心させてあげなきゃいけないんだね。
まず、この子と目を合わせて。
落ち着いて、ゆっくり、話しかけてみよう。
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Animal Gardenでは、キャラクターの性別の変更を、原則不可とさせて頂いております。
この件に関しては、多くの意見をお寄せいただいておりますが。
当Full_Dive_Gearの実証実験で、異性体のキャラクターでのフルダイブは、現実世界の日常においても著しく異性としての自分を意識してしまうという実例が多発しており、トイレや、ロッカールーム、公共機関の利用など、現実の心身に対して安全といえる結果が出ておりません。
日本国フルダイブ法に定められた男女選択権の尊重に基づき、弊社でも鋭意努力を続けておりますが、プレイヤーに判断を委ねる、という段階まで至っておりません。
弊社ではこの問題点を、現実とは全く異なる生体を運用した記憶が、現実の生活における情緒面に大きく影響してしまうことだと推測しています。
現状では、当Full_Dive_Gearからフィードバックの制御や、電子体生成時に疑似神経の感度を下げるといったアプローチがされていますが、制御された電子体の記憶が、現実の体の機能を意図せず抑止してしまう可能性について調査しており、調整が難航しております。
当社製品は、現実の体と大差ない電子体をゲーム世界での素体として用いることでプレイヤーの心身の安全を確保するデザインとなっており、現状において極めて順調な運用を成功させていることからも、当該機能の制御、抑制は非常に難しいと言わざるを得ません。
先述の通り、日本国の法律に従い、弊社でも鋭意努力を続けておりますが。
あくまでも、プレイヤーの安全を最優先で守るという前提条件のもと、当ゲームの運営が行われておりますことを、ご理解頂きたくお願い致しております。
この件に関しての進展は、IT庁のホームページ内、EasyGames社の男女選択権の尊重への取り組みと進捗情報という題名のレポートからもご確認いただけます。
IT庁やフルダイブ法といった言葉は、創作上のものです。
この物語は、フィクションとしてお楽しみください。
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