4. にゃぁお。
誰もいない廊下。
ずらーっと廊下に並ぶ窓は、外から漏れた太陽の光が室内に透き通らせることを許している。それが反射して普段見ている、つまんない校舎も、教室も、馬鹿みたいに違って見えた。
今日は、いつもより、いや、いつも以上違って見えたかな。
「カーテンが......」
破けている。花瓶も割れ、私たちのクラスがあるB校舎はズタボロ状態。
空き巣?いや、絶対ないか...。学校で空き巣など、聞いたことがない。そもそもの話だが、空き巣に入られるほど、高価で宝物のようなものはこの学校に存在するわけが無い。
「空き巣に入られた」と一瞬でもありえない考え方をする私の頭に、私の心はツッコミがてら、ふざけているように怒っていた。これは笑える。
上履きと地面が擦れて摩擦と化した音が鼓膜に届いた。
................誰!?
「ぉ、、、、ぉはよ。」
................へ?麦っ!?
「なんで、麦っち、ここにいるの!?」
「なんで、、、いるのって、ぃわれてもさ、...自分の学校に、...登校しちゃ、、ダメなの、、、?」
「違う違う、そういうわけじゃないけど。今日はちょっと遅れるのかなーって。いつも学校に来る時間よりも遅れてるから。」
「なるほどぉ、、、」
「なんで今日、遅れたの?麦っち、大丈夫かー?ふふっ、、、」
と、からかうのもこれぐらいにして。言いたいことが山以上ある。
「麦っち、これ、どういうこと?」
「わかんな...い、。けど、」
「けど?」
「カーテンが...破けてるのは、引っかき傷みたいに...見えるんだ、、、」
「ほぅ、確かに」
引っかき傷?待てよ、、、。さっき、恐らく猫の鳴き声が聞こえたような。
................そうか!!!
「犯人は...ねk」
「猫だな...............。」
ポカーーーーーーーン。
え、なんか今、麦っちに美味しい部分横取りされた気がするけど、ちょっ、、、。
少し私が戸惑ってることを感じた麦は、無言でニヤけるように口角を少しだけ上げた。
ガシャン。長い廊下にいた二人の心臓は「驚き」という感情により、びっくりして音の発生源となる方へ顔を向けた。
可愛いのに、やってることはちょっと酷い黒猫ちゃんが物陰からひょっこりと顔を出す。
「あっ、、、魔女の使い魔、、。」
「あ!!犯人!!!」
いや、猫は人じゃないな。「犯猫」だ!
「葉望歌...、捕まえるなら.........今だよ。」
「分かってるよ。いつも制服の中から体育着着てるもん。動きやすいよ〜」
「ぐっ......!」
彼は、私に向かって、目を伏せるまでの満面の笑顔で親指を立て、グッドサインを出す。
よし、、まだみんな来ないし、ここの校舎にいるのは多分私たちだけだ。捕まえてやるぅっ!
猫を捕獲、保護するために、まずは近づかなければならない。まずは、一歩だけ...。
だが、
「シャアアアアアアア!!!!!」
足を一歩だけ踏み入れただけなのに、猫は毛を逆立てて、噛まれたら痛そうな鋭い牙も剥き出し。警戒した声を発する。
完全に警戒心MAXじゃん...。
「ねねね、麦っち、どーしょおおお。」
「ぶははは、、、」
「ちょ、笑ってる場合じゃないんだってば!!!??」
おどおどしている姿を麦に見られ、穴があったら入りたい。ううん、もう土に潜りたいと思う、最悪な気分だった。
さらに、今の状況を理解したように、急に猫が態度を変え、さっきの麦のように、口角をニヤっと上げている。
「あんた達二人、なんか似てるね...」
怒りと冗談交じりで言った言葉。
「僕と...猫............が?」
「めっちゃ似てると思うよ。性格も...ふっ、」
面白すぎて言ってる途中で笑ってしまった。次の彼の言葉を聞くまでは心から爆笑した。
「にゃぁお。」
、、、、、、、、、目の奥の奥が広がる。そんな感覚は初めてで、顔が赤らんだ事も、分からなかった。
なぜなら、さっきの「にゃぁお。」は、猫が鳴いたのではない。彼だ。中学生にもなって、普通、にゃぁお。と言う男子は正直引けるが、麦になると例外に思えてくる。
これは、これだけはっ!言い訳させてください!!!
だって................、だって!
ーーーーーものすごく顔と顔が近いところで「にゃぁお。」って猫の鳴き真似してたんだもん、この人。皆さん、想像してください。マジで、天使のような可愛さでした。もう、キャパオーバーです...。猫も捕まえる気が起きませんっ。
「葉望歌...?どぅし...たの?」
どうしたもこーも、あるかああああ!!??
麦っちがっ、、
「顔が赤いけど、、。ふふはは、...夕日みたい、、」
意味がわかんないので、後ろを向くことしかできなった。とっさの判断力が低下している。しょうがないので、失礼ながらも、後ろ向きのまま指示を出す。
「ととっ、、とにかく!!麦っち、猫捕まえて!!!はやくしないと逃げられちゃう」
「ぉっけー、、、」
音でわかる。のそのそとゆっくり麦が猫に近づく音。
「麦っち、もっとはやく!逃げられるよ!?」
も〜ぅ、せっかく見つけたのにこれじゃ見逃しちゃうんだけ...................
「うーん、................大丈夫だよ〜。」
ん?何が大丈夫なの、?まさか逃がしちゃったとかじゃないよね?
「大丈夫、...もぅ、、、捕まえたから。」
ーーー「は?」
急いで振り返る。スカートが少しだけ舞い、中に履いている体育着のズボンがちらりと見えた。
麦が猫に向かい、しゃがんでいる。猫は麦の膝に顔を埋め、すりすりしている。
なんかーー、平和なんですけどぉ、、、。って言うかー、どこからツッコめばいいか、もうわからなーい。
私はついにツッコむことを諦めてしまった。
なんで、そんなに簡単に?私の場合、毛を逆立てられて鳴かれたんだけど...。
これだけは言わせてほしい。
「麦っち、、、」
「んっ、、、?」
「麦っちってさ、、、
ーーーーー前世、...猫でしょ?」
麦は、「何言ってるのかわかんない」とでも言いたげに首を傾ける。
その後、人差し指で、自らの唇に当てた。
「麦っち......」
「しーーーーー、、、、。」
静かに麦の手に視点を向ける。そこには、麦の手に撫でられて、気持ち良さそーにぐったりと寝そべり、寝ているいたずら猫。
全く、反省してよね......。今回は許すけど。でも、次やったらみんなが許さないかもよー?
少し、呆れたように笑い、心の中で猫に伝え、一言小さく囁く。
「おやすみ。」
ん?前にも誰かに言ったような言葉...。
隣の麦を見ると、猫を起こさないよに声を抑えているが、密かに何故か、笑っている。
さて................と。
振り返ると、この子が割った花瓶の破片などの残骸が散らばりすぎて、見てると、目が痛い。
「葉望歌...」
「ん?」
「僕ら、お得意の.......掃除しちゃぃますか...?」
「ふふふ、わかってんねーー、相棒よっ!」
「ぉぅ、、、。」
ーーーーーでも、遅かった。
「あんたたち、、、?」
振り返ると、そこには担任の先生がたっていた。
真顔なので、感情が上手く読み取れない。それがまた恐怖心を抱かせる。恐らく、怒りが溢れているのだろう。この状況からすると、そうだ。絶対に怒ってる。
「えっと、先生!これは、私たちがやったんじゃなくて、あの猫が...」
猫がいる方へ指を指す。
「猫?どこにいると言うの?」
「へっ!?」
................いないっ、。
「先生違うんです、私と麦がする訳ありません!、」
「先生......僕らやってませ、、ん、。」
「じゃぁ、ほかに誰がやったって言うのよ。こんな朝早くに学校に来る人はあなた達二人だけでしょう?」
「だから!それは、猫が!!」
「その猫は?」
「ぐっ、、、」
タッタッタッ、、、。柔らかい肉球が地面を蹴り進む。
ニヤリ。
「にゃー。」
やっぱりあいつは、正真正銘のいたずら猫だった。逃がすべきじゃなかったと後悔する。
「すぐにこれを片付けなさいっ!」
「やってないですって!!!!」
「では、放課後、二人とも職員室に来なさい。逃げたらダメですからね?」
「先生、!」
なんでぇーーー、。猫めええええええええ!!!!
................放課後、私たち二人がどうなったのかは、皆様のご想像にお任せします。
泣くかと思いました。あははははははははは、、、、。