3. 黒と花
ちゅん。
朝に鳴く鳥の鳴き声を、未だに私は聞いたことがないのかもしれない。
朝。少しだけ早く登校した。朝早く来て、勉強するとかじゃない。自信持って、これだけは言える。『勉強は無理だ。』
家族にさえ、言っていない。実は、私の夢は、歌い手さん。歌うことが好き。親に言ったって、まともな道に進みなさい、と散々言われるだけだと分かっているからね。ま、掃除が一番好きだけど。私はたまに早く登校して、誰も居なく、聞かれていないことを確認しながら教室で歌自主練に励んでいるのだ。
リュックを、机におろし、中に入っていた教科書やノートを机の中に、シュ。
そろそろやるか。カーテンを開けて、清々しく元気だしながら歌おっかな。
しかし、発声練習をする前に思わぬ人の気配を感じてビクッとした。先生だと思ったが、制服を着ている生徒だ。
.............ん、?麦!?
私の教室は一階で、窓から中庭が見える構造になっていて、生えていたたんぽぽの花らしき黄色い花の前にしゃがみこんでいるあの後ろ姿は、やはり麦くんだった。何をするのかと思いきや、彼は花を摘み取って、彼の制服の胸ポケットに花が見えるような形で入れた。うむ、...なぜに!?
にしても、危なかった。もう少しで彼に聞かれるかと思って少しヒヤリとした。ギリセーフ。
麦くんは、教室に入る前に私が居ることに気づき、朝のペコり。一体どうして花を摘み取って、胸ポケットに入れたのか聞きたかったのだが、
「ねー、、むぃ」
最近寝不足なのかな。彼は自分の机へ一直線。着いたかと思えば、重そうなリュックを置いたというか、力が抜けて地面に落ちたというか。そのままうつ伏せでまた寝る。
やっぱ。................静かにしておこう。よくは分からないが、麦くんを見てると親目線というものになってくる。やがて、上がってきた太陽に伴い教室に光が差してきた。
私は慌てて、先程開けようとしていたカーテンを逆に起こさないよう、ゆっくりと閉める。
毎日、何時に寝てるんだろ。夜更かしはいけないから程々にね。
『今は、寝ていいよ。授業中に居眠りして、先生に怒られる麦くんは見たくないもんね。せめて、今だけは、他の誰も来なくていい、チャイムなんか、鳴らなくていい』と心の中で言う。
「おやすみ。」囁き声で、眠る彼に向かって、どうせ聞こえてないだろうと思って言った。
みんなが来るまで。チャイム音が鳴るまで。
「よし、んじゃ、昨日の続きしますか。」
【廃墟廊下】と麦くん。
昨日の掃除の続き。前回のようにゴミやホコリを取り、ちりとりでゴミを取るため、ほうきを掛け置く。
「あっ、、危な、っ、、。」
麦くんが小さな声で注意してくれたのと、麦くんの手が、私の頭に降ってくるほうきの柄をキャッチしたのはほぼ同時だと思う。
「あ、、ありがと。」
たんこぶできなくて、良かったー。本当にありがとう。
「わお、てか、麦くんって、反射神経めっちゃいいんだね!」
そう言うと、彼の頬が赤らんだ。
「そのぉ、.....音ゲーやってて、、、」
「ふむふむ、なるほど!」
反射神経って、音ゲーで鍛えられるのかな?音ゲーか、私もやってみよっかな。私には無理だと思うけど、一応チャレンジしてみよ。
雑談のちょうど区切りが良いところで、清掃時間終了のチャイム音が鳴り響く。
「戻ろっか。」
「ぅ、ん...」
楽しいけど、疲れた。部活動が終わったあとみたい。麦くんが頑張って落書きを落としてくれたが、インクがこびりついているため、中々拭き取ることができず、出来としては五分の三というところかな。明日は頑張って落とせるといいなー。ワクワクしたまま、掃除用具入れにほうきを入れる。よし、昼休み時間だ。
「んじゃ、私は御手洗に。おつかれー!」
「お疲れ様で...す、.....」
手を洗った後、何もやることがなかったから教室で静かに本でも読もうかなと思い、教室に帰る。
今日の昼休みの教室はいつもより人は少なかったが、薇黄含め、女子五名、他男子三名ぐらいはいる。
彼は図書館かな?本読むの好きだもんね、麦くん。................いや、いた。教卓に座って何かしている。様子を伺いながら自分の机に座る。
あれ、 ?麦くんは、朝に摘み取った花を胸ポケットから取り出し、教卓の机の上に乗せた。
...何してるん?しばらく彼の行動を観察。
机上に一輪乗せたが、茎が上手く立たずにふにゃぁ、と倒れる。麦はそれを見て対抗するかのように、少しムッと口角が下がった顔をした。
................突然に『生月満 麦VS立たないたんぽぽ」の戦いが始まった(?)
二回目、三回目、................十五回目...。
もう、私は見ようと思っていた本を閉じてしまった。麦くんにバレないようにチラチラ見るようにはしているが、応援したくなってくる。
。。。
そして、三十二回目の挑戦!!
さっきまでのふにゃふにゃしていたたんぽぽの茎はすごいバランスで立った!花がとても笑っているように見える。やった、おめでとう!と心で呟く。
その花を目の前で見つめ、『わーーー。』と真顔で小さな拍手をしている麦くん。
『あははは、やっぱり、麦くんって謎だわ。』
ん、謎すぎて笑える。
その光景が、面白すぎて。たまらなくて。少し吹いてしまった。麦がキョトンとこちらを向く。
「え、凄ーー。めっちゃこの本面白ーーーい。」
棒読み。バレただろうか?
なんでだろ。とっさに読もうとしていた本で顔を隠してしまった。別に麦くんのこと見てないからっ、...。麦くんは、何も考えてないような丸い目で、椅子にちょこんと座ってる。
翌日、また早く登校する。
今日は麦くん、遅れて来るのかな?
ほんの少し未来の、先の私は、いつも制服の下から動きやすい体育着を履いてて良かったと思っただろう。
どうしてこうなった?と驚く。教室へ向かう廊下を歩いてるうちに、あちらこちらのカーテンが破れていることに気づく。
二階の校舎の中から、いたずら猫の鳴き声が聞こえた気がした。
「にゃーーーぉ。」
こんにちは、零華。です!
このたんぽぽを教卓の机の上に立たせるというお話は、実話です笑
めっちゃ可愛くないですか!?1人で親目線になってメモを取りながら、盛り上がってました。
前に、読者に「零華さんは、主人公の葉望歌の視点で書いているんですか?」と質問されました。
そうです。
ですが、葉望歌のモデルとなった人(私の友達)がいて、その人の目線になって書いてるので、実際は葉望歌は私ではありません!笑笑
私は................親目線というか。「今日も賑やかだね〜」みたいに、のほほーんとしてますw
さて、次回は、たんぽぽの花の隣にいた黒猫ちゃんがでてきます!ぜひ、お楽しみに!!