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18話 ストーカー退治

 ストーカー退治の作戦は昼休みから始まる。


「みんなで一緒にご飯を食べてるときに始めるんだっけ?」

「そうだよ、真凛愛は僕の話に合わせるだけでいいからね」

「うん、任せて」


 お昼はいつも校舎の外のベンチで食べている。夕香と真凛愛の弁当はいつも僕が作っている。居候している身なのに、何もしないわけにはいかなかったのでお昼ぐらいは僕が作ることにしていた。


「夕香ちゃんこっちだよ」


 真凛愛が夕香たちを見つけこちらに手を振って呼び寄せる。


「やっぱり、家に帰った方がいいんじゃない?」

「ううん、大丈夫。寝不足なだけだから」


 時間が経つに連れてみらの様子が悪くなっていく。真凛愛の言うとおりもう限界だろう。本当に今日対処しないといけないぐらいに思えてくる。


「お、今日もここで食べるのか」


 遅れて来たのは朝陽だ。朝陽が来たことで辛そうな顔をしなくなる未来。気になる人の前では元気な子でいたいってことか。これが原因で朝陽が未来の様子に気付くのが遅れてストーカーへの対処が遅れてしまったんだよな。朝陽のみ未来の様子に気付かないままお昼を食べ始めた。

 

 食べ始めて5分ぐらい経ったぐらいに真凛愛に目で合図を送る。それに気づいた真凛愛も目で返事をしてくれた。


「そういえば、昨日バイトしてるときに聞いたんだけど、この辺でストーカーに遭っている人がいるみたいだよ」


 ビクッとする未来。やっぱストーカーに遭ってるのは間違いなかったか。


「え~怖い、夕香ちゃんバイトで帰ってくるの遅くなってるけど、大丈夫?」

「私? 私は大丈夫だよ。もしストーカーに遭っても逃げられる自信あるし」


 夕香は日頃から走ってるから大丈夫そうだな。その反面、未来はあまり運動が得意じゃないから夕香みたいなことはできないだろう。


「未来ちゃんも大丈夫? 部活で遅くなることもあるだろうし」

「私は大丈夫だよ」


 強がる未来。朝陽の前じゃやっぱり簡単に言わないか。


「でも怖いね。そうだ勉強会がある日はみんなで帰らない?」


 打ち合わせで僕が一緒に帰ることを促すはずだったんだけど、真凛愛がやりたいと駄々をこねたので任せることにした。ボロも出すことなく上手くできているので、真凛愛に任せたのは正解だったのだろう。こういうのは男の僕が言うよりか弱そうな真凛愛に言ってもらった方が効果的かもしれない。


「いいね、朝陽と翔隆の男二人がいればストーカーなんて近寄ってこないかもね」


 夕香が真凛愛の話に乗ってきてくれた。単純で助かったな。


「僕は構わないよ」


 そう言ってくれる朝陽。ここで断るような性格じゃないからな朝陽は。


「未来もいい?」


 夕香が未来に聞く。ここで断られたら、僕と真凛愛だけでストーカーの対処を強いられる。


「いいよ」


 なんとか第一関門は突破かな。次の作戦は帰り道だ。


     *


 中間テストの勉強会を終え、下校時刻となった。現在の時刻は午後6時。外はだいぶ暗くなっている。


「じゃあ、帰ろっか」


 教科書をバッグにしまいながら夕香が言った。


「じゃあ、家まで送っていくね」

「朝陽、ありがとう」


 未来が住む場所は夕香の家と反対の方角で歩いて20分ぐらいかかる。朝陽は電車通学だからいつもなら学校から歩いて5分の駅に向かうが、今日は未来の家までついて行ってくれる。夕香も一度未来を家まで送ることを了承してくれた。校門を出てすぐのコンビニで真凛愛が立ち止まる。


「あ、忘れ物した」

「え、ホント?」


 夕香が真凛愛の言葉に驚く。


「ごめん、取りに行くから先に行ってていいよ」

「1人じゃ危ないよ、ストーカーみたいなのがいるんでしょ?」


 『じゃあ、僕がついていくよ』と言おうとしたが、


「待ってるから、翔隆一緒に真凛愛ちゃんについて行ってあげて」

「うん、分かった。真凛愛急いで行こ」

「うん」


 夕香がそう言ってくれたのは助かったな。それに待っててくれるのも助かる。もしかしたら先に行かれてしまうと思ったがそこは優しい人たちだ。さすがに真凛愛一人を置いていくことはしなかった。僕と真凛愛は走って、電柱を5,6本超えたところで立ち止まった。


「翔隆、あの人がそう?」


 真凛愛が指差す方向には、30代ぐらいのオジサンがいた。


「うん、そうだよ」

「確認できたし、戻ろっか」

「そうだね」


 オジサンのことは気にしてないように通り過ぎて夕香たちのところへ戻る。


「あれ、早かったね」

「うん、なんか落としてたっぽくて道端に落ちてた」

「え、良かったね見つかって」

「汚れてる様子もなかったから良かったよ。待っててもらってごめんね」

「ううん、大丈夫だよ。じゃあ二人も戻ってきたことだし、帰ろっか」


 再び歩き出す、3人組。ここまでは作戦通りだ。まず、真凛愛に理由をつけて3人から離れてもらう。それで僕もついて行ければさらに良い。そこでストーカーが居ればどんな人なのかを真凛愛に把握させる。ここまでが第2の関門だ。


「ここまで上手くできてる?」


 耳元でそう囁く真凛愛。


「今のところはね」

「どうだった? 私の演技」

「期待以上だったよ。みんな信じてくれてたしね」

「えへへ」


 褒められてうれしかったのかニコニコ笑う真凛愛。今スト-カーにつけられてるってのを忘れてるかのように油断してるな。本番はここからなのに。


「これからどうするの?」


 真凛愛にはここまでの作戦しか話していない。この先は僕も確実とは言えない作戦だったから。でも、ストーカーが一人というのは確認できたから当初の考え通りでいいだろう。


「僕が合図したら警察の連絡してくれればいいよ」

「それだけ?」

「うん、それだけ」

「合図はどんなのにするの?」

「まだ決めてないけど」

「じゃあ、ライオンって言って」

「なんで?」

「警察は110番でしょ? だから百獣の王のライオンで」


 何言ってるんだ?


「真凛愛がそれでいいなら良いけど」

「了解」


 敬礼みたいなのをして真凛愛は夕香の元へ走っていった。緊張感がないな。これから一人の犯罪者と戦うわけなのに……。でもここからは朝陽の敏感さに賭けることになるからな。もし、朝陽が気づくことがなければ、一人でストーカーと対峙しよう。


 しばらく歩いたが、夕香は未来と楽しそうに話している。真凛愛も時々は後ろを警戒したり、夕香たちと話したりと忙しそうにしている。未来は楽しそうに話しているもののどこか後ろを気にしているようなそぶりを見せる。朝陽はいつもと変わらない感じで歩いてる。僕は後ろを警戒しつつストーカーの位置をしっかり把握している。


 もうすぐ、未来の家についてしまう。しょうがない、一人でストーカーを捕まえるしかないか。


「どう?」


 突然朝陽に話しかけられた。


「何が?」

「ストーカーいたんだろ?」


 へ~、やっぱ気づくんだ。さすが、敏感なことだけある。賭けて正解だったな。


「どうして分かったんだ?」

「未来の様子が最近おかしいのは気づいてたが、なんでかまでは分かってなかった。でも、今日の昼休みの時、未来はストーカーという言葉に異様に反応してたし、さっきから真凛愛も翔隆も後ろを警戒してるだろ?」


 良かった、わざとらしくした甲斐があったよ。


「気づいてたのに、未来には聞かなかったんだ」

「僕たちに相談しないということは言いたくないことがあったってことでしょ。あの様子だと夕香にも言ってなさそうだし」


 ここまで推理してくれると話が早くて助かるな。ほとんど正解しているし。


「それで、翔隆と真凛愛はいつストーカーがいることに気づいたの?」

「真凛愛が忘れ物をしたとき戻ったでしょ? そのとき、ずっと未来の方を見ている人が電柱の裏にいたんだ」

「偶然その場所にいたとかじゃなくて?」

「うん、さっきから後ろを見てると、同じ人がついて来てるしね」

「そうか、でどんな人なんだ?」

「たぶん30代ぐらいのオジサン。体格はがっしりとはしてないけどそれなりに肉がついてる」

「そうか、ストーカーは一人だけだよな」

「うん、一人しかいない」

「ならいけるか」


 おい、待て、嫌な予感がする。


「夕香ちょっと来てくれる?」

「なに~?」


 一人だけ現状を把握していない夕香が近づいてくる。無知って幸せだな。そんな夕香の耳元で何かを言う朝陽。この距離では何を言っていたのか全く聞こえなかった。


「分かった、未来のことは任せて」


 急に真面目な顔をして夕香は未来の元へ駆け寄っていった。


「どうしたの夕香?」

「いやなんか、朝陽と翔隆はトイレに行きたくなったから先に行ってくれって」

「なら全然待つけど」

「え……、いや私早く帰って見たいテレビがあったの思い出したから早く行こ」

「……そう? じゃあ、朝陽と翔隆先に行くね」


 どこか腑に落ちないと思いながらも未来は夕香と先へ進んだ。


「夕香になんて言ったの?」


 聞かなくても大体想像ついている。悪い方向にだけど。


「ストーカー見つけたから先に逃げてくれって言ったんだ」


 やっぱりか、本当なら5人全員でストーカーに対処しようと思ったのに。でも未来と夕香はそこまで役割がないから最悪3人でも対処できるか。


「未来と真凛愛を連れて逃げてくれって」

「え?」

「ほら、真凛愛ちゃんも行くよ~」


 まて、真凛愛はこの作戦には絶対必要なんだ。


「ん? なになに」

「なんか朝陽と翔隆が……」


 おーいストップ、真凛愛が居なきゃこの作戦は無理だから行くなよ真凛愛。


「そうなんだ。じゃあ、翔隆と朝陽くん先に行ってるね」


 じゃない。真凛愛は行くな。心読んでるなら、僕が今考えてること分かるんだろ。あ、そっか、心読むの止めたんだっけ……。目で訴えるが、気づかないまま行ってしまった。やばいやばいやばいやばい。全部が裏目ってる。これだったら、僕と真凛愛で対処した方が成功率高かったわ。夕香たちが見えなくなったのを確認した朝陽は電柱に向かって言い放った。


「そこにいるのは分かってるんだ。コソコソしてないで出て来いよ」


 ダメだこりゃ。こうなった朝陽はもう止められない。無駄に正義感の強い朝陽はこうなったら後先考えずに突っ込んでしまうタイプだ。怪我を覚悟で戦った方が良いかもな。


「何を言ってるんだ君は。ただオジサンは自分の家に帰ってるだけだけど? ストーカーなんかしてないけどな」


 まあ、そう言うだろうな。


「誰もストーカーとは言ってませんけど?」


 朝陽もそう言うのは分かってる。


「バレたならしょうがない」


 諦めが早いよストーカーさん。もう少し粘ろうよ。


「顔を見られてしまったからにはタダでは帰せないな。力尽くで口封じさせてもらおうかな」


 展開が早いよ。小説じゃないんだからそういう力尽くとかいいから。普通なら逃げると思うよ。あ、これ小説の世界だった。


「こっちは2人だぞ。勝てると思うのか?」


 なんで煽る。真凛愛帰ってきてくれ。


「だからどうした。オレは学生時代柔道部だったんだぞ」


 ならストーカーなんてしないで人のために役に立てよ。犯罪者がたまにスペックが高いのは何なんだよ。


「一人が逃げて警察呼べば済むことだろ?」


 頭を使ってくれK。そんなこと言ったら。


「じゃあ、2人とも逃がすことなく、すぐにカタをつけないとな」


 そうなるじゃん。頭に血が上ると何も考えなくなるの止めてほしい。


「ごめん、見誤った。勝てそうにないや」


 小声で言ってくる朝陽。どうするのこれ。


「さあ、最初はどっちからかな」


 相手が柔道なら間合いに入れさせなければ攻撃は食らうことはない。だけど、攻めきれない。『ガタッ』と後ろで音がした。後ろを見ると電柱から真凛愛が手を振っていた。


「どうした? 退路の確認でもしてたのか?」


 ストーカーはどうやら気づいていないみたいだ。朝陽もストーカーに夢中で気づいていない。

 良かった。戻ってきてくれたか。


「どうしたんだ翔隆。後ろに何かあるのか?」


 朝陽後ろを見るな。最後の希望なんだから。ストーカーにバレたら終わる。


「何でもない。走ったら逃げられるか確認してただけだよ」

「ごめん、巻き込んで、考えなしに突っ込まなければこんなことにならなかったのに」


 ほんとだよ。


「俺がおとりになるから翔隆は逃げてくれ」

「そんなことはできないよ。2人で戦おう」


 逃げる必要はもうなくなった。


「友情ごっこはそこまででいいか」


 こっちに近寄ってくるストーカー。


「ライオン」


 突然叫んだ僕に驚く朝陽とストーカー。


「何を言い出したかと思えばライオンだって? バカにでもしてるのか?」

「翔隆どうしたんだ?」


 僕だって頭おかしい合図だと思う。だけど、時間稼ぎにはなっただろう。僕の後ろでは警察に電話してくれている真凛愛がいる。これほど真凛愛に感謝することはなかなかないだろうな。あとは5分ぐらい時間を稼げれば警察が来てくれるだろうか。


「さあ、覚悟はできたか」

「ああ、出来てる」


 朝陽が驚いたようにこっちを見る。大丈夫5分なら稼げる。


「ちょっと待て、なんでお前は未来のことをストーカーしてるんだ?」


 まあ気になるのも当然だろう。だけど、このタイミング? もう少し早めに言うもんじゃない? あのストーカー殴りかかろうとしてたよ。


「オレは、未来(みらい)のファンなんだよ」


 お前も話すのかよ。


未来(みらい)? 未来(みくる)じゃなくて?」

「なんだお前知らねえのか。お前たちと一緒にいるのは●ouTuberだぞ」

「はい?」


 あらら、バレちゃった。

 せっかく僕も真凛愛も黙ってたのに。


「翔隆知ってたか?」

「知らないよ」


 当然とぼける。


「だよな。本当なのか?」

「信じられないなら本人に聞くか、配信を見てみるんだな。大怪我を負った状態でだけどな」

「それで配信のことを内緒にしたかったからストーカーのことを黙ってたんだな」


 正解。やっぱ冷静だと頭が良く働くよ。


「それで、未来が配信者だからってなんでお前がストーカーする理由になるんだよ」

「そんなもん決まってるだろ。未来を独り占めしたいと思ったからだよ」

「気持ち悪」


 後ろの方でそう呟くのが聞こえた。


「は、意味が分からない」


 朝陽が呆れたように言う。配信者にガチ恋する人はいるからな。その行き過ぎた結果がストーカーなんだろうな。


「他の人にはあげたくないとかそんなもんだと思えばいいんだよ」


 首をかしげる朝陽。


「だから、お前も好きな人が一人ぐらいいるだろ? そいつのことは他の誰にも取られたくないだろ?」

「なるほどそういうことか」


 理解したのか。Kのことだから好きな人がいないから分かんないって言いだすんじゃないかと思ってたけどな。


「だからって、行き過ぎってもんだろ。大の大人が高校生をストーカーするなんておかしいだろ」


 正論をぶちまける朝陽。なんかこのまま二人の言い合い見てたら警察来てくれるんじゃないだろうか。


「関係ない。オレは未来を手に入れられればそれでいい。それ以上言うならお前を殺すぞ」

「ころす?」

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