表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
6/29

5話 編入試験

「どう? 勉強は捗った?」


 ピッタシ1時間後に夕香が迎えに来た。


「うん、バッチリ。あとは、当日に備えて体調管理すればいいだけかな」


 この世界の政治も現実の世界とあまり変わらなかった。なんとも都合が良い。これが物語の世界というものか。余計な設定を加えられていないのは正直ありがたかった。


「よし、体調管理なら任せて、私体調崩したことないから。それにお父さんも私が管理してから体調悪くなったことないんだから」


 こんな感じのセリフ、本の中でも言ってたな~。小説の方では、今年の秋ぐらいに体調悪くなったけど……。


「じゃあ、頼もうかな」

「オーケー!」


 夕香は楽しそうに返事をした。だけど、突然夕香が小さな声でつぶやいた。


「弟が……たら、翔隆と同じぐらいになってたのかな」

「どうしたの?」

「ううん、何でもない。今のは忘れて」


 夕香のお母さんは病気出なくなってるから、夕香には姉弟がいないんだよな。もしかしたら、弟が欲しかったのかもしれない。それで、僕のことをいろいろとお世話してくれているのは僕を弟と思ってやっているのかもしれない。


「よし! 帰ろっか。今日の夜ごはんは鍋だよ」


 それまた豪勢だな。でも鍋なんて久しぶりに食べる。


「翔隆の歓迎会しなくちゃ」

「いいよ、そんなの。居候してる身としてそんなの開いてもらうのは悪いよ」

「いいのいいの、私達が勝手にしたいと思ってるだけだから。お父さんも賛成してることだからさ」


 例えばこれが、僕が夕香を助けてこの家に住ませてもらえることになっていたなら、歓迎会が開かれても受け入れたかもしれない。でも、助けられたのは僕の方だし、結構情けない感じで居候しちゃってるからな。それで、歓迎会開くって言われても申し訳なさがある。


「気にしなくて良いよ、お父さんは鍋を食べたいだけだから、こういう祝い事ぐらいじゃないと鍋食べないしね」


 そういう理由なら申し訳なさも少しは薄れる。××さんは僕の歓迎会をするという名目で鍋を食べたいのだと分かったから。


「じゃあ、お言葉に甘えようかな」

「決まりね! じゃあ、急いで帰ろう」


 野菜の入った袋をぶん回しながら、走って行く夕香。余程、鍋を食べるのが楽しみなんだろうな。でもあれ、袋の中の野菜大丈夫なんだろうか。


    *


 編入試験当日。


「いよいよだね」

「うん」


 この世界に来て4日目。ついに編入試験当日を迎えた。できる限りこの2日間、勉強を頑張った。とは言っても、3教科はまるでやってない。元々出来る教科だったし、分野が多くある理科や社会を中心的にやっていた。


 あとは、夕香に付き合って10kmジョギングをしたりして、ある程度は体を動かしておいた。学力も身体能力も元の世界と変わらないままだったのは好都合だった。元の世界はどちらも平均以上だったから、これがそのままこの世界に反映されたのは正直デカい。学力は変わらないようはないとしても、転生したことで身体能力は弱体化させられる可能性も考えられたから。


 さてと、学校に行くとするか。この世界があの本と同じなのかを確かめるためにもここはまず突破しなければならない試験だ。落ちれば確かめるのが困難になる。


「お父さん、行ってくるね~」

「おお、行ってらっしゃい。頑張っておいで」

「××さん、このような機会作ってくれてありがとうございました」

「お礼なら、受かってからで良い。まずは、目の前の試験をしっかりな」

「はい!」

「じゃあ、お父さん行ってくるけど、私が居ないからってゴロゴロしてちゃダメだからね」

「わ、分かってるよ」


 ××さんは手に持って枕を慌てて後ろに隠す。やっぱ、この人がいるとなんか締まんないな。そんなキョドった様子を睨む夕香。


「夕ちゃんそんな目で見ないで」


 ……とりあえず、頑張ってくるか。



「自信はどれぐらいある?」


 学校に着き、試験会場となる校長室の前にやってきた。夕香にテストの自信を聞かれたので正直に答えた。


「実力が出せればたぶん平気だと思う」

「凄い自信だね。私は本番に弱いタイプだから、テストとか苦手なんだよね」


 へー、知らなかった。夕香は高2の初めての中間テストで学年2位だったから、本番に強いと思ってた。もし、本番に強かったら、もっと上の方に行けるってことか。でも、学年2位で本番に弱いと言われてもなんともいえない。他の人が聞いたらキレるレベルだと思う。それのどこが本番に弱いんだって感じで。


「僕は逆に本番に強いタイプかな。だから中間テストでは僕の勝ちかな?」


 僕は笑って夕香の顔を見ると、


「それとこれとは話が別だよ。Aにはテストで負けないからね」

「僕こそ負けない」

「ほー、君はもう編入試験を受かること前提なのかね」


 僕らが言い争ってるところに、4,50代ぐらいの男の人が校長室から出てきた。


「校長先生、おはようございます」

「おはよう」


 この人が校長先生か。


「本日は編入試験を設けて下さりありがとうございます」


 僕が校長先生に向かって話すと僕の方を向いてこう言った。


「君があいつが言ってた子供か」


 あいつ? ××さんのことかな?


「では、早速だが、テストを始める」


 遂に来たか。


「小僧、この試験簡単に受かると思うなよ」


 校長先生の顔には妙に威圧感があった。てか小僧って……。これ、絶対歓迎されてないよな。ここまで1、居候を含め自分の都合の良いように物事が進んできたが、ついに簡単には行かないようになったか。まあ、当然ちゃ当然だろう。ここまで運が良かった分、ここらで一回その運の清算をしないといけない。


「それは重々承知してます。本日のテストに向けて最善を尽くして勉学に取り組んでいましたから」

「そうか、勉学はしっかりとしたのか」


 校長が不敵に笑う。やっぱり何か仕掛けてきたのだろうか。


「では、始めるとしようか」

「お願いします」

「テストは全部で5つ、まずは、その内の3つ国語、英語、数学のテストを受けてもらう」


 最初の3つは定番できたみたいだ。


「3教科300点満点で210点が合格ラインだ」


 つまり、7割。まあ、問題はないだろう。夕香が手で僕を呼び寄せ、僕にしか聞こえないように耳元で囁いた。


「編入試験、私が聞いてた話と違うんだよね。私、去年編入してきた子に何点で合格だったか聞いたんだけど、6割だったんだって、しかも5教科で」


 なるほど、やっぱり難しくされたみたいだ。5教科のテストの説明をしないということは、社会と理科は出ない可能性が高いということだろう。


「大丈夫なんとか頑張るよ」


 夕香の不安そうな顔を見て、明るく振る舞った。今更ジタバタしたところで何も変わりはしない。だったら、今持てる力を全力でやるのみ。3教科なら余裕だろうし。


「制限時間は各教科50分、では始め」


 校長先生の合図で問題を見た。1つ目のテストは国語だ、内容は2割漢字、5割現代文、残りの3割が古文だった。これは日頃から本を読んでいた僕にとっては楽勝だった。たぶん8割り近くは最低でも取れただろう。漢字は比較的簡単で間違いなく全問正解だ。

 

 2つ目の教科は数学だ。因数分解を中心に出され、確率や図形問題などを解いていく感じとなった。正答率は7割程度に抑えた。

 

 3つ目は英語で、リスニングが3割、筆記が7割と、リスニングの配分が意外と大きかった。6割取れれば合格確実だろう。こちらも6割程度で点数をとどめた。


 3つのテストが無事終わり、採点を待つ間、夕香とお昼を食べに行った。


「テスト難しかった?」

「うん、予想よりも問題数が多くて、たぶんギリギリ210点は取れてるとは思う」


 本当はそんなことはないのだが、この場では嘘をついておくことにした。


「その割には浮かない顔してるね」

「あまり点数が取れてないからね。それに残りの2つのテストが心配かな」

「何が来るか分からないもんね、普通に社会と理科なら良いけど、そういう雰囲気じゃなさそうだし……」

「なるようになれって感じかな」

「大丈夫、Aなら受かってるよ。この調子で頑張って!」

「うん、分かった」


 この3教科に関しては間違いなく受かってるだろう。点数は215点前後になるように調整したし。取ろうと思えば全教科90点は取れる試験であった。だけど、ここで高得点を取ってしまえば、残りのテストが難しくなる可能性がある。校長は僕のこと受け入れたそうにしてないから落とそうとしてる相手が大したことないと思わせるには手を抜くのが手っ取り早い。そうすれば急に変な問題を出してきたりはしないだろう。


 再び、校長室に訪れると校長は一枚の紙を持っていた。たぶん、僕のテストの結果だろうな。


「翔隆の試験の結果は国語87点、英語58点、数学73点、合計218点」

「じゃあ……」

「まずは、3つのテストは合格ということだ」


 やっぱりギリギリの点数になった。ありがたいことに一問一問に配点が書かれていたから、調整するのは簡単だったからな。


「ギリギリ合格出来てて良かったよ。でも、あんなに自信満々だったのにその点数って、私にこんな点数じゃ勝てないよ」


 夕香は安堵したかのように胸を押さえ、その後僕のことを小馬鹿にしてきた。これには訳があるんだけどな。まあ、誰にも言うことはないだろうけど。


「英語のテスト、手を抜いただろ?」


 校長の視線が僕の目を貫く。


「え?」


 なんで分かったのこの人。


「え、手を抜いた……の?」


 信じられないものを見たかのような顔をする夕香。


「英語だけじゃなく、他の2教科も本当はもっと取ることが出来たんだろ?」


 あれ? 僕の作戦失敗?


「何故分かったんですか?」

「え、本当に手を抜いたの? この学校に入りたくなかったの?」

「ううん、この学校には入りたい思ってるよ」

「それならなんで?」

「さしずめ、自分を私に低く見せることによって、テストの難易度を上げられないようにしたんだろう」

「どういうこと?」

「私は高校に行ってなかったのに2年生から編入させることはどうかと思っているのですよ」


 それはそうだと思う。僕が先生なら転入は認めるにしても高1からやらせると思うし。


「それで、いつもとは違う編入試験を用意して君を落としにいこうとしてた。ただ、君は私のそんな考えを感じ取ったのかなんなのかは知らないが、それで自分の実力を低く見せることによって、テストのレベルを下げさせ、楽に突破できるようにしようとしたのだろ? もし高得点を取ってしまえばテストが変更され難しくなるのを危惧して」


 バレバレじゃないか。この鋭い校長先生はなんなんだ。あの本には全く登場してないくせに、頭が良すぎるだろ。作者は何を考えて、この校長をこんな鋭い人にしたのだろうか。


「本当なの?」

「うん」

「私を舐めてしまっては困る。何年教師をやっていると思うんだ。解答用紙を見れば明らかに点数調整が行われたことぐらい分かる」


 そんなことまで分かるもんか普通……。校長を舐めていたことを少し後悔した。


「まずは、英語だ。得点の高い問題はしっかりと取っているのに、レベルの低い問題をケアレスミスかに見せかけたように不正解だった」

「それって、普通にケアレスミスなんじゃ?」

「いいや、ケアレスミスにしては多すぎる。30点以上もケアレスミスで点数を落とした生徒を私は見たことがない。それに試験監督に聞いたらどのテストも30分もかからず終えたそうだな」


 意外と問題が簡単で暇だったから途中退室したけど、まずかったみたいだ。でも退屈なんだからしょうがないじゃない。20分も何もしないで机の前にいるのってしんどいから。


「そもそも、低レベルの問題でケアレスミスをして点数を落としたところで、高レベルの問題が解けてる時点で君は普通の生徒より勉強が出来ていることは丸わかりだ」


 やっば……。点数だけしか気にしないと思ったらしい、中身までしっかり把握してるのかよ。試験監督が校長じゃなく、違う先生だったから油断してた。でも、この先生いくらなんでも疑い過ぎなんじゃないだろうか。確かに30点をケアレスミスのように見せかけたのはやり過ぎたとは思うけど、僕の知り合い25点ぐらいケアレスミスで落としてた子いたけどな。


「得点調整するなら、テストでどの問題を解くのかも気にするべきだったな」


 相性が悪すぎる。まるで、僕の心を見透かしてるか、元々僕の学力のレベルを知っているとしか思えない。


「数学も英語と同様にそのような傾向があった」

「国語もそうだと思うんですか? 自分でも言うのは何ですが、87点は高得点だと思うんですが」

「君なら100点を取ってもおかしくはないと思ったんだか?」

「え、100点? そんなに頭が良いの?」

「評論は確かに難しい問題を落としていた」


 取り過ぎてもいけないと思って点数の高い問題をわざと間違えた。小説の問題は小説好きとして全力でやりたかったから、得点が高くなってしまうのは分かってた。だから、英語の点数を極端に下げることになった。


「小説はこの『生き別れた幼なじみと再会した彼女の気持ちとして近いものを選択肢の中から選びなさい』という問題もわざと間違えたな?」


 僕は黙るしかなかった。


「他の心理描写の問題は正解してるのに、この問題だけ解けないってのは変だからな。こっちも点数が1番高いからわざと間違えたんだろ?」


 その問題……。普通に分からなくて、間違えたました。いや、分からないって。10年近く会っていない幼なじみが突然現れて、主人公に恋心を抱いてましたなんて、分かるか。でも、ここまできて普通に間違えたなんて言えるはずもない。


「よく分かりましたね」


 このまま、やり通すことにした。


「言ったでしょ? 教師の目を舐めるなと」


 この問題に関しては節穴だと思うよ、その教師眼。


「つまり、以上のことから、私は君のことを舐めてかかるつもりはない。ここに次のテストである、一般常識と家庭科の問題を用意しておいたがやめるとしよう」


 家庭科? それは危ない。家庭科なんて対策すらしてない。逆に無くしてくれてありがたいぐらいだ。

ていうか編入試験で家庭科のテストをするなんて聞いたことがないぞ。絶対ネタで作った問題だろ。どんだけ、僕を落としたいと思っていたのかが分かった。


「では、何のテストをするんですか?」

「君はさぞかし、ガリ勉だったんだろう」


 全くそんなことはないですけど。やることがなくて勉強はしてたけど、そこまで本気でやった覚えはない。


「だから、ガリ勉の人が苦手と思われる体育を4つ目のテストとする」


 やっぱ、この人思い込みが激しいだけで、なんも鋭くないな。僕、体育得意だから。


「よし、校庭に出ろ。4つ目の試験を開始する」


 結果は言うまでもない。僕はこのテストは簡単に突破するだろう。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ