14話 バイト
「こんにちは、本日はよろしくお願いします」
「では、お座りください」
僕は今、朝に見たアルバイト募集のコンビニに来ている。学校が終わった後、そのままコンビニに駆け込んで面接をしてもらった。本当は真凛愛の登校初日だから、帰り道は付いてあげた方が良いと思ったんだけど、すぐに朝陽とも未来とも仲良くなって、今は学校の案内をしてもらっている。
だから真凛愛を夕香たちに任せて僕はコンビニへ向かって現在ここにいる。ちなみに必要な書類とかは真凛愛と校長先生に用意してもらった。本当に仕事が早くて感謝しかない。
「では、志望動機を教えてください」
面接のやり方は朝陽に教えてもらった。朝陽は部活をやりながら、バイトもしている。面接のやり方はやったことにある人に聞いた方が良いからな。
面接官からの質問は全てしっかり答えていった。
「では、翔隆さんこれからよろしくお願いします」
「ありがとうございます」
どうやら無事、採用されたようだ。
「私はこの後もう一人の面接があるので仕事はあちらの大宮さんに教えてもらってください」
「分かりました。ありがとうございました」
面接を受けて今日は帰されるのかと思いきや、このまま仕事の説明を受けるみたいだ。家にいたところで暇だから別に構わないんだけど。
「大宮さん、お願いします」
「えっと、翔隆君だね、よろしく」
大宮さんは見た目大学生ぐらいの男の人だ。
「じゃあ、仕事の説明するからついて来てくれる?」
「はい」と返事をして、大宮さんについて行った。
「最初のうちは翔隆君には商品の品出しや会計をやってもらうね」
「分かりました」
仕事内容が聞いたことがあるものばかりで助かった。元の世界でもバイトしたことなかったから、これが初めてのバイトとなる。大宮さんの説明はとても分かりやすく仕事内容はだいぶ把握することができた。
「とりあえず、今日はここまでかな。じゃあ明日からよろしく」
「はい、お願いします」
最初のバイト日は明日になった。学校終わって直接行けば十分間に合う時間だ。下校を夕香たちと帰れないのは少し残念だけど、お金は溜めないと……。いつまでも夕香や××さんのお世話になるわけにはいけないからな。食住は全部提供してもらってるし。いいかげん、家も出て行かないとな。
家に帰ると、真凛愛がソファでくつろいでいた。
「ただいま」
「おかえり、どうだったバイトは」
「明日から来てくれって言われたよ」
「良かった~」
「それより何見てたの?」
「アパート」
「良いところあった?」
「うん」
真凛愛が両手で雑誌を広げて見せてきた。
「ここにしない?」
「えっと、2DKか。真凛愛一人で住むには少し広くない?」
「え?」
「ん?」
なんだその真凛愛の顔は。そして急に笑い出す。
「何言ってるの? 翔隆も一緒に住むんだよ」
何言ってるの? それはこっちのセリフだ。また、頭おかしいこと言い出したよ。
「いや、一緒に住まないから」
「え~」
「え~、じゃない」
「なんで、お金がもったいないじゃん」
お金も大事だけど、モラル的に……
「でもいつまでも夕香ちゃんの家にお世話になるわけにはいかないでしょ?」
そう言われると何も言い返せない。だけど、付き合ってもない男女が同じ家って大丈夫なのか? いや、絶対ダメだろ。
「そもそも真凛愛ってお金あるの? バイトしてないのに」
「フフフ」
といって、貯金通帳を見せてくる真凛愛。おい、そういうもんは人に見せちゃいけないんだぞ。そう言いつつも気になるので見てしまうのであった。は? なんでそんなにあるんだ。
「凄いでしょ~」
夕香の通帳には16,680,000円と記載されていた。なんでそんなにあるんだ。
「天使もちゃんと給料が出てるんだ」
天使なのに給料が出るのか。まあ一応働いてるわけだしな。
「でもあの空間にいて使う機会あるの?」
「このお金はどんな世界でも使えるから遊びに行ったときにでも使えるんだ」
「それにしても多くない?」
「日給8000円なんだ。土日は休みだけどね」
曜日の概念もあるのね。
「毎日働きづめなんだ」
「ううん、あの世界は勉強も仕事のうちに入るから、平日学校なり、仕事場に行くだけで給料はいるからね」
そりゃその額もたまるよな。
「ちなみに私は無遅刻無欠席だからね。毎日行けてる分他の人より多くもらえてるからね」
「てか、そんなにあるなら一人でアパート借りられるじゃん」
「それが、無理なんだよね」
「なんで? 僕がバイトしたところでそんなに稼げるわけないんだよ?」
「うん、それはそうだと思うよ」
真顔で言ってくる真凛愛。なんかちょっとむかつく。
「じゃあ、なんで」
「家事が全くできないんだよね……」
「ホント?」
「うん」
確かに出来なさそうなイメージはある。
「それで、一人じゃ暮らせないんだ」
そんなこと言われたら放って置けないじゃん。
「だからね、一緒に住もう?」
「うん、無理」
「なんでよ」
いや、やっぱモラル的に? あと、どう見ても中学生ぐらいにしか見えないから、捕まりそうだし……。
「一緒には住まないけど、この物件は良さそうだな」
1DKで3万円の物件がこの家の近くにあった。
「え~、そこ狭くない? 一緒に住めないじゃん」
「だから一緒に住まないって」
ふてくされてソファに戻る真凛愛。学費の方は一切払わなくて良いみたいだけど、食費やら光熱費やらで結構お金が飛んでいきそうだな。家も天使の方で提供してくれてればいいのに。
「結構バイトしないとヤバいかな」
一人ぐらいはしたことがないから、月にどれぐらいの金額が必要になるか分からない。
「それなら、私と一緒に住んで暮れたらお金は全部出してあげるよ」
「いや、それは悪いし」
「その代わり、家事全般は翔隆がやってもらうってことでどう?」
う、それはいい気がしてきた。お金だけ払ってもらうんじゃないならそれだけでも真凛愛に対する申し訳なさが減る。
「でも、」
「私は苦手の家事を翔隆にしてもらう、翔隆は家事をする代わりにお金を私に出してもらう。いい条件だと思うけど?」
自分の方が立場が上になったと思ったのか通帳をチラつかせてニヤニヤする真凛愛。確かに学校後のバイトだけで生計を立てられるかと聞かれたら無理と言いたくなる。
「翔隆どうする?」
「保留で……」
真凛愛と一緒に住むぐらい大した問題じゃない気がしてきた。よく考えれば、真凛愛って天使だし、年齢一緒って言っても精神年齢小学生みたいなもんだからな。普通の女子高生じゃなくて、天使と住むなら問題なんて起きないだろう。
「保留か~」
別に真凛愛と住むのは良い気がしている。だけど、今僕は夕香のことが好きだ。それなのに別の女子と同居するのはまずいような気がするからだ。
「ま、良いよ。どうせすぐ一緒に住もうって言いだすから」
なんでそんな自信満々に言うんだろうか。それだと、夕香に告白してフラれるのが決まってるみたいになるじゃないか。フラれるだろうけど……。
「それより、夕香は?」
「あ、話変えてる」
「まだ帰ってきてないの?」
全力で話を変えにいった。保留なもんは保留なんだ。
「夕香ちゃんはどこか寄るところがあるって言って別々で帰ってきたよ」
「買い物かな?」
「さあ? でも買い物なら私も付いて行くのに」
珍しいな、帰ってくるのがこんなに遅いなんて。もしかしたら、この前見つけた犬を飼ってくれる人でも探してるのかな。
『ガチャ』と玄関の扉が開く音がした。どうやら帰ってきたみたいだ。
「おかえり」
「夕香ちゃんおかえり~」
「ただいま、疲れた~」
手にはバッグを持っているだけで、買い物をした様子はなかった。
「どこ行ってたの?」
「えへへ、内緒」
「え~夕香ちゃん教えてよ~」
「明日には分かるからそれまで内緒」
なんかうれしいことでもあったのかな。ずっとニコニコしてるし。
「さあ、それよりもご飯の支度しなきゃ」
夕香はそう言って自分の部屋と向かっていった。
「絶対なんかあったよね」
何かを怪しむ真凛愛。
「明日教えてくれるっていってるからいいんじゃない?」
不満げに顔を膨らませる真凛愛。やっぱ子供だ。
「今日の夜ご飯は、ハンバーグだよ」
遠くから夕香の声が聞こえる。
「わーい、ハンバーグだ」
さっきまでのことは忘れたかのようにはしゃぐ真凛愛。
「ごはん作るの手伝う~」
そう言って夕香の部屋に突撃していく真凛愛。ごはん作るの手伝うって言ってるけど、さっき、家事出来ないって言ってなかった?
その日、真凛愛が手伝ったのはお皿並べだけだった。
*
次の日、学校が終わり次第すぐにコンビニに向かった。
「こんにちは、今日はよろしくお願いします」
「うん、よろしく」
今日は僕と、大宮さんとそれから昨日僕の他に面接に来た人で仕事をするらしい。もう一人のバイトさんはまだ来ていないみたいだ。まだバイトまで時間もあるしもう少ししたら来るだろう。
「今日の他のバイトさんってどんな人なんですか?」
「女子高校生みたいだよ。僕も会ったわけじゃないから話で聞いただけだけどね」
女子か……。ギャルみたいな子だったらどうしよう。苦手なタイプの子だったら話すの大変だからな。
「こんにちは、今日はお願いします」
聞き覚えのある声が聞こえた。聞き間違えるわけないよな、夕香の声だ。
「ニヒヒ、びっくりした?」
「もう一人のバイトって夕香だったのか」
「うん、それで昨日採用されたんだけど、今日急に来て驚かそうと思って、びっくりした?」
どうやら驚いた反応が欲しかったみたいだ。さっきから『びっくりした?』って聞いてくるし。
「うん、びっくりしたよ。まさか夕香と同じバイトをすることになるなんて」
そういえば、僕がここのチラシを見てた時に、夕香も見てたな。
「なんだ、2人は知り合いなのか」
「はい、同じ高校の同級生です」
「じゃあ、仲良くなるところから始めなくてよかったよ」
初めての人同士だとコミュニケーションをとれるようになるところから始めないといけないからな。その分が時間が短縮できるのは大宮さんにとってもうれしいことだろう。
「じゃあ、さっそく仕事を始めてもらおうかな」
「「はい」」
現在、バイトを終え、夕香と2人で家に向かっている。
「は~楽しかった」
満足そうな夕香。今日のバイトは忙しくも暇すぎることもなく、適度な感覚で仕事が出来たと思う。
「そんな難しいことなくて良かったね」
夕香は1度言われたことをしっかりと出来ていたのでスムーズに仕事が進んだ。僕の方もそつなくこなしたので問題は一切なかった。
「真凛愛ちゃん1人で退屈にしてるかな?」
いや、たぶん家でいつも通りゴロゴロしてるだけだと思う。でも、家で××さんと2人きりってのは真凛愛にとってはあまり居心地が良い物ではないだろう。
「そうだね、早く帰ってあげようか」
僕がそう言うと
「だね、じゃあ家まで競走だ」
と、走って行った。真凛愛ほどではないが夕香も十分子供だと思った。