◇初めてのログイン、初めてのペット 1
「よしよしっ!
確認はこんなもんかな~」
どうしても!
どーうしても欲しかったフルダイブ型のゲームを買ってもらった!
そんな世界一ハッピーな僕は、佐藤麦!
受験が終わったばっかりの、中学3年生です!
「くふふ。
頑張った甲斐があったよねー!
あったよなー!」
僕の家は地元じゃ有名なパン屋さん!
アニガーこと、Animal Gardenの発表があってから、僕は毎日頑張った!
9時に寝て5時に起き、菓子パンと惣菜パン作りを手伝ったんだ!
最初はお父さんみたいに朝の3時に起きるつもりだったけど、子供が無理するなって言われた。
だから、お父さんが捏ねたパンにレーズンを乗せたり。
お母さんが焼いたウインナーや卵とかを挟んだり。
最近なんて、チョココロネなんかも上手く作れるようになった!
あれってすぐに破裂しちゃうから、チョコ入れるだけでも難しいんだよー!
ちくわパンとか、かにかまパンも僕が考えたんだ!
売上とか、原価率とか、僕にはあんまりわからないけど。
でも、近所のお爺ちゃんたちはにこにこして買ってくれるから、多分大丈夫!
おいしいのは、僕のお爺ちゃんのお墨付き!
そもそものお父さんのパンが美味しいから、何でも大体おいしくなるしね!
「まずは、チェアーに座ってっと」
パンの話じゃなかった!
パン屋の息子だからか、パンの話は止まらなくなっちゃうんだよね。
兎に角、お手伝いを頑張って、高校受験も近所の公立高校の推薦をもらえた僕は。
念願の、Animal Gardenを買って貰えたんだ!
これからもお手伝いを続けるとか、学校をサボらず行くとか。
沢山たくさーん約束をして、ついに!
ついに!
念願の、僕だけのペットが飼えるんだ!
「手首とー、足首にー、リストバンドー」
僕はパン屋の子供に生まれて嫌だったことなんて無いし、お父さんとお母さんの子供で良かったと思ってる。
パン作りの手伝いだって結構好きだし、高校生のうちにパン生地を捏ねさせてくれるって、お父さんとも約束してる。
パンを食べるのも好きで、毎日食べても全然飽きないし。
夕飯にはお肉だって食べられるしね!
ただ、ひとつだけ悲しいというか、残念に思うことがあって。
それが、『動物を飼えない』ってことなんだ。
「ゴーグルを着けてっと…これ、ヘルメットだよねー」
家は、家族で住むところと、パンを作る工房と、パンを売るお店が同じ敷地にあるんだ。
だから、パン工房に入れちゃいけないものは、家にも入れない方がいいってことになる。
納豆菌とか、動物の毛なんかがそうなんだって。
お客さんが来るお店の方なら、納豆食べたくらいじゃ大丈夫らしいけど。
さすがに動物を抱っこしての入店はお断りしてる。
食べ物を取り扱うんだから、やっぱりね。
毎年学校の職場体験でうちの店に中学生が来るけど、学校の方にも『朝食に納豆を食べないように』って、連絡をお願いしてるみたい。
ウチの他にも、酒蔵とか、醤油蔵からも学校に連絡があったんだって。
職場体験にはなかったけど、製薬工場とか、チーズ工場なんかも納豆NGだって教えてもらった。
「最後に、ベルトを骨盤と鎖骨に合わせて締めて、背もたれを角度調節っと」
なんだか納豆の話ばっかりになったけど。
僕、納豆は食べなくてもいいんだ。
修学旅行で食べた時、あんまり美味しくなかったし。
それよりも、僕は、小さい時からペットを飼ってみたかったんだ!
犬でも、猫でも、ウサギとかハムスターとかでもいい。
毛がモフモフしている生き物を、ぎゅっと抱きしめたい!
一緒に散歩したり、一緒にお昼寝とかしてみたいんだ!
「あとは、電源を入れたらアニガーのスタートだ…ドキドキするなぁ…!」
ウチはパン屋だからって、諦めてたけど。
動物アレルギーの人だっているし、僕だけじゃないって思ってたけど。
ゲームの中なら、僕にもペットが飼える!
フルダイブ型ゲームだから、五感もある程度は感じられるらしいし。
モフっとした生き物に触れば、モフっとした感触がわかるみたい!
ついに、ついに!
僕の夢が叶うんだ!
「初めての、僕のペットに会いに!
Animal Gardenスタート!」
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EasyGames社が発表した日本国内限定フルダイブ型ゲーム、Animal Garden。
掲げるのは「誰もが動植物とふれ合える、優しい空間」というモットー。
全年齢対応(乳幼児除く)。
現実時間とゲーム内時間の完全リンク。
プレイヤーの体調をリアルタイムで監視、保護するため、ゲームプレイはオンライン限定。
使用する電子回線も、EasyGames社が開発した最新型の独自の回線を使用。
既存のフルダイブシステムの機器は利用できず、専用のFull_Dive_Gearの購入が、ゲームのプレイ権利とイコール。
Full_Dive_Gearの購入及び引き渡しには、個人のIDと健康状態の調査。更にEasyGames社へ生体情報の提供に同意しなければならない。
これは、先に制定された、日本国のフルダイブ法案に基づき、プレイヤーの体調の健康状態を守ることを最優先とするためである。
先の法案に基づき、EasyGames社はゲームプレイ中のプレイヤーの健康状態に対して義務を負うこととなる。
現在未確認ではあるものの、海賊版及び違法改造されたFull_Dive_Gear使用時の体調悪化は、EasyGames社が各省庁指導の下で定めた医療等全ての保障の対象外。