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7話 校長先生の正体

「翔隆さん、この世界に転生してきて良かったですか?」


 は? 転生? なんで校長先生がそんなことを知っているんだ? ただの言い間違いか、それとも聞き間違いなのか?


「混乱しているようなので自己紹介が必要ですね」


 改まってネクタイを絞める校長。


「私は転生者が行った世界を監視する神官です」

「神官……?」

「はい、転生者が他の世界に行くということは、その世界に異物を介入させているようなものですから、基本不安定になりがちでして、ちょっとしたきっかけで世界そのものが崩壊してしまう恐れがあるのです」


 うわ、恐ろしい。


「ですので、そういった事態にならないために私達は派遣されるのです」

「過去に崩壊してしまった世界というのは存在するのですか?」

「はい、2つほど」


 少ないと考えるべきなのか、2つも世界が滅んでると考えるべきなのか。


「1つは異世界に行く際には以前まで転生特典というものを渡しており、転生した先で不自由なく過ごせるようにと思ってしていたのですが、1人の特典があまりにも強力で世界そのものを壊してしまったのです。そのため、今では転生特典というものは廃止されました」


 そんな物騒なものをポンポンと送り出されたら溜まったもんじゃないからな。その世界の強さの均衡が大きく崩れてもおかしくない。


「2つ目は1つの世界に転生者を送りすぎて、本来起きるべき事が起きなくなり、変わり果てた結末を迎え、滅びました。その世界はこの世界と同じような地球の本の物語でした」

「つまり、こっちの世界に転生者を送りすぎたら世界が滅ぶ可能性もあると?」

「はい、可能性としては。ですが、その過ちを二度と犯さないようにこのような物語として終わりがあるような世界には6人までしか送れないこととなりました」


 少ないな。もう少し送ることはできないものなのか。


「少ないと思いでしょう。しかし、転生出来る世界は何千もあるのです。ですから、そのように1つの世界に人が集まるような事態は中々起きないものですよ。それに、どちらかというと本の世界より冒険者ものの異世界の方が人気ですからそちらに行く方が多いですね。あちらは人数制限がないので」

 

 結末を知っている日常的な物語よりも何が起きるか分からないハラハラ物の方が人気は出るよな。現に僕もそっちの世界に行こうとしていたぐらいだし。


「一応確認なのですが、僕がもし余計なことをした場合、この世界が滅ぶということはあり得るのでしょうか?」

「いえ滅んだ世界の方は完結しているため終わり方と言うのは決まってましたが、こちらの世界は未完であるので、物語自体が崩壊するといったことは限りなく低いと思いますよ。未完なら終わりなんて決まってないんですから」


 なら良かった。自分が世界の破壊者になるなんて嫌だからな。さっきから完結だの未完だの言ってるが、物語が完結した場合はその世界はどうなるんだ。


「物語が完結したら強制的に返されてしまうんですか?」

「いえ、そのままその世界にいることは出来ますよ。時間もそのまま進んでいくのでそこで人生を終えることも可能です」


 じゃあ、この物語の終わりを見届けた後でも住み続けることはできるのか。


「ただ1つだけ忠告があります」

「なんですか?」

「この世界にはすでに翔隆とは違う転生者がいます」


 やっぱりいるのか。それ、いくら他にも世界があると言っても一人ぐらいはいてもおかしくはないからな。


「その転生者がこの世界に来たことで過去が少し変わった様子があるんですよね」


 ヤバくない? この会話がこの物語崩壊の伏線とか嫌だよ?


「つまりですね、翔隆さんがこの世界に来たことで何かしらの影響をこの世界は受けている可能性があるので、十分に、注意をして下さい」


 6人までの制限意味ないじゃん。普通に影響でてるじゃん。


「現に、翔隆さんは夕香さんの家族に何の問題もなく引き取られてるのですよ。普通あり得ないでしょう」


 それは僕も感じている。初対面の男子が家に居候出来たのには絶対に理由があるはずだ。


「本来であれば、翔隆さんがこの世界に溶け込めるよう天使や私が調整を行うのですが、今回はこちらの不手際で何の調整ができないままこの世界に送られたことで、この世界が勝手に翔隆さんを溶け込ませるよう調整してしまったようですね」


 ご都合主義観が強かったのはこれが原因だったのか。


「つまり、翔隆さんが知っている世界とは違ってくることが今後起きてくるかもしれませんね」

「どこら辺が変わっているとかは神官さんは知っているのですか?」

「大体のことは把握しています。6年前の変化も私の方では把握できてます」

「それを教えてもらうことは?」

「すみませんがそれは出来ないんです。私たちはあくまで監視が目的であり、不測の事態が起きたときに制止することしか出来ないんです。それ以外の過度の干渉は認められておらず、そのため、転生者が知り得ないこの世界のことを他の人に教えることは禁止されているのです」


 意外と厳しい制約があるのか。


「分かりました。もし、自分がこの世界に来たことでの影響が出た場合は自分で解決できるようにします」

「そうして下さい。何かあれば、今こちらに向かう準備をしている天使が1人いるので、到着したら聞いて下さい」


 その天使は僕をこの世界に送った天使だろうな。あの時、後で追いかけると言っていたし。


「それにしても、私も驚きましたよ。学校に行っていない子供が高校2年生から通わせろと直哉が言ってきたときは」

「よく、そんなこと認めましたね」

「初めはテストの点数を見てからにしようと思っていましたが、電話の後、天使の方から翔隆さんのことについて連絡が来まして、テストを受けるのが転生者であるなら話は別です。ちゃんと学校に通えるようこちらの方で準備をしておきましたから」

「ありがとうございます」

「いえ、これが私の仕事ですから。それにしても、編入試験で手を抜くなんてよくそんな考えが出てきましたね」

「最初の校長先生の雰囲気が怖かったので、これは落としにかかってるなと思い込んでしまいまして……」

「久しぶりの転生者だったので少し遊ばしてもらいました」


 あのビビった時間を返して欲しい。


「それでですね、天使の方から翔隆さんの学力の資料も送られてきたのですよ。それを見ると明らかに解けるはずの問題を間違えていたので、少々心を読ませてもらいました」


 それで全てが筒抜けだった訳か。それなら、あの小説問題も純粋に間違えたと気づいていただろうな。心を読むのはやはり反則だと思う。


「まさか、本好きの翔隆さんがわざと小説問題まで点数を下げにきたとは驚きましたよ。そこまで、勝利に貪欲なのですね」


 あれ? 気付いてない? 心を読めるといってもいつでも読めているわけではないみたいだ。


「最初から無駄な足掻きだったのですね。僕がやろうとしていたことは」

「はい。でも、翔隆さんがどれ程頭が良いのか知る機会になれたので良かったです」

「後半は本気を出しましたからね」

「でも、最後の問題は夕香さんに答えられてしまいましたね」

「あれは、本当に悔しかったですね。僕が答えて締めてやると思ったところをかっさられましたから」

「あのもどかしそうな顔が面白かったですよ。言いたそうにしてるのに何もいえなくなって、しょんぼりと夕香さんを見ている翔隆さんが」


 そういうところは心を読まないで欲しいんだけどな。


「そういえば、教師眼を舐めるなって言ってましたけどをあれは嘘だったんですか? 神官なら教師なんてやってないでしょうに」

「あれは本当の話ですよ。私はこの世界に来るまでは天使に勉強を教えていましたから」


 あっちにも学校みたいなところはあるんだな。


「そろそろ、雑談はこれぐらいにしておきましょう。久しぶりに元の世界の住人と話せて楽しかったです。あとはこちらの方で手続きをしておきますので、明日から学校に通えますよ」

「明日から? そんなに早く通えるものなんですか?」

「言ったじゃないですか、後は私に任せて下さいって、転生者が住みやすいようにお手伝いするのが私の仕事ですから、これぐらいは簡単に処理できますよ」


 転生者サイコーだな。


「じゃあ、お願いします」

「はい。では本日はお疲れ様でした。夕香さんもそろそろ待つのに退屈してるでしょうから早く行ってあげて下さい」

「ありがとうございました」

「それと、しばらくの間の衣服は私の方で用意しときましたのでそれを着てください」

「何から何までありがとうございます」


 校長室から出ようとしたとき校長が改まった様子でしゃっべった。


「この物語がどのような結末に迎えようとも、この世界に転生したあなたが幸せになることを願ってます」

「世界を滅ぼさない程度には自由にやろうと思います」

「ハハハ、さすがにそれはお願いしますね」


 少し困ったように苦笑する。


「では、楽しい異世界生活を!」

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