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15話 担任の正体

 現在の時間は23時。出会った初日ぶりに真凛愛が僕の部屋に忍び込んできた。


「今日はどうしたの?」

「放課後は夕香ちゃんと話してたんでしょ? だから、夜は私と話す時間」

「話してたって一緒にバイトしてただけなんだけど」

「一緒にバイトしてるんだから同じようなものでしょ」


 1人でお留守番だったからつまんなかったのかな。しょうがない、付き合ってあげるか。


「話しても良いけど、ちゃんと寝るときは部屋に戻るよね?」

「……あ、当たり前だよ」


 戻る気なかったな。


「まぁ、とにかく話、話」

「分かった分かった。何について話すの?」

「えっとね……」


 真凛愛が話したのは未来と朝陽とかと何をしたとか学校生活に関わるものだった。



「そういえば、気になったんだけど」

「何?」


 真凛愛と話してる内に1つの疑問を思い出した。


「この世界に僕が知らない人がいるんだけど」

「見たことがなかっただけじゃなくて? 単純に出番がなかったとか」

「いや、本来の物語でいた人の立ち位置にその知らない人がいるんだけど」


 その人とは担任のことだ。あの顔は絶対に見たことがない。


「だったら、たぶんその人も転生者なんだろうね」

「なるほど……え? 転生者?」

「うん、だって翔隆が知らない人なんでしょ? だったらもともとその物語にいなかった人なんだから転生者しか考えられなくない?」


 そうか、それなら神官が校長先生になっているのも頷けるな。神官は転生者を見張る義務があるって言ってたから転生者が教師になってるなら校長という立場で見張ることができるし。


「ちなみに誰のこと言ってるの?」

「僕たちの担任だよ」

「へ~、あの人かそうなんだ」

「天使だったのに知らないの?」

「あの空間に来る子多いから、実際に会うのは担当する天使だけだしね」


 そういえば、交通事故で亡くなる子増えたって言ってたもんな。


「それに急に来るから事前に個人情報何も渡されないんだよね。全部自分たちが直接聞かないといけないから、自己紹介するところから始めないといけないから大変って先輩たち言ってたんだよね」


 人見知りな子とか小さい子が来たときは話すのに時間がかかりそうだな。


「まあ、私の場合は担当したのが翔隆だけだったから助かったけどね」

「大変さをそこまで分からないままこっちに来たのか」

「うん、ラッキーだったよ。まあ、あの世界に戻ったらまたやることになるけどね」

「真凛愛はあの空間に戻るつもりなの?」

「この物語が完結したら天使である私は戻らなきゃいけないからね」

「そっか……」


 騒がしいけど、いなくなると思ったらなんか辛いな。


「あれれ~、もう寂しがってるの?」


 なんですぐそういうことを言ってくるんだろうか。黙ってれば可愛いのに。


「この物語が完結しないことにはどっちにしろ帰れないからまだぜんぜんいられるから」


 この物語が未完の形で終わったのが高2の2月14日、そこで夕香がフラれてるから完結するとしたら次の1巻のはず。だから遅くとも高2の終わりまでにはどう足搔いても完結は避けられないだろうな。つまり、真凛愛といられるのは長くても1年ということになる。


 主人公である朝陽が誰かとくっつけばその分完結が早くなる。短い付き合いと考えれば多少の要望は応えてあげるか。


「天使を辞めることが出来たらここにずっといられるんだけどね」


 天使って辞められるのか。一生天使をやるものだと思っていた。


「どうやって辞めるの?」

「私それを聞いたことがないんだよね。たぶん、先輩は天使を辞めちゃってるのかな、見つかりにくくなってるし」

「天使なら簡単に見つけられるの?」

「普通の人とは違う特徴があるから少しは見つけやすいみたいだよ」

「へ~、違う特徴って?」

「さあ?」

「何も知らないじゃん」

「だって、私の教育係だったのが駆け落ちした先輩なんだもん。私に何も教えないままいなくなっちゃったし」


 先輩ちゃんと教えてあげてくださいよ。なんも知らないですよこの人。


「でも、天使を辞めるのは意外に簡単なのかも、駆け落ちしたって分かってからすぐに見つからないってことは」


 じゃあ、その方法を見つけて天使辞めれば? って言おうとしたけど、言えなかった。もし、天使を辞めたらこの世界から出られないみたいだし、簡単にこの世界に居ればいいなんて言えない。真凛愛が急にこの世界が嫌になるかもしれないし、人間だって簡単に気なんて変わる。そんな真凛愛の一生を決めるような安易な発言はしちゃいけないと思った。


「真凛愛は天使辞めたいの?」

「う~ん、どうだろう。あんま考えたことないな~」


 僕が真剣に悩んでたのに真凛愛はのんきそうに答えた。


「まあ、まだ時間はあるし、ゆっくり考えようかなって思ってるよ」


 夕香や未来、そして朝陽が実際の物語よりと違う動きをしなければ一年は完結しないだろう。ゆっくり考えてるのもありだろうな。僕もこの世界に居続けるかはまだ分からないしな。


「でも今はそんなことより、今を楽しまなきゃ。せっかく物語の世界に来たんだから思いっきり楽しまないと」

「それもそうだね」


 何を考えていたんだろう。真凛愛の言う通りせっかく好きな本の中に来たんだから楽しまないとな。



 気づけばすでに24時を回っていた。真凛愛を見ると目がトローンとしていた。


「そろそろ寝よっか」

「うん」


 お、今日は素直だ。てっきり、またよく分からないこと言い出して、部屋から出ないかと思ったけど、真凛愛もちゃんと成長してるってことか。


「じゃあ、おやすみ」

「うん、おやすみ」


 素直だとホント助かるな~。ちゃんと、おやすみと言って布団に入ってくれる。布団に入る??


「なんで、人の布団に入ってるの? 早く部屋戻りなよ」


 部屋から出ないで人の布団で眠る真凛愛。


「真凛愛聞こえてる? これ僕の布団なんだけど?」


 ダメだこりゃ。寝るの早すぎだろ。声を掛けても揺らしても一切起きる気配がない。どうするのこれ?



 その日、僕はリビング寝ることとなった。



「おはよう、なんか眠そうだね」


 そう言ったのは夕香。


「なんでリビングなんかで寝てたの?」


 で、こっちが真凛愛。おい、誰のせいで寝たと思っとるんだ。


「部屋見に行ったらいなくてびっくりしたよね?」

「ねえ~」

「え?」


 いや、真凛愛僕の部屋で寝てたよね?


「真凛愛、昨日僕の部屋で寝たよね?」


 夕香に聞こえないようにそっと話す。


「何言ってる? 自分の部屋で寝てたよ?」

「いやいや、真凛愛が僕の部屋で寝るからリビングで寝たんだけど」

「そうなの? おかしいな、夜中にトイレは行ったけど、自分の部屋に戻ったはずなんだけどな」

「じゃあトイレ行ったときに自分の部屋に戻ってるんじゃん」

「そうなのか~、じゃあごめんね」


 軽い……。もう突っ込んだら負けだろこれ。


 結局体のあちこちが痛いまま学校へ行くこととなった。


     *


 今日の学校での目的は担任と話すことだ。とりあえず、他の転生者と話をしたい。どうしてこの世界に来たのかとか、この物語がどう完結してほしいかとか話したいことはたくさんある。朝学活が終了し、担任の元へと向かった。


「先生、今日の放課後話したいことがあるんですが、大丈夫ですか?」


 今日はバイトがないから放課後ゆっくり話すことができる。


「ん? ああ、良いですよ。場所は隣の空き教室でいいですか?」

「はい、大丈夫です」

「では、その時間に」


 これで、転生者じゃなかったときが怖いな。一応真凛愛も暇だろうから連れていくか。


「稲田さんも一緒なのか?」

「はい、2人で聞きたいことがあったので」


 よく考えれば、校長先生に確認すればよかった。一番それが確実なんだし……


「ではさっそく、先生この本ご存知ですか?」


 僕は一冊の本をバッグから取り出した。この物語の本を。これを知らないって言えば転生者じゃない。簡単な転生者発見法だ。


「知ってますよ。私も転生者ですから」


 やっぱりそうだったか。真凛愛の言う通り見覚えのない奴は転生者だと思った方が良いかもしれないな。


「翔隆と稲田さんのことは校長先生から聞いてますよ。あなた方も転生者だって」


 正確に言えば、真凛愛は転生者ではないんだが、もともとこの世界の住人じゃないから転生者ってことで良いか。


「稲田さんも天使だと聞いておりますよ」


 なんだ、知ってるんじゃないか。


「それで、私が転生者と知って何をしたかったのですか?」

「どうしてこの世界に来たのかと思いまして」

「どうして、ですか。その言い方だと翔隆は自分の意思で来てないように思えますが」

「はい、私が詠唱を間違えてしまい、翔隆はこの世界に送られてしまったのです」

「でも、僕はこの本が好きだったので、後悔はしていませんが」

「どれぐらいこの本が好きだったのですか?」


 なんか食いついてくるなこの転生者。そんなにこの本が好きだったのか?


「毎日何度も読み返すぐらいには好きでしたね」

「そうなんですか!」


 うわ、反応がすごいよ。かなりのオタクだったか。


「すみません、少し興奮してしまいました」


 ほんとだよ。


「それで、私がなんでこの世界に来たかでしたっけ? それは天使さんにお勧めされたからですよ」

「天使にお勧めされた?」

「はい、この名前ご存知ですよね。大地光だいちひかる

「この本の作者ですよね」

「これ私の名前なんですよね」

「はい?」

「だから、私がこの本を書いたんです」


 嘘だろ? だって、作者は高校生って聞いてたけど。亡くなったのが去年だからどう考えても年齢に差があるだろ。


「でも年齢が……」

「ああそれは、この世界は元の世界と比べて6倍速く時間が進んでいるんです。つまり、あっちの1年がこちらでは6年になってるみたいですよ」


 そうなの? という視線を真凛愛に送る。


「そうだよ。言ってなかったっけ?」


 言ってないよ。


「つまり、本当であれば、私と翔隆では一歳差だったわけです」

「じゃあ、本当に大地先生なのですか?」

「はい、そうですよ」

「えっと、あなたの作品大好きでした。サインください」

「まさか、この世界に来てまでサインを求められるとは思っていませんでしたよ」


 そう言いつつも本にサインをしてくれる先生。大切に保管しよ。もうこの一冊しかないから。


「先生に会ったら聞きたいことがあったんですけど」

「何ですか?」

「この物語はどう完結するつもりだったんですか。未完と決まってからずっと気になってたんですけど」

「それがですね……」


 先生は衝撃な一言を発した。


「決まらなかったんですよね」

「え?」

「つまり、どうこの物語を終わらせればいいか分からなかったんですよ」

「作者なのにですか?」

「ええ、私はこのヒロインを勝たせたいと思っても、編集者や読者は違うヒロインたちを推してたりで誰を勝たせればいいか分からなくなってしまったんですよね」

「ひょっとして、夕香がフラれた原因は……」

「担当編集者の指示ですね。私はまだ新人だったので編集の言う通りにするしかなくて……」


 実力がないと自分の思う展開にさえしてもらえないのか……


「それで、最終巻をどうするか迷っているうちに事故で亡くなってしまったんですよ」


 何も言えなかった。自分の作品なのに、思い通りにできなくて、迷った挙句事故で死んじゃうのは悲惨すぎる。


「では、この世界がどう完結に向かうかは……」

「全く、分からないんですよね」

「この世界をどのように完結してほしいとかあるんですか?」

「もうないですね、私はもう筆を折ったので、このまま見守っていこうかなとは思ってます」

「じゃあこの物語がどのように完結しても良いんですか? 主人公である翔隆が誰とくっつこうと」

「はい構いませんよ。それに翔隆が朝陽からヒロインを奪っても全然良いですよ。面白そうですしね」

「じゃあ、例えば僕が夕香に告白すると言っても?」

「ええ、一向に構いませんよ。翔隆もこの世界の住人なんですから自由にしてください」


 まあ、告白はしないとは思うけど、自分の作った物語で自由にしていいって言ってくれる先生は優しいな。この世界を自由に生きようかな。先生とは違ってこっちを睨んでくる人が一名いるけど無視無視。時々真凛愛が何を考えてるか分からないときがあるだよな。


「あの~私から一ついいですか?」


 ここで真凛愛が口を開く。


「なんでしょうか?」

「私の知り合い見ませんでしたか? もしかしたらこの世界に来てるかもしれないので」


 駆け落ちした先輩のことだろうか。


「いえ、私は天使様は見てませんね」

「そうですか、ありがとうございます」

「僕からも一つお願いしたいことがあるんですが」

「どうぞ、言ってみてください」

「コノハが捨て犬を見つける話ありましたよね」

「ええ、7巻の話にありましたね」

「その犬がつい先日見つかったんです」

「え、まだ4月のはずですが?」

「はい、どうやら物語が少し変わっているみたいなんです」

「なるほど、つまり、私にその犬を飼ってほしいということですね」


 作者だから話が早くて助かる。


「そうです。本来であれば担任だった先生が飼ってくれるはずだったんですが」

「私が担任となったことで飼ってくれる人がいなくなると」

「そうですね、すでにこのクラスで帰る人がいないことはこの本で知っていることなので」


 つまり、ここで先生が飼ってくれない他クラスに当たらないといけなくなる。


「じゃあ、私が飼いましょうか」

「ありがとうございます」


 これで、今抱えてる問題は解決した。帰ったら夕香に伝えてあげよう。


「では、今度連れてきますね」

「はい、楽しみにしてますよ」


 犬好きなんだろうか、少し喜んでいるように見えた。


「じゃあ、今日はこの辺で」


 話したいことはことは全て話した。今日はここまででいいだろう。


「あ、ちょっと待ってください」


 そう言って、先生はペンと小さな紙を取り出して何かを書き始める。


「これ、私の連絡先と住所です。また何かあったらいつでも来てください」

「ありがとうございます」


 先生から紙を受け取って部屋から出て行った。あ、そういえば、僕携帯持ってないわ。バイト代入ったら買わなきゃな。

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