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澄人の能力①~祖父が残してくれたもの~

第1章の始まりです。

澄人の能力や境遇が判明します。

 おじいちゃんの遺言を読んでから、お姉ちゃんがある場所で詳しい話をしたいと言ってきたため、一緒に街を歩いていた。


 最初は人通りの多い道を通っていたが、だんだんと人がいなくなり、目的が無ければ絶対に立ち入らない古い雑居ビルの中へ向かおうとしている。


 祖父の遺言のこともあり、文句を言わずに黙ってついてきたものの、さすがにここへ入るのは抵抗があった。


「この中なの?」


「そうよ。安心して、中は快適だから」


「はあ……」


 お姉ちゃんは何度もここへ来たことがあるのか、何にも気にすることなく奥へ進んでいく。


 俺は1度だけ深呼吸をして、気合を入れてからビルの中を進み始めた。


 お姉ちゃんはエレベーターを待っており、横に並ぶとようやく口を開く。


「ここは、私たちが活動するために正澄様が残してくれたビルなの」


「たちってことは、複数いるってこと?」


「そうよ。私と……【下】に着いてから説明するわ」


「下?」


 エレベーターに乗り込んでも、地下へ向かうボタンがない。


 下というのは何かの隠語なのかと考えていたら、扉が閉じた後、お姉ちゃんがボタンの並んでいる場所の中央部分をスライドさせた。


 そこへ親指を押し当てると、エレベーターが勝手に動き出す。


「本当に下へ……向かっている……」


 体が浮くような感覚になり、エレベーターが地下へ向かっていることが分かった。


 思わず口にした言葉を聞き、お姉ちゃんは俺を見ながら笑っている。


「ここは澄人のために用意されたのよ」


「俺のため?」


「そう……草凪の家から追放される定めを背負ったあなたのことを憂いた正澄様が用意してくれたの」


 エレベーターが停止した先にはむき出しのコンクリートの壁が続いており、お姉ちゃんは先に降りた。


「来て、あなたへ話さなければならないことがたくさんあるの」


「……わかった」


 コンクリートの道を進んだ先にある金属製の扉の前で、お姉ちゃんは壁に手のひらを押し付ける。

 すると、扉からカチャっという音が鳴り、お姉ちゃんがドアノブをひねって扉を開けた。


「私たちのアジトへようこそ」


「アジト……」


 その部屋は学校の教室よりもはるかに大きく、壁一面に付けられている画面には日本地図のようなものやこの街全体が表示されており、様々な映像が流れるように映し出されている。


 部屋の中は机や棚などが多数あり、地面にはいたるところに書類が散らばっていた。


 お姉ちゃんは俺が入ったのを確認してから扉を閉めて、部屋の中央に視線を向ける。


「なつー!! いるんでしょ!!?? 澄人を連れてきたわよ!! こっちに来なさい!!」


 しかし、部屋の中からは返事がなく、少しため息をついたお姉ちゃんは近くの椅子を俺へ近づける。


「澄人、これに座っていてくれる? ちょっともう1人いると思うから、連れてくるわ」


 俺が椅子に座る前に、お姉ちゃんは足元に転がる物を避けながら器用に部屋の奥へ進んでいた。


 散らかり放題の部屋だが、空調が利いているため外よりはだいぶ快適に過ごせそうだ。


 手が届きそうな範囲に落ちている物を拾おうとした時、奥からお姉ちゃんの話し声が聞こえてきた。


「あんたそんな恰好で本当にいいの?」


「いいの、どうせいつもの訓練でしょ? もう何年もやって飽きたわ……ふわぁー」


 呆れたような顔をしながらこちらへ向かってくるお姉ちゃんは、誰かの手を引っ張っているように見える。


 戸棚の奥から現れたその人は、お姉ちゃんよりも背が低く、腰ほどまで伸びた長い髪がぼさぼさになっていた。


 その人と目が合ってしまったので、立ち上がって自己紹介をする。


「はじめまして、草凪澄人です」


「はっ!? えっ!? うそ!? ちょっと待って!? 訓練じゃないの!!??」


 肌着姿で現れたその人は慌てふためいてしまい、俺の顔を見ながらみるみる顔を赤く染めて、逃げるように奥へ去って行った。


「ごめんね。澄人、これでも飲んでいて」


 あいさつを無視されるようにぽつんと立っていた俺へ、お姉ちゃんが冷えたコップを渡してくれた。


 お姉ちゃんも近くの椅子に座るので、俺も座り直してコップへ口をつける。


 歩いて汗をかいた体に水分が染み渡り、思わずふぅっと一息ついてしまう。


「ここ、今は汚れているけど、彼女が片付けておくから心配しないでね」


「手伝わなくていいの?」


「いいわ。あの子にやらせるから、大丈夫よ」


 お姉ちゃんも喉が渇いていたのか、コップに入ったお茶を飲み干してテーブルに置いた。


 逃げ去っていた人が奥の方で何かをゴソゴソしている音が聞こえるので、質問をする。


「あの人は?」


「さっきまで寝ていたから、たぶん着替えているんじゃないかな。余裕をもってこの時間に来るって伝えたのに」


 お姉ちゃんは少し怒るように腕を組み、部屋の奥へ視線を向けていた。


 すると、音が収まり、さっきと同じ場所から、髪の毛を整え、動きやすそうな服着た女の子が現れる。


「お、お待たせしてもうしわけありません」


 やはり見間違いではなく、その女の子は俺よりも小さく、150センチあるかわからない。


 しかし、その子の口調から、子供扱いするのは失礼な気がするので、改めてあいさつを行う。


「いいえ、気にしていません。はじめまして、草凪澄人です」


「えっと……その……水上(みずかみ)……夏澄(かすみ)です。(なつ)って呼んでください」


 俺が手を差し出すと、その人はためらいながらも握手をするために手を出してくれた。


 手を離すと、疑問に思っていたことを口にする。


「どうして、夏澄さんなのに夏さんって呼ばないといけないんですか?」


「それは……」


 夏澄さんは俺の質問を聞くと同時にお姉ちゃんの方へ視線を向ける。


 そういえば、お姉ちゃんも澄香という名前のはずなのに、俺は香お姉ちゃんと呼んでいた。


(澄の字は読まないのか? 同じ漢字が入っているから、そんな面倒なことをしているのかな……)


「夏、澄人の登録を行いたいから、準備をしてくれる?」


「う、うん……澄人様、一旦失礼します」


「え? さまって……」


 俺が考えを巡らせ始めた時、お姉ちゃんが夏澄さんへ何かの指示を出す。


 初めて、【様】なんてつけられて呼ばれたため、俺の考えていたことが吹き飛んでしまった。


「それを含めて、これから話をするわ。聞いてくれる?」


 お姉ちゃんはテーブルに肘をつきながら、俺の目を真剣に見つめてきていた。

ご覧いただきありがとうございました。

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