若返りの水(もうひとつの昔話 45)
その昔。
あるところに爺さまと婆さまが仲むつまじく暮らしておりました。
ある日のこと。
薪拾いに出かけた爺さまは,いつかしら山の奥深くへと分け入っていました。
そんなとき。
岩陰に湧き出る泉に行きあたり、のどが渇いていた爺さまは水を一口すくって飲みました。
――ああ、生き返ったわい。
一息ついたところで、なんとしたことか曲がっていた腰が伸びてきました。
「おう!」
さらにびっくりです。
泉に映った顔はすっかり若くなっていました。
泉の水は若返りの水だったのです。
家に帰った爺さま。
「ほれ、こんなに若くなったぞ」
若返った姿を婆さまに見せました。
「どこかで見たような顔じゃが、どなた様かね?」
婆さまが首をかしげてたずねます。
「ワシだ、おまえの亭主じゃ」
「おう、あんたは爺さま!」
「やっと気がついてくれたか。実はだな……」
爺さまは泉のことを話しました。
それを聞いた婆さま。
夜が明けると、さっそく泉のある山の奥深くへと分け入っていきました。
ところが行ったきり、婆さまはいつまでたっても家に帰ってきませんでした。
――どうしたんじゃろう?
爺さまは泉に行ってみました。
するとそこには、婆さまの着物の中で赤ん坊が泣いていました。
「婆さま!」
泉の水を飲みすぎて、婆さまは赤ん坊にまで若返っていたのです。
爺さまは赤ん坊を抱いて帰りました。
十五年の月日が流れました。
赤ん坊は爺さまの手で大事に育てられ、たいそう美しい娘に育っていました。
昔の婆さまにそっくりです。
ある日。
爺さまは娘の婆さまを前にして言いました。
「なあ、そろそろワシの女房にならんか?」
「いやじゃ」
「どうしてだ?」
「わたしゃ、若い男がいいがね」
娘の婆さまは首を強く振りました。
それを聞いた爺さま。
夜が明けると、さっそく泉のある山の奥深くへと分け入っていきました。
ところが行ったきり、爺さまはいつまでたっても家に帰ってきませんでした。
――どうしたんじゃろう?
娘の婆さまは泉に行ってみました。
するとそこには、爺さまの着物の中で赤ん坊が泣いていました。
「爺さま!」
泉の水を飲みすぎて、爺さまは赤ん坊にまで若返っていたのです。
――これでやっと別の男と……。
娘の婆さまは泉の前に赤ん坊を残して帰っていきました。