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俺の四畳半が最近安らげない件  作者: 柘植 芳年
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6畳の部屋

「結論を申し上げると、多分借りない。その上で色々と聞きたい事が、というか言いたい事がある」

俺がそう言うと、生真面目そうな眼鏡の担当者が、俺からふいと目をそらした。何を言われるのか、もう分かっているのだろう。ていうか今までもこの物件に案内する度に言われ続けていることだろう。

「六畳間っつったよな」

「六畳間です」

目をそらしたまま、にっこり笑う。



「嘘つけ!四角いんだよ、異様にな!!」



完全に正方形の部屋に、6枚の超変な縮尺の畳が縦に3枚、横に2枚置かれている。すごくモヤモヤする光景だ。

「考え過ぎですよお客様。丸や三角の部屋なんて使いにくいじゃないですか」

「真四角!この部屋、すごい真四角!!絶対にこれ元々四畳半だろ!!」

「畳が6枚敷いてあるじゃないですか。だから六畳です」

なにこれ。開き直られているのか?

「こんなおかしいタテヨコ比率の畳があるか」

「最近は結構ありますよ、こういう需要。だから量産されています」

「…それを敷いて四畳半に住まう奴は悲しくならないのかな」

2列3段にきっちり敷かれた妙な六畳間を眺めていると、なんだかやるせない気分になった。

「これ普通に四畳半として貸し出したら駄目なのか」

眼鏡は眉間に指をあてると、そっと玄関脇にしゃがみ込んだ。もう接客の態度じゃない。ぶっちゃけトークの構えだ。

「今どき、学生だって四畳半なんて借りませんよ。たとえ風呂とトイレがついていようとも」

貴方だって六畳以上、八畳なら尚可って言ってたじゃないですかと眼鏡が呟いた。

「ちなみに広告に『六畳』と書くと宅地建物取引業法に引っかかって、超怒られます。なので六畳間をお探しのお客様個々にご案内する形でこの物件をご案内しているのです」

「騙される奴いるの?」

「私は見たことないですね。最近じゃちょっとしたネタ扱いです」



―――うわ言っちゃったよ、ネタだって。



「うちの社でもお荷物物件でしてね。委託なら売ってるフリして完全シカトなんですが、自社物件なのが頭痛いところで」

上からは契約まとめろとせっつかれるし、客は6畳以上は譲れないというし。そしたら畳6枚敷いてやるしかないじゃないですか。と奴は内ポケットから煙草とか取り出し始めた。なんだその解決法。こいつ真面目そうな外見に反して意外とテキトーな性格なんじゃないか。さっきから色々言っちゃいけないことをぶっちゃけるし。

「外国人に貸すとか」

「駄目なんすよ、この棟の持主が外国人に貸すなと」

「…自社物件じゃないの」

「分譲ですから」

「なんでそういうややこしい事するんだお宅の会社は」

「それは私が聞きたい。社長を小一時間、問い詰めたい気持ちは私も同様です」

……こいつ、何で俺をこの物件に案内したんだ。



「そこでです、私は新しい手段を思いついたのです!!」



奴が指をぱちんと鳴らすと、灰色のツナギを来たバイト学生みたいな奴らがわーっとなだれ込んで来た。黒い布に覆われた大きめの荷物を、手に手に抱えている。

「わっなになに!?」

俺がわたわたしている間に、奴らは慣れた手つきでそれらを配置していく。眼鏡は両手を後ろで組んで背を反らし、滔々と語り始めた。

「座って半畳、寝て一畳。なのに何故皆、六畳間に住みたがるのか」

…いや、最低六畳って話なんだけど…

「それは見栄に起因するところが大きいんじゃないでしょうか。俺は六畳に住んでいるぞ、と」

「六畳てそんな大層なものか!?」

「ですから、この厄介な案件に関して私が出した答えは…これです!!」

バイト学生たちが、一斉に黒布を取り払った。…ていうか…厄介て言ったかこいつ…



「―――家具?」



冷蔵庫、テレビ、ちゃぶ台…白物家電や家具が、きちんと並べられていた。

「タンスはありませんが押入れの一部をクローゼットにリフォームさせて頂きました」

うん、そうか、据え付け家具…しかしこう、何か全体的に違和感が…

「お気づきになりますか」

うん、何かこう、違和感…違和感が…この違和感は…



「―――あ、小さい!!」



全ての家具が微妙に、気づくか気づかないか程度に小さい!何だこれ!?

「そうです。家具家電は据え付けにして、小さめのものを選りすぐって配置しました。…どうです、これではまるで大きい自分がおかしいかのような気分になってくるでしょう?」

奴は得意げにもう一度、背を反らした。

「箱根のトリックアート館で思い付きました」

またすごい事ぶっちゃけたなこいつは。

「仮に、この部屋に来客があったとしましょう。全てが微妙に小さめなこの部屋で、彼は猛烈な違和感を覚えるかもしれません。しかし畳は6枚、家具もジャストサイズ。そして貴方の控えめな身長も、この部屋にジャストサイズ!」

「うるせぇよ余計なこと言うな」

「あれ?俺、また背が伸びたかな?間違っているのは俺のサイズ感かな?そう思うに違いありません!!据え置き家具の分費用はかかっております…だがリフォームの費用や手間を考えれば、全くもって微々たるもの!!」

「言いたい事は分かったけど色々問題あるからなお前の営業トーク」

「お値段はなんと!据え置き四畳半レベル!」

「当たり前だ四畳半なんだから」




―――そんなことがあったのが数年前。




結局俺は『新品家具据え置きなら…』という理由でこの部屋を借り、出ていく理由もないので借り続けている。

初めて来た友人の『……!?』て二度見顔を見るのがひそかな楽しみになっているし。

そして意外なことに、据え置き小さめ家具のせいでスケール感がおかしくなるらしく、俺の部屋の『謎の手狭感』が、友人たちの間で話題になっているらしい。



―――眼鏡の目論見は成功…なのか?


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