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11話 コノハはどこ?

 物語が変わった……。あの本にもコノハが家からいなくなるという事件はあった。ただ、時期が違いすぎる。本来であれば、コノハが家からいなくなるのは10月頃だった。今は4月。半年以上ずれが生じている。これが僕がこの世界に来たことによる物語の変化か。今までのちょっとした変化とは比べ、大きな変化が出てきた。


「さて、夕香はどこに行ったんだ」


 家を出て行った方向は分かっているが、どこに行ったのかまでは分からなかった。もう少し早く追いかけていれば……。夕香が走って行った方向は学校とは反対の商店街の方だった。商店街へ向かうと、夕香が肉屋のおばさんと話していた。


「う~ん、私は見てないかな。夕香ちゃんごめんね」

「いえ、ありがとうございます」

「私の方でも見かけた人がいるか聞いてみるね」

「ありがとうございます」


 今度は八百屋さんの方へ向かっていった。


「夕香、コノハ見つかった?」

「ううん、まだ……それよりも追っかけに来てくれたの?」

「僕もコノハが心配だからね」

「ありがとう……」


 お礼を言う夕香の目には泣いた跡があった。


「それで収穫あった?」

「こっちの方には来てなさそうってぐらいかな」

「そっか……」


 手がかりがないのか……物語が変わってるなら僕が知っている場所にコノハはいないだろうな。あの場所に居てくれたなら簡単に見つけることができるのに。あの時はコノハを探してる夕香にジョギング中の朝陽が会って、その後朝陽が見つけてきてくれた。夕香がもしKに会うことがあったらその時はその場所に向かうのもありだろう。それまでは、コノハのことをよく知ってる夕香についいていく方が効率が良いかもしれない。時期が違うからコノハが小説と同じ場所にいる理由がない。


「夕香、コノハが行きそうなところって分かる?」

「う~ん、コノハは食いしん坊だから、商店街の方に来てると思ったんだけどな……」


 すでに打つ手がなかったみたい。商店街から出て自宅の方へ向かう夕香と僕。


「急がないとヤバいね、そろそろ暗くなっちゃう」


 すでに5時半を過ぎている。これ以上暗くなると探すのは困難だろう。だったら、一か八か行くしかないのか。


「こんなところで何してるの? こんな時間に」


 後ろに人をぞろぞろと引き連れた男子が話しかけてきた。それは、僕が今一番来てほしい人だった。


「あ、朝陽」


 よし、来た。


「実はね、私の犬がね、いなくなっちゃったの」


 朝陽は他の部員たちに『先に走っててくれ』と言って、部員たちは朝陽を残して走り去っていった。


「夕香の犬って、この前見せてくれた待ち受けの?」

「うん……」

「分かった。部活で走りながら探してみる」

「ごめんね、部活中なのに」

「ううん、平気。こっちこそ中途半端な協力しか出来なくてごめん」

「そんなことないよ」

「じゃ、部員待たせてるからもう行くね」

「うん」


 朝陽は部員たちを追いかけ走り去っていった。相変わらず爽やかな人だな。


「でもどうしよう、朝陽は協力してくれるって言ってくれたけど、それでも時間がなさすぎるよ」


 正直絶望的だったコノハ探しに一縷の望みが見えてきた。あの小説とは時期が違う。だけど、それ以外は酷似している。ならば賭ける価値は十分にあると思う。


「もう遅いし、翔隆は先に家に帰ってて」


 家の前に着いた途端、夕香は僕にそう言った。


「私はもう少し探すから」


 本当はまだ手伝ってほしそうな顔をしているのに、夕香は言葉に出さないかった。コノハの場所は大方検討が付いてる。だけど、それを夕香にどう伝えるべきか。伝えたところで信じてくれるかも怪しい。


「夕香、僕最後に探したい場所があるんだけど」

「どこ?」


 コノハがいる場所。ジョギング中にKが見つけられた場所。それは……、


「学校の近くの嵐吹公園」

「あそこ?」

「うん」

「あそこの公園家からかなり離れてるけど、そこにコノハがいると思うの?」

「うん」

「なんでそう思うの?」

「なんとなく、コノハがそこにいるような気がするんだ」


 こうとしか言えないよな。


「気がするか……、根拠はないんだね」

「ない」

「そう……」


 信じてもらえないか……。あとで一人で公園に行くしかないか……。


「うん、分かった。翔隆のことを信じてみる」

「ホント? 当てにならない勘みたいなもんだよ」

「コノハ、翔隆になついてたし、翔隆もコノハのことを可愛がってたから波長みたいなもの? とかが似てるかもしれないから、翔隆がそう言うならコノハはそこにいるのかもしれない……」


 犬と波長が合うって……。まあ、説明なんてできないわけだから、このままでいいや。


「じゃあ、速く公園に急ごう」

「うん」


 夕香に手を引かれ公園へ走り出した。


「着いたけど、どこら辺にコノハはいるんだろう?」


 公園について辺りを見渡した。だいぶ暗くはなっているけどそれでもまだ探せるレベルには明るい。


「じゃあ、手分けして探そっか」


 時間的に今日中に探せるのはこの公園が最後だろう。夕香は僕の言葉を信じてくれたんだからどうにかここにコノハがいてほしい。あの小説ではコノハはこの滑り台の下にいた。理由は見ての通りだ。


「夕香来て、コノハ居たよ」

「え、ホント?」


 滑り台の下には一箱の段ボールが置かれていた。


「この中を見て」

「コ、コノハ~……? と?」


 段ボールの中にはコノハとコノハより一回り小さい子犬がいた。


「たぶん、コノハはこの子犬の面倒を見たたんだと思うよ」

「そうなのかな」

「たぶんね、ほらこのワンちゃんコノハから離れないでしょ?」

「ホントだ」


 コノハは夕香のにおいを追って学校へ向かってる途中にこの公園でこの子犬を見つけたんだろう。


「捨て犬かな」

「多分そうだと思うよ」


 じゃなきゃ、わざわざこんなところに子犬が段ボールに入ってるはずがない。


「どうしようか、この子」


 う~ん、本当だったらこの子犬は夕香が連れて帰って、後日担任の先生が引き取ってくれていたんだけど、その担任何故かいないからな。


「とりあえず、連れて帰ろうかな。このままだと可哀そうだし」

「それがいいかもね」


 このまま放っておくと殺処分されかねないし……。明日にでも一度病院に連れて行ってからどうすればいいか考えればいいだろう。


「じゃあ、帰ろっか」

「翔隆、ありがとうね」


 2匹の子犬を抱えとびっきりの笑顔で夕香がお礼を言った。その顔はとても可愛くて直視が出来なかった。落ち着け、この感情は出してはダメだ。僕はこの世界の人間じゃないんだから。


「翔隆、コノハとこの子少し頼んでもいい? 朝陽に連絡したいから」

「うん、いいよ」

「ありがとう」


 本当だったら、朝陽が見つけてくれてたからな。それに朝陽があの場所で夕香に話しかけてくれたから、僕がこの場所に来る決断ができたからな。十分に朝陽はコノハ探しに役に立ってくれた。


「連絡着いたよ」

「朝陽、なんか言ってた?」

「見つかってよかったねって言ってた」

「そっか」


 朝陽は優しいからな。部活で疲れてるはずなのに、夕香が困っていたら助けようとするんだから。


「ただいま~」


 家に帰ってきて夕香の声に反応した××さんが飛び出てきた。


「おかえり、夕ちゃん。コノハ見つかったんだね……」

「うん、翔隆が見つけてくれたの」

「そうか、翔隆ありがとうね」


 お礼を言う××さんはとても安心しきった顔をしていた。


「翔隆が抱いてるその子は?」


 ××さんは僕が今大事そうに抱いている子犬に目を付けた。


「えっとこの子はね、コノハを見つけた段ボールの中にいたの」

「捨て犬か?」

「たぶん、そうだと思う」

「飼いたいのか?」

「家にはもうコノハがいるからな~、周りで飼える人がいなかったらかな」


 あの担任がいればな~。あの人なら引き取ってくれるのに。


「夕ちゃんに任せるよ」

「明日未来とか朝陽に聞いてみようかな」

 

『ピンポーン』と家のチャイムが鳴った。こんな時間に誰だろう。


「私出てくるよ」

「ううん、夕ちゃん、お父さんが出てくるからゆっくりしてていいよ」


 夕香はそのままコノハとじゃれあい続けた。『ドタドタ』と、××さんがこっちに走ってくる音が聞こえた。


「翔隆、お前の幼馴染って名乗ってる子が来てるんだけど」

「幼馴染?」


 僕に幼馴染なんてもういないけどな。とりあえず、見に行くだけ行くか。


「今行きます」


 僕の後ろから夕香がついてきた。ドアを開けると、見覚えのある金髪の女の子がいた。


「こんばんは、こんな時間にすみません。やっと見つけたよ。翔隆くん」


 僕をこの世界に送った天使さんが来た。

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