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13話 この世界の仕組み

「しー」


 人差し指を口に当てながら真凛愛が布団の上に乗ってきた。


「どうしたの?」

「翔隆と話しに来た」


 服は夕香から借りたのか少し真凛愛には大きいみたいだ。服が少しずれている。あまりにもそこばかり見てるとすぐ心読まれるからな。目線をずらした。天使とは言え女の子なんだから男の子の前ぐらい服装はしっかりしてほしいな。


「それで、何の話をしに来たの?」

「まずは、謝りに来たの」

「何のこと?」

「翔隆が行きたい世界とは違う世界に飛ばしてしまったこと」

「ああ、そんなことあったね」

「そんなことで済ますんですか?」

「うん、この世界気に入ってるからね」

「なら良かったです」

「多分ないと思うけど、この世界が嫌になったら別の世界に行けるんでしょ?」

「……」


 返事がない。人差し指同士をつんつんとして僕から目をそらす。


「もしかして、他の世界に行けないんですか」

「はい……」


 そりゃそうか、好きな世界に何度も移動出来たらそれこそ大きな影響を与えちゃうもんな。


「この世界は『未完の世界』の世界と言われ、現実世界つまり、翔隆が生きていた世界で完結しなかった小説などの物語の世界なんです」


 ここまでは校長からの話を含め、自分でも想像できていることだ。


「なんでこの『未完の世界』というものが創られたんですか」

「物語が何かの都合で完結できなくなると、その物語の続きを知りたかったという読者たちの感情によって生み出されるのです。つまり、未完の作品が人気なほど、この世界が創られやすくなるのです」


 確かに、この本は人気がある作品だった。発行部数が300万部は超えていたはずだ。


「それで、この世界に転生した場合……この物語が完結しないと違う世界には渡れないんですよ」


 作者じゃないのに物語を終わらせるって難しくはないだろうか。でもこの物語の完結って言ったらあれしかないよな。


「また、一度死んだら二度と蘇生できなく、即輪廻転生となります」


 つまり、あの空間に行って世界を選び直すってことはできないのか。でも、元々1つの命なのに転生が出来ただけで本来はラッキーなんだ。贅沢は言えないよな。


「なので、本来行きたかった世界に今すぐ連れていくことができないのです。本当にごめんなさい」

「謝らなくていいですよ。僕この世界気に入ってますから」

「でも……」

「僕もこの世界の続きを知りたかった一人の読者です。それを身近で体験できるんですから、感謝することはあっても、怒ることはないですよ」

「なら良かったです」


 胸にそっと手を置く真凛愛。僕が怒ってなくて安心したみたいだった。


「そういえば、また喋り方が敬語に戻ってますね」

「業務説明だったので、癖で……」

「長年の癖は抜けないですからね」

「でも、もう私たちはこの世界の住人です。同い年だから敬語はもう禁止ね」

「真凛愛がそう言うなら」

「じゃあ、幼馴染らしく……ドーン!」

「ドーン! じゃないよ」


 いいかげん、僕の上に乗るのをやめてほしい。本当に天使なのかと思うぐらい人間味がある。精神年齢は小学生ぐらいに思えるよ。天使の仕事大丈夫なのかな、今後もこんな感じでやっていって……。あれ、真凛愛いつまでここにいるつもりなんだろう。


「そういえば、真凛愛はこの世界にずっといるの?」

「ん? いるけど、どうして?」

「天使の仕事大丈夫なの?」

「他の人に引き継いでもらったから大丈夫だよ。それに私もこの世界から出られないからね」

「え、そうなの?」

「うん」


 それは悪いことしちゃったかな。僕はこの世界は気に入ってるからいいけど、真凛愛は僕を追いかけてこの世界に来ちゃってるからな。


「良かったの?」

「何が?」


 頭をかしげる真凛愛。大した問題と思ってないのかな。


「僕はこの物語が好きだったから良かったけど、真凛愛までこの世界に閉じ込められちゃってよかったの?」

「ん? 私は別にいいけど? あの空間退屈してたからこっちの世界の学校に行けるの楽しみなんだ~」


 楽しんでくれてるなら良かった。僕のせいで真凛愛まで巻き込んだってなるとこの世界を楽しめなくなるからな。待て、そもそも真凛愛が送り間違わなければ、僕を追いかけてくることはなかったんだし、僕が責任感じる必要あるのかな。


「さっきから深刻そうな顔したり、呆れた顔をしてるのはどうして?」

「何でもないよ。考え事してただけだから。心読んでないの?」

「うん、もう止めるって言ったじゃん」


 手を口に当ててクスクスと笑う真凛愛。


「そう……」

「信用してないな」

「大丈夫、信用してるから」


 怪しむような顔をする真凛愛。なんで心読める方が怪しんでるんだよ。


「まあいいや、これからよろしくね翔隆」


 抱き着く、と思いきや真凛愛は右手で握手を求めてきた。


「うん、よろしくね真凛愛」


 そう言って僕は握手をした。




「それでね、先輩がね……」


 時刻は現在24時。握手を終えて真凛愛は部屋に帰ると思いきや、あのまま、あの空間での話などを聞かされている。帰らないの? と言いたかったが、楽しそうに話す真凛愛を見るとそんなことは言えなかった。そろそろ寝たいんだけどな。


「そういえば、駆け落ちした先輩ってまだ見つかってないの?」

「うん、見つかってないみたい」


 天使は基本放任主義らしいから本気で探してないってのもあるけど、まだ見つかんないのか。


「先輩は未完の世界に行ったんだろうって言ってる人も多くいるんだ」

「もしかしたらこの世界にいるかもしれないってことか」

「確率は低いけどね、『未完の世界』だけでも100以上あるから」


 そんなにあるのかと思ったが、確かに未完のままで終わった小説とか結構あるはずだ。


「『未完の世界』ってあまり外部からのアクセスって出来ないんだ。だから、それを知って駆け落ちしたのかも」

「賢いんだね、その先輩って」

「うん。まあ私たちが本気で探してないってのもあるけど」

「そういやなんで、天使は放任主義みたいにしてるのに、その先輩のこと探してるの?」

「みんなね、あの先輩にお世話になったから一言お礼を言いたかったみたい。何も言わずに出て行っちゃったから」


 それで本気では探してないけど、一応は探してるみたいな感じになってるのか。


「私も仕事とかいろいろと教えてくれた先輩だったからお礼言いたかったんだよね」

「いつか逢えたらいいね」

「うん」


「ねえ、真凛愛が部屋にいないんだけど、翔隆どこにいるか知って……」


 ドアがガチャっと開き、夕香が部屋に入ってきた。


「夕香ちゃん……まだ起きてたの?」


 ちょっとヤバい、みたいな顔をする真凛愛。


「真凛愛ちゃん、翔隆の部屋行っちゃダメって言ったよね」

「いや、あの、その」

「ほら部屋戻るよ」

「待って、待って、夕香ちゃん。翔隆がまだ話したいって言うからここにいるんだもん」


 僕に助けを求める真凛愛。


「翔隆、そうなの?」

「ううん、違うよ。部屋連れ戻しちゃって良いよ」

「翔隆の裏切り者~」

「僕もう寝るからおやすみ」

「ああ~翔隆くん~」


 夕香に連れていかれ、真凛愛はやっと部屋から出て行った。元気な時なら付き合ってもいいんだけど、今日はコノハ探しで疲れたからな。今日はもう寝たい。この世界に来て退屈しないと思ったけど、真凛愛が来たことで忙しくなりそうだな。


「おはよ~」


 早い。なんでこの女子たちは朝に強いんだよ。まだ、5時前だぞ。


「真凛愛、まだ寝かせて」

「え~、昨日は夕香ちゃんに連れていかれちゃったから話したりないんだよね」

「僕が寝不足で死んじゃう」

「もう死んでるでしょ」


 なんてこと言うんだこの天使は。


「でも、話す時間はもうないと思うよ」

「え~なんで~」

「だって……」

「翔隆、おっはよー」


 ほら。夕香も子の時間には起こしに来るから。


「真凛愛ちゃんも朝起きるの早いんだね」

「うん」


 なんで、夕香も昨日あんなにコノハ探し回ったのに、そんなに元気なんだよ。疲れてるの僕だけじゃん。


「じゃあ、散歩行こっか?」

「散歩?」

「コノハの散歩だよ。真凛愛ちゃんも行くでしょ?」

「うん、行く~」

「じゃあ着替えないとね」

「分かった~」


 そう言って、目の前で服を脱ぎだす真凛愛……。何してんの?


「何してんの?」


 夕香が慌てた声を挙げる。僕は視界に入らないように後ろを向いた。


「何って着替えるんだけど」

「なんで翔隆がいるのに着替えてるのよ」

「え、だって別に良くない?」

「良くない」

「一緒にお風呂に入った仲なのに?」

「え?」


 何言ってんだ、真凛愛は。


「本当なの?」


 動揺したような声で聞いてくる夕香。


「ないない」


 そんな記憶ないし、真凛愛と会ったのはつい最近だぞ。


「良かった……」

「ねえ、話合わせてよ」


 真凛愛が耳打ちでそんなことを言ってくる。


「合わせられるわけないでしょ」

「も~しょうがないな~」


 しょうがないのはどっちだよ。


「ほら、ちゃんと部屋戻って着替えて」

「は~い」


 真凛愛は夕香に廊下に連れ出されていった。ふー、やっと落ち着ける。


「大変そうだね、翔隆は」


 部屋に戻ってきた夕香がそんなことを呟いた。


「ま、慣れてるからね」


 つい最近まで真凛愛ではない別の人にさんざん振り回されたことがあるからね。


「真凛愛ちゃんてなんか子供っぽいよね」


 そう言って笑う夕香。


「小学生の女の子をそのまま高校生にしたような感じだからな真凛愛は」

「たしかにそんな感じかも」


 そういえば、真凛愛と会ったことで夕香と二人で話す時間なかったな。夕香と話すのはやっぱり楽しい。僕は本気で夕香のことを好きなんだろうな。二次元に恋してしまったら、決して叶うはずのないもの。だけど僕の目の前には好きな子がいる。もし、僕が夕香に付き合ってくれって言ったらOKしてくれるんだろうか?


「どうしたの? 急に黙っちゃって」


 でも、知り合って間もない男子からの告白なんて受けてくれるわけないか。それに、夕香が好きになるのは朝陽なんだから。あの小説ではフラれてしまったけど、この世界は僕が来たことで物語は少しは変わっているみたいだ。だから、朝陽が夕香を好きになる可能性だって十分にある。


「ううん、何でもないよ」

「そう?」


 不思議そうな顔をする夕香。心読まれないって楽だな。


「着替え終わったよ! 散歩行こう」


 再び僕の部屋に突入してくる真凛愛。


「じゃあ、翔隆も着替え終わったらリビングに来てね」

「うん、分かった」


 夕香は真凛愛の言葉に反応することなく、そのまま部屋から連れて出していった。真凛愛の扱いに慣れてきたみたいだな。さてと、僕も早く着替えるとするか……。


「お散歩! お散歩! 楽しいな!」


 コノハのリードを持ってスキップをする真凛愛。リードは初め、夕香が握っていたのだが、真凛愛が持ちたそうに見ていると夕香が変わってあげていた。もう一匹の犬は怪我をしていたことが分かったので、今は××さんとお留守番だ。


「本当に楽しそうにお散歩するね、真凛愛は」

「だね、知らない街だからはしゃいでるのもあるかもね」


 本当のところはあの空間は退屈って言ってたから伸び伸びできてるのが嬉しいんだろうな。それにしても僕もこの町にもだいぶ慣れてきたな。方向音痴の僕でも散歩コースはばっちりと覚えた。今向かってるのが公園で、その近くのコンビニ近くに今僕たちはいる……。ん? コンビニの扉に何か貼ってあるな。


「何見てるの?」


 僕がコンビニに貼られているチラシに夢中になってると夕香が近づいてきた。


「これ」


 コンビニ貼られていたのは、『アルバイト募集のお知らせ』と書かれた紙だった。


「バイトここにするの?」

「うん、条件も良さそうだしここにしようかな」


 あれ、待て、この世界の戸籍とかって僕のどうなってるんだろう? バイトすることってできるのかな?


「真凛愛、この世界で僕ってバイトしても平気なの? 学校の方は神官がやってくれるって言ってたけど、僕って戸籍とかないじゃん、この世界に」


 夕香に聞こえない距離で話した。夕香は何故かその応募チラシを見ている。たぶんこっちの声は聞こえてないだろう。


「大丈夫だよ。この世界で住めるように翔隆の戸籍とかは作ってあるから」


 仕事が早いことで。


「なら良かった。安心してバイトができるよ」

「また、何かあったら言って」


 そう言って、またコノハとじゃれ始める真凛愛。仕事となると急に真面目っぽくなるんだよな。あまりのギャップにびっくりする。


「お待たせ、もういいよ。行こっか」

「バイトのチラシ見てたの?」

「うん、翔隆がどんな仕事をするのかなって思ったから」

「そう」


 ニヒヒと笑う夕香。何か企んでるな。

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