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俺の四畳半が最近安らげない件  作者: 柘植 芳年
32/72

侵略の日

都心の上空に現れた黒く禍々しい円盤。それはかつて一世を風靡したあの映画のように、首都に絶望を振り撒いていた。

そして俺は、その円盤の内部に囚われていた。



―――円盤の内部は4畳半だった。



道端を歩いていたら突如あの、あれだ、キャトルミューティレーションされる牛のようにこの円盤に吸い上げられて、この『居住区』と呼ばれる場所に放り出された。

「…まじか」

新宿の空を覆い尽くすこの円盤の居住区が、こんなこぢんまりしてていいのか?俺が何となく所在なく周囲を見回している間、一人の割と普通な感じの男が、黒いローブっぽいのを4畳半に広げて俺を見下ろしていた。

ローブだけで部屋の面積の半分は埋め尽くしている。何故この部屋でこんなローブを着たんだ。狭さ倍増だろうが。

「ふふふははははは……どうだ、我が帝国の捕虜となった気分は」

「………えぇと」

「云ってみろ、未開の民よ!!恐怖したか、絶望したか!!」

「…うぅむ……」

「さあ、この期に及んで貴様は何を思う!?」

「……近いなぁ、と」

「……近い、だと!?貴様異星人とのファーストコンタクトの感想が『近い』ってなんだ!?」

こんなマツコデラックスみたいなでかいローブで至近距離に立たれて、他に何を思えというのだ。

「てか狭すぎませんかこの部屋」

「うるさい!捕虜にはこの部屋すら勿体ないわ」

とか毒づきながらも、俺がしきりにローブのすそを気にしていることに気が付くと、奴はローブを脱いで畳み始めた。ローブの下は意外とシンプルなツナギの制服で、居住区は少しスッキリした。

「畳むんすねぇ…」

「脱ぎっぱなしというわけにはいかんだろうが!…ったく、ここの人間の『侵略者感』を研究して用意した衣装だというのに」

少しは普通の人間より大きいのかな、と思っていたが、ローブ脱いだら本当に俺と変わらない。肌が青白い…というか微妙に青いのが、DUFT PUNKのPVみたいでちょっと笑いそうになった。

「ちょっと聞きたいのですが」

「居住区の狭さについてか!?」

あ、やっぱり気にしてたんだ。

「設計ミスだ!!…お前ら未開の民にはあずかり知らぬ事だろうがな、星間航行というのは莫大な時間と燃料を必要とするのだ。食料だって船内で作物レベルから自作だ。そして燃料タンクはブースターになっていて、少しでも推進力を得るために、空になると切り離して廃棄する。この宇宙船も相当巨大に見えるだろうが、出発時の半分の嵩になっているからな!?」

「そんならついでにもう少し大きくしちゃえばいいのに」

「黙れ!余分なスペース増やすとな、推進力がもっともっと必要になるんだよ!素人が口を出すな!!」

さっき設計ミスとか云ってなかったか?…まぁいいや。

「…で、乗務員はどれくらい居るんですか」

「30人だ」

「え!?4畳半に!?」

「適当にその辺で仮眠取ってるんだよ!!交互にコールドスリープに入るし!!」

……おぉ、ようやく宇宙船っぽい言葉出て来たぞ。



「船長、原住民の雌体を捕獲いたしました!」



ヴン…と音がして、部屋のど真ん中を真っ二つにするように巨大なスクリーンが現出してもう一人の宇宙人が映し出された。

「スクリーンでかいな!!なにこのサイズ、必要か!?」

「うるさい設計ミスだ!!…ここへ転送しろ」

云い終わるや否や、ばさり、と髪を振り乱した『誰か』が落ちて来た。…俺の時もそうだが杜撰だな。これも設計ミスか。



「もぉ~、なにすんのよぅ」



ていうか。

「あの、宇宙人のひと」

「モーフィアス船長だ!」

「かっこいいすね。…で、モーフィアス船長」

「ふむ、何かね」



「この人、雌じゃないです」



モーフィアス船長は『え~!?』みたいな顔をして、ピンクのスカートを振り乱して落ちて来た『彼』を見下ろす。

「んもぅ、乱暴なことしといて失礼じゃな~い」

ほら、声が野太い。そして顎が微妙に青い。

「オカマのひとじゃないかと」

「ひどーい、失礼~。私わぁ、体は男でもぉ、心はおん」

最後まで云い終わる前に、オカマは消えた。どうも外に帰されたらしい。

「…あの、また別に女のひと捕獲するんですか」

そうなら折角だから美人を捕獲してもらおう。そう思って携帯を取り出した。地球の美人の基準を教えておかなくては。しかしモーフィアス船長はがっくりと肩を落として呟いた。

「今ので異星人捕獲用のエネルギーは使い果たした。これ以上エネルギーを使うと帰途の燃料が微妙に足りなくなる」

「え…じゃ侵略とか無理じゃないすか」

モーフィアスが『あっ』みたいな顔で凍りついて、数秒後崩れ落ちた。何かよくわからないが何千光年の旅の終着駅で痛恨のミスですね……船長。お察しします。

「ま…まあ仕方ない。今回は雄だけで。…貴様、気の毒だが本星へ連行する。コールドスリープに入ってもらうぞ」

えっ……そ、そんなご無体な……軽く絶望に打ちひしがれていると、再びでかいスクリーンがズドンと現れて4畳半を割った。スクリーンの中央に、青くて細い男が映し出された。

「船長、緊急事態発生です!!」

「いちいちデカいな!!」

「貴様もいちいちうるさいな!!捕虜の自覚はあるのか!?……どうした、急用か」

「捕虜の一部が冷凍焼け起こしてます!!」

「なに―――!!!」



―――冷凍焼け……。



杜撰か。どんだけ杜撰だ。

「……コールドスリープから覚めたら肩のあたりがカッピカピとか嫌過ぎですね」

「い、いやいやいや…これはその…ちょっと忙しいタイミングだったもんでね、ははは…ほら!君の時はぐるっぐるに巻くから!大丈夫、全然大丈夫!!」

「……なにで?」

「ラップで巻くよ!!」



――えぇ~…?



「…すんません、それ俺が思ってたコールドスリープじゃない…冷凍保存です」

「ここに来るまでに捕虜捕まえ過ぎてコールドスリープカプセルがなくなっちゃったの!!予想外なの!!」

「………つまり」

「設計ミスだよ!悪かったな!!」

こんなおちょこちょい揃いの宇宙船でも星間航行出来るのだな。こりゃ、地球もそろそろかも知れないな……。そんなことを考えていると、またあのくそでかいスクリーンがどしんと落ちて来た。もちろん、青くて細いあいつが映し出されている。

「…うっわもう…鬱陶しいな!これ毎回落ちてくるんですか」

「設計ミ」「あ、もういいです」

「せ、船長!緊急事態ですっ!!」

「何だ今度は!!」

「母星が爆発しました!!」




なに―――――!!!




「えー!?えぇえええ何で何で!?」

「発電所のビスを技術者がうっかり…その…閉め忘れて…」

「設計ミス…ではないのだな!?」

ビスの閉め忘れ如きで母星もろとも吹っ飛ぶような構造自体が設計ミスの最たるものじゃないのか、とちらっと思ったが、もうなんか可哀想なので云わないことにする。

「…じゃ、帰るとこないのか…」

蒼白な顔面を更に青くして立ち尽くすモーフィアス船長の後姿を眺めながら、さっきローブで現れた時の姿を思い出してみる。…何がしたかったんだろう、この宇宙人。

「……あの、着ますか?」

何となくローブを差し出してみるが、着てる場合か嫌味か!と拒否される。あの、帰っても?と声を掛けると、あぁ、これからちょっと大事な会議だから…と、あっさり出してもらえた。




あれから数日後、首都の空を覆い尽くしていた円盤は突如姿を消した。




そしてモーフィアス船長は現在、俺の向かいのアパートに住んでいる。…技術提供と引き換えに、市民権を得る取引を政府と交わしたらしい。秘密裏に。最初は侵略する気満々だった彼らは、あの時点で何の対話もなされていなかったのをいいことに、難民として政府に助けを求めたのだ。

そして俺は『顔見知り』という理由で彼らの地球生活においての相談役にされた。

「おーい、沢井ー、醤油貸してくれー。買い忘れた」

「あの、あの、部屋の鍵が見つからなくて部屋に入れなくて……」

「すみませーん。うっかりアロンアルファを踏んで、畳が付いてくるんだけど」

『もしもし!?沢井か!?今新宿!女の子がいる店に入ったら50万払えって云われて…もしもし!?』

「沢井助けて、財布落とした!!」

「ドブに落ちた…携帯水没した…」

「な、なんかお父さんが事故起こしたから200万払えって電話が…!あれ、でもお父さん母星で」




あぁああああもう、こいつらどういう種族なんだ!!


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