第七話 キレられた
保は気分転換に一階のリビングに下りてきた。
テレビの真正面にはガラスのローテーブルを挟んで三人掛けのソファーが置いてある。
そんな三人掛けのソファーの真ん中にはだらーとした姿勢で有が座っていた。
保はそんな有の右隣に座る。
有は保に気が付いていなかったのか、保が座ると肩がぴくっと動いた。有は姿勢を正すがすぐにまた、だらーとした姿勢に戻る。
小さい頃からだらーとする様子は何度かあったが、ここまでだらーとしているのは初めて見る。
毎年のようになっている夏バテなのだろうか?
はたまた学校で疲れるようなことでもあったのだろうか?
テレビでは統選者選抜に関連したニュースを伝えている。
テレビを見ていると姿勢を少しよくした有がこちらを、ちらちら見ていることに気が付いた。何か用があるのかと思い有の方に顔を向ける。しかし、有はすぐに正面に向き直す。
だが、保がテレビを見始めるとまた、ちらちらとこちらを見てくる。
幾度かこのやり取りを繰り返したのち、保は有の方に視線を固定した。
「……」
「……」
「……」
「はあ?」
何故か突然キレられた。突如としてキレだす若者。まあ、理由はじっと見つめていたからだろうが。
「なんでずっとこっち見てんの?」
有が見つめ返す。いや、睨み返す。
「え? ごめん」
謝ったがしばらく睨み続けられる。そんなに嫌だったのか。
「はぁ」
「?」
気が済んだのか「はぁ」というため息のようなものを吐いて正面に体を向き直し、姿勢をまた、だらーとした状態に戻した。その後、有がこちらの様子を窺う素振りを見せることはなかった。何だったのかはよく分からないが、今は機嫌も体調も悪いようなのでそっとしておいた。