はる自慢のカレーライス
『姉さん、久しぶり。元気ですか? 12月30日午後18時。子供の頃家族でよく行っていたキャンプ場でご飯を一緒に食べませんか?』
『はる、久しぶり。私は、元気だよ。はるも元気そうね。あのキャンプ場で会えるのを楽しみにしてる。』
姉のるなから返信があったのは、弟のはるがメールを送信してから3日後でした。
はるは、寂しいと感じていました。
約束の日はやって来ました。
るなとはるは、お互い待ち合わせ時間を過ぎることなく思い出のキャンプ場に着きキャンプの準備を始めました。
テントを建てたり火を起こしたりキャンプをするためにはやらなければならないことが、たくさんあります。
はるは、るなに会えて嬉しくてはりきって準備をしていますがるなは疲れた顔で椅子に座っていました。
「誘ってくれたのにごめん。私もう何も出来ない。」
「姉さん、一緒に準備をしたらきっと楽しいよ。」
「私が楽しいって思うのは、キャンプの準備が終わった後の時間なの。」
「2人で準備したらあっという間だよ。それに一緒にカレーライスを作ったらもっと美味しくなるよ。」
はるは、踊りながら楽しそうに料理をしています。
にんじん、じゃがいも、たまねぎを食べやすい大きさにはるは切っていました。
切り終わった野菜は、豚肉と一緒に油で炒めて、お鍋いっぱいの水を入れたら後は煮えるまで蓋をします。
野菜が柔らかくなったらカレールーを入れて隠し味にチョコを入れたらはる自慢のカレーライスの出来上がりです。
るなは、はるが頑張っている姿を椅子に座って見ていました。
「はるは凄いわね。私には出来ないわ。」
そう言ってるなは夜空を見上げました。
一面に星がたくさん輝いてそれは綺麗でした。
るなが、携帯で写真を撮ろうとした時です。
一瞬キラッとした何かが夜空を走りました。
るなは、もう一度目を見開いてじっと夜空を見つめました。
すると、今度ははっきりと一筋の光が見えたのです。
「はる、流れ星よ!」
大きな声ではるを呼んだのですが、料理を一生懸命作っているので聞こえないようです。
「仕方ないわね、私がはるの分も願い事を言ってあげる。」
るなは、もう一度流れ星が流れるのを待ちました。
そして、夜空がキラッと輝いた時るなは目を閉じて願ったのです。
「キャンプの準備を全部終わらせて!」
るなが目を開けた時、辺りは一変していました。
目の前には、テーブルの上にたくさんのご馳走が並んでいます。
どれも、るなの大好物です。
横を見るとテントが綺麗に張られています。
足元を見ると火がパチパチと弾けていました。
キャンプの準備が全部終わっていて後は楽しむだけだとるなは思いました。
「やったー!はる、一緒に食べよう!」
ですが、そこにはるはいませんでした。
「はる、どこに行ったのかしら。食べていたら帰って来るわよね。」
るなは、目の前の食事に夢中になってしまい、はるのことをすっかり忘れてしまいました。
全部食べ終わった時、はるがお鍋を持ってやって来たのです。
「姉さん、お腹空いたでしょう?カレーライスを作ったんだ。子供の頃よく一緒に食べたよね。」
「はる、どこに行っていたの。私、もうお腹いっぱいよ。」
「ずっと姉さんのためにカレーライスを作っていたんだよ。そんなこと言わないで。」
「私、ご馳走をたくさん食べちゃったの。流れ星にお願いしてキャンプの準備全部終わらせてもらったのよ。」
るなは、とびっきりの笑顔をはるに見せました。
はるは、悲しい気持ちでいっぱいでした。
「姉さんは、僕がいなくても楽しいよね。僕達大人だもんね。一緒にいなくても、もう大丈夫だね。」
はるは、とぼとぼとお鍋を持って歩いて行ってしまいました。
はるの背中が小さくなってしまいます。
「はる、どうしちゃったのかしら。ご馳走全部食べたこと怒っているのかしら。子供の頃は、時間があればずっとはると一緒に遊んでいたしはるがいなくても楽しいってそんなこと思いたくないけれど、私達もう大人なんだし会える時間は限られて…」
その時、るなは思いました。
「大人になってから、はると一緒に過ごす時間が少なくなっていることに何で私は今まで気付かなかったんだろう。」
今日、誘ってくれたのもきっと子供の頃のように楽しく話をしたかったからだと姉なのに弟の気持ちに気付けなかったことが、るなはとてもショックでした。
るなは、膨れたお腹におもいきりパンチをします。
ですが、お腹はいっぱいのままです。
「どうしてあんなご馳走を食べてしまったの!私が今一番食べたいものは、はるが作ってくれたカレーライスよ!」
るなは、今にも消えて無くなりそうなはるを見て叫びました。
「待って!はる!私、食べる!本当はお腹いっぱいじゃないの!」
ですが、はるには聞こえていないようです。
はるの姿が見えなくなった時、るなは泣き出してしまいました。
「はる、私が悪かった。一緒にキャンプしようって誘ってくれたのにわがまま言ってごめんなさい。子供の頃、よく一緒に食べていたカレーライスを作ってくれたのに食べれなくてごめんなさい。」
るなは、次第に泣き疲れて夜空を見上げていました。
そもそも、るなが流れ星にキャンプの準備を全部終わらせるように願って起きてしまったことですから、るなはもう一度流れ星に願おうと考えたようです。
「流れ星さん、お願いします。はるとの大切な時間をどうか私にお返しください。キャンプの準備を終わらせないでください。」
るなが目を閉じた時、夜空にたくさんの流れ星が降り始めたのです。
それはとても幻想的で美しいものでした。
夜空にいたはずの一つの星がるなの心に触れると、るなは目を開けたのです。
そこには楽しそうに料理をしているはるがいました。
るなは、嬉しくて泣いてしまいました。
「姉さん?何で泣いているの?」
はるが慌ててるなの方へ走って来ました。
「こ、これは、嬉し涙よ!」
すると、はるは目を輝かせてるなの手を取りました。
そして、言ったのです。
「姉さんも僕と同じ気持ちだったんだね!よかった、姉さんにずっと会いたかったんだ。」
「私もだよ、はる。」
るなは、はると一緒にカレーライスを作り始めました。
はると話しながら料理をしていると、一緒に過ごす時間がとても楽しい時間だったことにるなは、気付きました。
時間を忘れて夢中になって作ったカレーライスは、美味しそうな匂いがしています。
「出来上がったね!姉さんも一緒に作ってくれたから、きっとすんごく美味しいよ!」
「大袈裟よ、はる。」
「じゃあ、手を合わせていただきます!」
「いただきます。」
るなは、一口食べると体が震えました。
子供の頃の記憶が甦るのです。
「美味しい…」
るなは、こんなに美味しいと感じるご飯に出会ったことがありませんでした。
流れ星が叶えてくれたご馳走よりも、大人になってから食べたはる自慢のカレーライスがとても美味しかったのです。
食べていると、子供の頃の記憶をどんどん思い出すので、るなとはるは話が弾みました。
「僕が姉さんの嫌いなチョコをお母さんが作ったカレーライスに、いたずらで入れたんだよね。」
「そうしたらコクがでて美味しくなったのよね。びっくりした。あの頃は楽しかったね。」
「僕は今も楽しいよ。」
はるの笑顔を見ると、るなはとても嬉しくなりました。
『はるの作ってくれたカレーライスが私の一番のご馳走よ!』
るなは、はるに伝えたくて仕方ありませんでした。
「でも、直接伝えるのは恥ずかしいわね。」
「どうしたの?姉さん。」
「何でもないわ!」
「姉さん、僕、流れ星を今日見ることが出来たら子供の頃みたいに姉さんと話をさせてほしいってお願いしようと思っていたんだ。」
「はるの姉さんなのに気付けなくてごめんね。私、姉失格だわ。実は、流れ星に先に願い事を言ってはるを傷つけてしまったの。」
「それいつの話?」
るなは、困ってしまいました。
るなもよく分からなかったからです。
そんなるなを見てはるは、笑って言いました。
「きっと、姉さんは夢を見たんだよ。僕のことが心配だったからそんなことを考えたんじゃないかな。」
「違う!私、自分のことしか考えてなかった。はるのこと流れ星が叶えてくれたご飯を食べるのに夢中になって忘れていたの。」
「それは、僕も同じだよ。お互いのことをずっと考えられるわけないじゃないか。楽しい時間はたくさんある。僕のことは、たまに思い出してくれるだけで十分だよ。わがままを言うと1年に1回姉さんと会える日を作りたいな。」
「もちろんだよ。ありがとう。はる。」
「こちらこそ、ありがとう。姉さん。」
るなとはるは、夜が更けるまでずっと話をしていました。