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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

モテない陰キャ高校生の俺、実は伝説の不良で今は大人気WEB作家!~どっちもバレないようにしたいんだが、美少女ヤンキーや同じクラスの美少女作家にグイグイ迫られて困ってます~

作者: 三氏ゴロウ

ヤンキー×ラノベ作家です。

「おーい唯ヶ原(ゆいがはら)!! 走ってジュース買って来いよ、三分以内に戻ってこなかったら罰ゲームなー」

「……わ、分かった」


 クラスの陽キャである峰岸悠斗みねぎしゆうとの言葉に従い、僕……唯ヶ原迅(ゆいがはらじん)は立ち上がった。


「ちょっとー、可哀そうだよ悠斗ー」


 峰岸の隣に座る女子はそう言うが、顔は笑っており全く可哀そうだと思っていないことが良く分かる。

 そしてそれは峰岸の周りにいる他の取り巻き連中も同様だった。


「早くしろよー。根暗くーん」

「金は後で払うからさー」


 取り巻き連中の言葉を聞き流しながら、僕は教室を出た。


「便利な駒が手に入って良かったなー悠斗」

「全くだぜ。高校生活三年間、せいぜい使い潰してやるよ」

「ひでぇw」

「あー、別にいいだろ。ああいう奴は俺らみたいなのに使われる運命なんだよ」

「ははは、全くだな!」


 ……はぁ、聞こえてるよ。


 教室の外にまで聞こえる音量で俺のことを馬鹿にする峰岸たちの声に、僕は軽く溜息を吐くと下の自販機に急いだ。


 高校に入学して早一か月、陽キャにパシらされる――これが僕の日常だった。



 放課後、僕は先日入部した文芸部の部室に向かおうとする。

 ――すると、


「おーい唯ヶ原!」


 峰岸が僕の肩に手を掛けてきた。


「な、何?」


 恐る恐る尋ねると、彼はニッコリと笑う。


「一緒に帰ろうぜ?」

「え、でも……」

「何だよ。俺の言う事、聞けねぇの?」

「……」


 酷く冷徹な口調で、峰岸は言う。その目は全く笑っていない。


「わ、分かったよ」


 たどたどしい口調で、僕は答えた。


「そーこなくっちゃ! おーい、皆今日は唯ヶ原のおごりでカラオケだぞー」

「マジで! よっしゃ!」

「ラッキー! あんがとね唯ヶ原ー」


 峰岸の取り巻きの男女は喜んだ。


「え、ちょっと……お、僕そんなの聞いてな」

「何? まさか嘘なの?」

「……」


 僕は押し黙り、彼の言う事に従うしかなった。


 そう、仕方ない。仕方ないのだ……これが、な学校生活なのだから。



 下駄箱で靴を履き、校舎の外へ出た僕と峰岸たち。


 はぁ……ミスったな。


 ゲラゲラと笑う峰岸たちの声を聞きながら、高校生としての立ち回りをミスしたと思う僕。

 ――すると、


 ブロォォォォォォォォン!!


 けたたましいエンジン音が、校門に響き渡った。


「な、なんだ……?」

  

 突然の爆音に峰岸と取り巻きたちは動揺する。


「……は、はは」


 嘘だろおい……。


 そんな中、唯一俺は聞き慣れたその音に頬をピクピクとひくつかせた。


 現れたのは二台のバイク、乗っているのはガラの悪い女と男。

 不良にカテゴライズされる人間であることは、一目瞭然である。


「お、おい見ろよアレ……!」


 すると、突然取り巻きが不良たちの乗っていたバイクに刻まれている文字を指差す。

 そこには【羅天煌らてんこう】と書かれていた。


「ら、羅天煌って確か……関東で一番の不良チームじゃないか……?」

「そ、そんなチームの奴らが何でこんな所に来るんだよ!?」

「知らねぇよそんなこと……!」

 

 取り巻きたちはあまりにも世界の違う者たちの登場に、不安や動揺を見せる。


「「……」」


 そんな中、こちらの様子など一切気にする様子無く、不良たちは無言でバイクから降り、こちらへ近付いてきた。


「おいお前ら。何の用だよ?」


 すると、峰岸は意を決したように向かってくる不良に話し掛ける。


「み、峰岸大丈夫なのかよ……!?」

「あぁ。俺の友達にもああいう奴らいるから……話くらいはできると思う」


 取り巻きの疑問に対し、峰岸は小声で答えた。


「あぁ? てめぇに用はねぇよ」


 しかし、当の不良たちは峰岸を全く意に返す様子は無い。


「用があんのはそこのメガネだ」


 そう言って、女の不良は僕を指差す。


「は、はぁ? な、何で唯ヶ原を……」

「ンなことてめぇに関係ねぇだろ。さっさとソイツを渡せ」

「は、はい!! おい唯ヶ原、行け!」


 目の前の少女に対し急に敬語になった峰岸は僕の背を押した。


「ってちょ…‥!」


 体を押され、僕は前に出る。


「行くぞ」

「……う、うん」


 ……仕方が無い、ここは乗るしか無いようだ。

 

 女の不良の言葉に従い、僕は学校を後にする。


「……にしても、アイツら唯ヶ原に何の用だろ?」

「あぁ? そんなのパシリかサンドバック要因に決まってんだろ」

「でもさ、それなら他にもいくらでもいるだろ。なんでわざわざ……」

「あのなぁ……不良の思考回路は俺らとは違うんだよ」

「それもそうか……」


 その場に取り残された峰岸たちは現実感の湧かない様子で、小声でそんな会話を繰り広げていた。

 

 バカ……そんなこと今言ったら……。


「おいてめぇら……」

「はい……?」

「それ以上余計なこと言ってみろ……ブッ殺すぞ」


 後方の峰岸たちの会話が耳に入った不良二人は、そう言って峰岸たちに殺気を飛ばす。


『は、はいぃ!!』


 その圧にやられ、峰岸たちは背筋を伸ばし怯えるように大声を上げた。

 

 ほら、言わんこっちゃない……。



 不良のバイクに乗せられ、僕たちは少し離れた人気の無い空き地に足を運んだ。

 そして空き地に着いた瞬間、


「……アニキィィィィィィィィィィ!!」


 不良少女は勢い俺に抱き着こうと飛び掛かってきた。


「よっと」


 僕はそれを軽く避けると、不良少女はそのまま地面に激突した。


「えへへ!」


 だが彼女はすぐに顔を上げ、泥のついた顔で満面の笑みを浮かべる。


「……はぁ」


 その様子に、僕は溜息を吐く。そして、


「随分と大胆なことしてくれんじゃねぇかてめぇら。覚悟はできてんだろうなぁ……? 龍子りゅうこ健太郎けんたろう


 僕……いや、俺は指をボキボキと鳴らし、二人の不良を睨み付けた。


「えー!! 何で怒ってんだよアニキ!? 折角一か月ぶりに会えたのにぃ!」


 不良少女、もとい辻堂龍子は頬を膨らませ言った。


「だぁから言ったろうが龍子。総長に会っても突っぱねられんのがオチだって」


 すると、そんな彼女に対しもう一人の不良……冴羽健太郎が肩をすくませる。


「おい健太郎。てめぇ、何で俺のこと龍子にバラした?」

「いやぁ、龍子に鬼の形相で迫られてよぉ。仕方なくな?」

「仕方なくじゃねぇよ。明らかにこうなること面白がって言っただろうがてめぇ!!」

「ははははは、そんなヒデェこと考えちゃいなかったさ。総長」


 ケラケラと笑う健太郎。

 間違いない、俺の長年の経験から今のコイツの発言が嘘だと分かった。


「あのなぁ、俺はもう総長でもなけりゃあ不良でもねぇ。中学の俺は中学で死んだんだよ」


 正直に言おう。

 中学時代、つまり数か月前まで俺はコイツらと同じく不良、ヤンキーと呼ばれる人種だった。

 

 常に暴力と隣り合わせの日常を送り、大体のことは拳で解決していた。

 気に入らない奴や強い奴を片っ端から倒していったら、俺に勝てる奴は誰もいなくなった。


 そして周りに龍子たちが集まり、勝手に大規模人数のチームが結成され、俺はそのチーム【羅天煌】の総長になっていた。


 だがそれも遠い昔(数か月前)の話だ。


 ――『最強』の不良。

 ――チーム【羅天煌】の総長。


 そんな俺はもういない。


 金髪は黒く染め直し、髪型はラノベ主人公のような何の変哲も無いモノにし、度の入ってないメガネを掛けた。

 今の俺は普通に学校に通い、普通の日常を送る気弱な少年なのである。


「そんな釣れないこと言うなよアニキィ! また一緒に他の奴らとケンカして楽しくやろうぜぇー!」


 目をキラキラと輝かせながら龍子は俺を見た。


「だからヤダって言ってんだろうが。もうチームに帰れよ」

「チームは抜けた!」

「はぁ!? でもお前のバイクに【羅天煌】って……」

「これはリペイントがメンドイからそのままにしてるだけだ!」


 えっへんと胸を張る龍子。別に胸を張ることでは全く無いが。


「アタシはアニキに付いてくって決めてる!! アニキのいねぇチームなんている意味がねぇ!!」


 龍子は自信満々に宣言した。

 

「あー、言って無かったなぁそういや。ちなみに俺も……つーか『悪童十傑衆あくどうじゅっけつしゅう』は皆チームを抜けて、それぞれ別のチームに行ったり一匹狼になったりしてるぜ」


『悪童十傑衆』、【羅天煌】内で俺の次に強かった十人の不良の総称。龍子も健太郎もそれに入っていた。


 どうやら俺が抜けた後、チームは大分変化したようである。


「つーわけでだアニキ!! またアタシと」

「断る」


 俺は即答した。

 

「何でだよぉ! いいじゃねぇか!!」

「良くねぇ! ダメなモンはダメだ!」


 まるで子供に言い聞かせているみたいな感覚を覚えながら、俺は強めの口調で龍子を制する。


「……」


 すると、龍子の目からポロポロと大粒の涙が流れ出した。


「はぁ!? 何で泣くんだよお前!?」


 龍子の初めての泣き顔に俺は戸惑いと驚きを同時に抱く。


「うぇぇ……だってぇ、だってアニキがぁ……!」


 そう言って、ダムが決壊したように龍子はワンワンと泣き始めた。


「うえぇぇぇぇぇぇぇぇん!! 何でそんな冷てぇんだよぉ!」

「お、おいそんな大声で泣くな!! 近所に響くだろうが!」

「アタシはただぁ、アニキと一緒に他の奴らを血祭りに上げたいだけなのにぃ……!」

「泣きながら物騒なこと言ってんじゃねぇよ! 後鼻水を服につけんな汚ねぇだろうが!!」


 制服に顔をうずめる龍子を俺は慌てて引き剥がす。


「とにかく、俺はもうケンカも抗争もしねぇし誰かを血祭りに上げることもねぇ! じゃあな!」


 無理やり会話を切り上げて、俺は空き地を出た。


「うぅぅぅぅぅ何だよぉ! 何がアニキをそんなに変えちまったんだよぉ!!」


 龍子の悲痛な叫び、その中で俺の事情を知っている健太郎だけは「やれやれ」といった表情で目を伏せた。


 ……悪いな、龍子。


 龍子に対し少し乱暴な対応をしてしまったことに一抹いちまつの罪悪感を抱いた俺は、内心で彼女に謝罪した。



 龍子たちと別れ、俺は帰り道を歩く。すると、


 ――プルルルルルル


 スマホに電話が掛かってきた。俺はその相手が誰なのか、すぐに察した。


「はい、もしもし」


 ポケットからスマホを取り出し、俺は通話ボタンをタップした。


『どもどもー! 貴方の愛しの編集者、朝凪倫あさなぎりんでーす!』


 スマホから聞こえてくるのは軽快な女性の声である。


朝凪あさなぎさん、どうも」

『どもども! ハーレー山田先生! 【追放賢者】の第四巻の原稿読んだっすよー!』

「ありがとうございます。それでその……どうでしたか? 打ち合わせの内容に加えて個人的にWEB版でこうしておけばよかったって部分も反映させたんですが……」

『良かったっす! WEB版よりもキャラの心情が分かりやすくなってたし!』

「それは良かったです」

『はい! あ、そうだ。後【追放賢者】なんですけどー……またまた全巻重版決まりました!』

「え、本当ですか!?」

『マジもマジ! 大マジっすよ! これで四刷目! いやぁやっぱり先生は才能がありますねぇ! 担当編集として私も鼻が高いっす!』

「い、いえそんな……」

『またまたー! ご謙遜なさらず私の前くらいは胸を張って下さい! もう一年以上の仲じゃないですか!』

「い、いやまぁ……」

『ま、先生と距離が詰められるように私これからも頑張ります! では、これから会議があるんで切りますね! それでは!』


 その言葉を最後に電話は向こうから切られた。そして俺は、


「いよっしゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」


 誰もいない路地で、拳を握り締め歓喜の叫びを上げた。


 また重版……!! やった、やったぞぉ……!


 そう、俺はもう最強の不良でもなければチーム【羅天煌】の総長でもない。

 書籍化を果たし、重版を続ける大人気WEB作家……【ハーレー山田】なのである。



 ――唯ヶ原迅、中学二年の夏。


「ふぁぁぁぁぁ……」


 俺は大きなあくびをしながら、風の良く通る空き教室で健太郎と授業をサボっていた。


「あー……暇だ」

「なーにが暇だよ。今日は夜に埼玉のチームとの抗争があんだぞ。もっと気を引き締めとけって」

「ンなこと言ったって身が入らねぇモンは仕方ねぇだろうが」

「ったく、ならこれでも読むか?」

「ん? 何だこれ」


 健太郎が見せたスマホの画面に俺は目をやる。


「WEB小説だよ。その名の通りWEBで読める小説だな」

「小説ぅ……?」

 

 小説、その単語に雑誌で漫画しか読んでいない俺は顔をしかめた。

 俺の中で、小説というのはワケの分からない文章や難しい感じが羅列してあり、頭の良い奴が読むというイメージだったからだ。


「まぁまぁ、そんなイヤそうな顔せずにモノは試しってことで読んでみろって。暇つぶしに最適なんだよコレ。とりあえず今LINEで面白いの送ったぜ」

「……ったく仕方ねぇなぁ。頭痛くなったらすぐ止めっからな」


 そう言って、俺は健太郎から送られたURLからWEB小説を読むことになった。


「……」


 そして結果は、あまりにも予想外だった。


「何だこれ……想像してた小説と全然ちげぇ。俺でも読める……」


 小説の文章がスラスラと読めて、頭に入る。おまけにはなしも面白い。

 初めての経験に、俺は夢中でスマホの画面をスクロールさせ、あっという間に一話を読んでしまった。


「どうだ?」

「す、すげぇな。こんな小説もあんのか……」

「送った奴以外にもいろいろあるぜ。『小説家になろうぜ!』っていうサイトから読めるから自分で面白そうなの見つけて読んでみろよ」

「あ、あぁ……」


 これが俺と、WEB小説投稿サイト『小説家になろうぜ!』の出会いだった。


 そしてその日の夜、スラスラと文章が読めたことに気を良くした俺は、サイト内のランキングから上位の作品を適当に読むことにした。


「……何だこれ。なげぇタイトルばっかだな。えーと何々、『レベルゼロだと追放されたが、ゼロぜロ(∞)でした~今更戻って来いと言われても龍の巫女や精霊たちと過ごす日常が最高なので無理です~』……何だこれ。まぁいいや読んでみるか」


 そう言って、俺はランキングに入っている作品を読み始めた。

 そして、読んでいる内に俺の中である考えが浮上した。


 ――あれ……これ俺でも書けるんじゃね?


 難しい単語も良く分からない表現も使っていない。おまけにストーリーも単純。

 学の無い自分でもある程度は書けるのではないか、そんな謎の自信が何処どこからともなく湧いてきた。


「……やってみるか」


 思い立ったら即行動。

 俺は普段全く使っていないノートPCを開いて『小説家になろうぜ!』のアカウントを作成した。

 作家名は【ハーレー山田】。

 バイクのハーレーと適当に思いついた山田という苗字をくっつけた非常に安直なネーミングだ。

 

 こうして、俺は【ハーレー山田】としてWEB小説の執筆を始めた。

 タイピングができなくて二時間ほど掛かったが、俺は何とか第一話を書くことができ、それを即座に投稿した。


「はは! まさかホントに俺が小説書けるなんてなー! これならランキング入りもできるんじゃねぇか?」


 意気揚々とした気分で俺は鼻を鳴らす。

 ――しかし数時間後、現実を思い知った。


「な、何で誰も読まねぇんだ……?」


 初めての小説投稿、結果は散々だった。

 PV数は増えず、ポイントも伸びない。だから当然ランキングにも入らなかった。


「どーしてだよ! 文章もランキングに入ってる奴らとあんまり違わねぇし、はなしだって……!!」


 俺は納得がいかなかった。だが、何度『小説家になろうぜ!』のランキング画面を見ても現実は変わらない。

 ――俺の作品はランクインしていない。


 この時、俺の中で何か熱いものが込み上げた。


「はは……。いいぜ、やってやろうじゃねぇか……!!」


 俺の闘争心と競争心に火が着いたのだ。


 その日から俺はWEB小説のことをバカなりに徹底的に調べた。

 WEB小説の特性、『小説家になろうぜ!』のシステム、最近の流行や取り入れるべき要素。学校の勉強よりも必死に学んだ。


 それらを調べ上げた俺は、早速新たに小説を書き、投稿した。


 ――すると、


「あ……」


 ポイントがもらえた。そしてランキングに入った。


「っよっしゃあ!!」


 その事実にPCの前でガッツポーズを取る。

 更に、それだけではない。


「ん、何だこれ……感想?」


 ランキングに入ったことで、ユーザーの目に良く留まるようになった俺の小説には感想が付いた。

 とは言っても一件だけだ。それもたった一言だ。内容は、


『面白かったです』


 たったの一件、たった一言。だがそのいちが、俺の心を前へと突き動かした。


 ――数日後。

 結局その小説はランキング50位で順位が止まった。そこからは順位が落ちていき、ランキング入りした俺の小説は瞬く間にランキングから姿を消した。


「くっそ!! マジかよ折角ランキング入りしたのに!! ちくしょお!!」


 ――気付けば俺は、完全にWEB小説にハマっていた。


「今に見てろよ。ぜってぇランキング一位取ってやるからよぉ!!」


 そして目標は、無意識の内にどんどん高くなっていった。


 そうして苦節数ヶ月。

 WEB小説と『小説家になろうぜ!』の研究を進め、俺は小説を書き続けた。


「や、やった……。やった、やったぞ!!」

 

 その甲斐かいあってか俺の小説、【追放賢者の学院無双~魔法が使えないと追放されたが実は完全上位互換の『魔術』を唯一使える存在でした。弟子の生徒たちと楽しく過ごすのでお引き取り下さい~】は『小説家になろうぜ!』のハイファンタジーランキングで一位を獲得した。

 書籍化の話がきたのはそれから数日後のことだ。


 自分の作品が本になる……全く以て現実感の湧かないことである。

 だが、俺の心はワクワクしていた。見たことの無い世界……そこに行ける扉が目の前に現れたことに。


 俺は期待と興奮を胸に、扉を開けた。

 こうして、中学三年になったとほぼ同時に俺は書籍化作家となった。

 健太郎にはこのことを報告した。俺が気の置ける数少ないダチの一人であり、俺が作家の道を進むきっかけをくれたのだ。言うのが筋だと思った。

 

 その後は中学三年生の頃は他の不良チームとの抗争をしながら、作家【ハーレー山田】として本を出版していた。

 本の売り上げは好調。俺の作品を読む読者は勿論、開設したツイッターのフォロワーも増えた。


 そして俺は中学卒業と同時に不良を卒業し、神奈川県から引っ越し東京の高校に通うことにした。

 全ては不良たちとの縁を切り、これから更に作家業に力を入れるためだ。


 こうして、俺は『普通』の高校生兼ライトノベル作家となった。



「ふあぁぁ……」


 大きな欠伸あくびをしながら、俺は通学路を歩く。

 昨日は【追放賢者】の次章の構想を考えていたため寝るのが遅かった。


「お、何だよこの女可愛いじゃん」

「ん?」

 

 すると、近くでそんな男の声が聞こえてくる。

 声のした方を見ると、一人の少女が三人の男の囲まれていた。


 ……不良だな。


 見て分かるガラの悪さに加え、長年の経験からくる俺の勘は奴らを不良だと断定する。


「ねぇ君。これから俺らと学校サボってどっか遊びいかない? 退屈させないからさぁ」


 不良たちはそんなことを言いながら少女に迫る。対する少女は、


「申し訳ありませんが、私はあなたたちに興味がありません。それでは」


 とても塩対応だった。


「おいおいおいおい。何だよその態度」

「今のは良くねぇな君。ムカついちゃったよ、俺?」

「どうやら立場が分かってないみたいだなぁお前」


 三人の不良は口々に不快感をあらわにする。

 まぁ当然の流れだった。


「あなた方が私をどう思おうが知ったことでは無いです。さっさとそこをどいて下さい。私は学校に行くので」


 しかし、少女は全く動じる様子は無い。それどころか自分の意志を強く貫き通していた。

 だがまぁ、そんな態度を取ったところで不良たちが引くワケも無い。寧ろ火に油、逆効果だ。


「はぁ……流石にガマンの限界だわ。ちょっとこっち来い。俺らに生意気なこと言ったの後悔させてやるよ……!」

 

 完全にキレた不良が少女の腕を掴んだ。


「な、何するんですか。止めて下さい」


 これには流石に焦りを見せる少女。抵抗しよう力を入れているようだが一般の少女が不良に力で敵うワケが無い。

 このままでは彼女はどこかに連れて行かれ、レイプでもされるだろう。 


「……」


 俺はあたりをキョロキョロと見回す。が、助けに入りそうな者は誰一人としていなかった。


 ……はぁ、仕方ない。


 俺は溜息を吐き不良たちに近づくと、恐る恐る刺激しないように声を掛ける。


「あ、あのー……」

「あぁ? 何だてめぇ」

「出しゃばってくんなよオタク君」

「ほらほら、オタクはさっさと家に帰ってシコってろよ」


 不良たちは口々にそんなことを言う。


 ――あぁ?


 瞬間、の血が少しだけ騒いだ。


「どうやら死にてぇらしいな。いいぜ、ならお望み通り殺してやるよぉぉぉぉ!!」


 そしてその場から動かない俺を見た不良は激情し、俺に向かって拳を放つ。

 ――酷く遅く、カスみたいなパンチだ。 


 俺は相手の拳がこちらに届く前に、普通の不良では目にも留まらぬ速度であごを殴った。


「んぇ……」


 すると俺に殴り掛かった不良は間抜けな声を出して地面に倒れる。

 

「ん、おいどうした?」

「何倒れてんだよ……?」


 他の二人はそいつが突然気を失ったようにしか見えておらず、目の前の出来事に戸惑っていた。


「あのー、とりあえずこの人病院に連れてった方がいいんじゃないですか?」


 キレながらも、何とか理性を保つ俺はの二人にそう圧を掛ける。


「お、おい運ぶぞ!!」

「あ……あぁ!」


 そうして二人は倒れた不良を運び、その場を逃げるように去った。


「ふぅ……」


 これで一件落着……。


「あの……」

「……」


 後方から聞こえる声に俺は振り返る。そこにいるのは当然、先程不良たちと揉めてた少女だ。


「ありがとうございます」


 少女はそう言って頭を下げた。


「い、いや気にしないで下さい」

「いえ、そういうワケには……」

「いやマジで本当に気にしなくていいですから! それじゃ!」


 それだけ言うと、俺は足早にその場から離脱する。


 俺はもう不良では無い。

 作家活動に専念するためにもできるだけこういったことで目立ちたくないし、いちいち感謝をされるのもメンドウだ。


 ま、あの女は俺の学校の制服を着ていなかったし、もう関わることもないだろうがな。


 そんなことを思いながら、俺は学校へ向かった。



 教室に到着し席に着く。いつもであれば峰岸たちが絡んでくるのだが、昨日のことがあってか遠巻きにこちらを見るだけだ。


 俺が学校デビューで唯一失敗したなと思ったのはコイツらに出会ったことだ。

『普通』の高校生がどんなものが分からなかったからとりあえず気弱な奴を演じてみたが、どうにもそれが裏目に出て、峰岸たちに目を付けられた。

 しかし下手な動きをすれば目立ってしまう。だから俺は、峰岸たちのことを甘んじて受け入れているのだ。


 アイツらの相手をするのは面倒だったからこのまま関わらないでくれるとありがたいんだが。


 そんなことを考えていると朝のHRの時間になり、教師が教室へと入って来た。

 

「はい。それじゃあ今日は転校生を紹介するぞー」


 教壇に立った教師の第一声はまさかのものだった。


 転校生? この前入学式したばっかだぞ?


 入学式から一か月後に転校生。明らかに異質である。


「皆、仲良くしてやってくれ。それじゃあ入れー」


 先生がそう言うと、教室の扉がガラッと開く。そうして現れたのは、


 ――は?


「皆さん初めまして。坂町詩織さかまちしおりと言います。よろしくお願いします」


 今朝俺が助けた美少女だった。


「坂町は親の都合で少しこの学校に入るのが遅れた。転校生というよりかは一か月遅れの新入生みたいなモンだ。後、ご覧の通り制服は間に合わなくて中学のを着ている」

「お、おいメチャクチャ美人じゃねぇか……!」

「可愛すぎんだろ……! 俺このクラスで良かったぁー!」


 教室内の男たちは口々にそんな感想を漏らす。対する俺は、


 ……マズい。マズいマズいマズいマズいマズい!!


 窮地に立たれ頭を抱えていた。


 ヤベェどうする!? まさかあの女が同じ学校でしかも同じクラスなんて……!! もしさっきのことを学校で話されたら俺の学校生活がぁ……!


 そんなことを考えていると、


「あ……あなたは……」


 坂町詩織はすぐに俺を認識した。


「はは、いやぁ……」

 

 俺は乾いた笑いを浮かべ、ただその場で固まるしかなかった。

 

 

 一限が終わり、休み時間。

 

「またお会いできて嬉しいです」


 坂町詩織は俺に話し掛けてきた。


「あ、あのぉー……外で話しませんか?」

 

「お、おい唯ヶ原の奴転校生と知り合いみたいだぞ!」

「一体どういう関係なんだ……?」


 クラスメイトが口々に俺と坂町の関係性を疑う。そいつらだけならまだいいんだが、


「……」


 峰岸の鋭い視線が俺を見ている。またメンドウなことになりそうな予感がした俺は「はぁ」と溜息を吐いた。


「ちょっと来い」

「え?」


 俺は小声で坂町に話し掛けると、彼女と共に教室を出た。


「頼む。今朝のことは周りに言わないでくれ」


 階段下の人目に付かない場所、そこで俺は坂町に頭を下げる。


「私は別に今朝の事を周囲に他言するつもりはありません。ただ、お礼をさせてほしいだけです」

「だから……それもいらないって言ってるだろ」

「それでは釣り合いません」

「……」


 最早感謝の押し売りだ。


「私は、あなたに恩を返します」

「……」


 あまりの聞き訳の無さに、龍子を思い出した。


「はぁ……分かった。何か考えとくよ」


 このままでは埒が明かない。コイツはいつまでも付きまとってくるだろう。

 そう考えた俺は、自らが折れることにした。


「それは良かったです」


 俺の返答に、坂町は満足そうな顔をした。



 ――週末


「よし、遂に来たぜ!」


 俺は【追放賢者】を出版している会社に足を運んでいた。理由は次巻の打ち合わせのためである。


 直接会社に来たのは初めてだった。打ち合わせはいつもメールやDiscordという通話アプリを利用しているし、校正・校閲の入った原稿は郵送で送られてくるから会社に行く必要は無い。

 だが、面と向かって担当編集と作品について話したいとは常々思っていた。


 これまでは隣県の神奈川に住んでいたのと、休日どっかに行こうとするとチームの奴らが付いて来ようとするから行けなかった。

 だがチームを脱退し不良を卒業した俺にそのしがらみは無い。

 

 軽快な足取りで、俺は会社へと入った。


「えーっと」

 

 入って受付周辺でキョロキョロとしていると、


「山田先生ー!」


 ん、この声は……。


 声のした方に顔を向ける。するとこちらに向かって走る一名の女性の姿があった。


「もしかして、朝凪さん……ですか?」

「ご名答っす! 先生の愛しの担当編集、朝凪倫でーっす!」


 口調とは裏腹に軍隊の敬礼のような所作で挨拶をする朝凪さん。パッチリとした目にとても美人だ。



「じゃあ次はそんな感じでお願いしまっす!」

「はい、分かりました」


 約二時間の打ち合わせを行い、俺と朝凪さんは次巻の方向性を話した。

 とは言っても普通のライトノベルとは違い、WEB小説は既に『小説家になろうぜ!』に作品が投稿しているからある程度円滑に話は進む。

 まぁたまにWEB版と書籍版で展開が大きく変わるモノもあるが、俺の場合はあまり変化が無い。簡素だった描写を厚くするとか、そういう類のものだ。

 

「あ、そうだ! 確か今ちょうど【九条カレン】さんが来てるんすよ!」

「え、本当ですか?」


 九条カレン。

 俺と同じレーベルで本を出している作家だ。俺と違いWEBからの書籍化ではなく毎年開催している【小説大賞】……いわゆる公募で見事に大賞を勝ち取り作家デビューを果たした人物だ。

 凄まじい文章力と、捻りがありつつも分かりやすい世界観と設定。そして魅力的なキャラクターが紡ぐストーリーは圧巻の一言らしい。


 何故「らしい」なのかと言うと、俺は九条カレンの小説を読んでいないからだ。いや、正確には「読めなかった」が正しい。

 文章が小難しく、俺の脳が受け付けなかったのだ。

 作家になっても俺が小説を読めないのはあまり変わっていない。

 

「山田先生、ツイッターでもそうですけどあんまり他の作家の人と関わらないでしょ? リアルでも同業者の人に会ったことないんじゃないですか?」

「え、えーと……」 


 朝凪さんの言う通り、俺は他の作家との交流は皆無だ。ツイッターも自作の宣伝程度にしか使わないし、たまに向こうからリプライをもらうがそれも『ありがとうございます』とか返して終わり。


「人脈は正義っす! それに、九条先生と山田先生はデビューがほぼ同時、いわゆる同期です! きっと仲良くなれるっすよ!」


 うーん、これからのことも考えてもう少し交流とかを増やした方がいいか。


 朝凪さんの熱弁に俺はそう考えた。


「あの、それじゃあ挨拶……してもいいですか?」

「はい! じゃあ早速行きましょう! アポ取りとかはまぁその場で何とかするっす!」


 そうして、俺は朝凪さんに連れられ九条先生のいる部屋へと案内された。


「ここです! では早速。すみませーん、朝凪と山田先生入ります!」


 扉をノックすることも無く、朝凪さんはそう言って扉を開ける。


「ちょっと倫。私たちまだ打ち合わせ中なんだけど」


 まず目に入ったのは、スーツをピシッと着こなしたクールビューティーな女性。できる仕事人って感じだ。

 そしてそんな彼女と向かい合うように座っていたのは、


「……」


 坂町詩織だった。


「……」

「……」


 俺と坂町の目が合う。

 昨日に続きあまりにも超次元な展開と巡り合わせに俺は、


「えぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!??」


 素で驚いてしまった。


「ちょ、な……何でお前がここに……!」


 動揺を隠せないまま俺は坂町に問い掛ける。


「あれ、九条先生とお知り合いっすか山田先生?」

「し、知り合いっていうか……」


 う、嘘だろ……コイツがあの天才作家【九条カレン】!?


「私と彼は同級生です」

 

 言葉が出てこなかった俺に変わり、坂町が言葉を発した。


「えー!? それは運命的っすねー!」

 

 朝凪さんは俺と坂町を交互に見る。


「これから、よろしくお願いしますね」


 そう言ってニッコリと笑う坂町。


「は、はは……」

 

 そんな彼女に対し、俺は乾いた笑いで返すことしかできなかった。

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