草根高校入学編⑩~校舎の裏にて~
学校の裏門を抜けます。
お楽しみいただければ幸いです。
「案内してください。危ないんでしょう!?」
「わ、わかりました!!」
スマホから聞こえた師匠の声に効果があったのか、俺が腕をつかんだ人は立ち上がって小柄な女性を見る。
「後でいくらでもお叱りを受けます。僕はこの子とるりのところへ向かいます」
「本当にだめなんだって……」
この門の先にはよほどのものがあるのか、人の命がかかっているにもかかわらず、この女性は俺の同行を許そうとしない。
我慢ができず、大地の精霊で気絶させようかと思った時、スマホから貫禄のある声が聞こえてくる。
「豊留くん、私が許可する。その少年を行かせなさい、すぐにそっちへ養護教員を手配する」
「本当に理事長なんですか!? どうして!?」
どうしてと言いながら豊留と呼ばれた女性が俺のことを見てきた。
おそらく、なぜ普通の合格者が理事長と繋がっているのか意味が分からないのだろう。
「行こう!」
意味深長に俺を見てくる人の視線を浴びていたら、俺の傍にいる緑色のラインが入った男性が走り出す。
遅れないように付いていくと門の先は森になっており、舗装された道が1本だけ延びていた。
(あ、そうか。わかった)
大きな木でできた門を通りながら、一番大切なことを言うのを忘れていたことに気が付く。
後ろを振り向き、俺を眺めていた人たちへ手を振る。
「俺は草凪澄人です! 来年度からよろしくお願いします!」
おそらく、これを言うだけで師匠へ連絡が取れ、このような行動に出たりすることに違和感がなくなるはずだ。
現に、案内してくれようとしている人が、目を見開いて俺のことを見ている。
「急がないんですか? 危ないんですよね?」
その人は俺から目を離して前を向き、常人では考えられないような速度で門の先にあった森を走り出す。
並走するように走り、木々などの景色が後ろへ吹き飛ぶ中、その人がありがとうと呟く。
「大切な後輩なんだ、頼む」
「尽力します」
1本道を走っていたら木々が茂って辺りが暗くなり、前方に信じられないモノが見えてくる。
(あれは境界!? なんでこんなところに……)
境界の周りを枠のように石が積まれており、その手前にうずくまっている人と倒れている人が見えた。
「るり!! 頼む!! 目を開けてくれ!!」
うずくまっている人のハンタースーツには緑色の線が入っており、地面に向かって必死に叫んでいる。
開きっぱなしの境界を頭から消し、倒れている人へ意識を集中させた。
(この人が死にそうなのか!? この中はやっぱり境界!?)
地面に倒れている人は、ハンバーガー屋さんの店員さんで、校門で俺と話をしてくれた先輩だった。
先輩の着ている青い線が入ったハンタースーツの右腕部分が千切れており、腕が取れてしまっている。
【ステータス】
【名 前】 天草瑠璃
【年 齢】 16
【神 格】 2/5
【体 力】 384/1300
【状 態】 身体損傷(大)
ステータスを見ると体力が急速に減っており、0になって死んでしまうのも時間の問題だった。
(これは応急処置でなんとかできる状態じゃないぞ……)
何とかなるのかと思いながらうずくまっている人の対面に膝を付き、片手で【応急処置】を使い始める。
それでも体力が徐々に減っていくので、アイテムボックスを開き、回復薬の数を確認した。
(魔力回復薬(中)が2つ……足りないな。ありったけのポイントを使おう)
ポイントショップで9個の魔力回復薬(中)を購入し、取り出して2人に渡す。
「俺はこれからスキルを使い続けます。合図をしたら、これを2本ずつ飲ませてください」
「え……お前……」
片手で回復薬を渡そうとしたら、正面で叫んでいた人が俺を見て固まる。
(本当は飲みたくないけど両手が使えなくなるし、意識を集中しないといけないから、画面が使えない)
時間の余裕がないので、無視してどんどん回復薬を渡した。
アイテムボックスから出し終わると、両手を天草さんへ向けて応急処置をかけ続ける。
(これで体力の減少を食い止めることができた! 後は養護教員が来るまで時間を稼ぐ!)
ステータス画面に表示されている体力の減少が止まったので、後は腕が千切れた彼女を治してくれる人が来るのを待つだけだ。
こんなに連続でスキルを使用したことがないため、自分の魔力残量が加速度的に減っている。
「ください!」
顔を上げて口を開き、回復薬を入れてもらうのを待つ。
なかなか入れてくれないため、2人に目を向けると呆然と俺へ顔を向けていた。
「俺の魔力が切れる前にさっさと飲ませろ!! この人が死ぬぞ!!」
怒鳴ると2人がハッとして、持っていた回復薬を俺の口に注ぎ込む。
味わうことなく2本分の回復薬を喉へ通して魔力が回復し、応急処置を続ける。
(これ以外に回復手段があれば……まだスキル選択の画面にも回復系のものが出てないから無理か……)
先輩の息が絶え絶えで意識が無く、回復薬を飲ませられるような状態ではないため、こうしてスキルで回復させるしか方法がない。
「なあ……これ1本100万ぐらいする回復薬だろ? なんでここまでしてくれるんだ?」
正面にいる人が俺の集中力を切らすようなことを聞いてきている。
回復薬の値段なんて気にしたこともないし、そもそも俺のミッションを達成するためにやっていることなので、自己満足でしかない。
「たまたま学校の散策をしていたら人が死にそうと聞いて、俺にできそうなことがあればやるでしょう!?」
偶然行きたい場所に大量に困っている人がいたので、これ幸いと来てみればこんなことになっているなんて想像できなかった。
ただ、この人を助ければミッションを達成できそうなので、全力で自分にできることをする。
8本目の回復薬を流し込まれた時、森の方から足音が聞こえてきた。
「天草さん、大丈夫!?」
白衣を着た女性が俺の横で膝を付き、後ろからハンタースーツを着た人たちと師匠が来ていた。
一刻も早く治さないと再び俺の魔力が尽きそうなので、すぐに現状の説明をする。
「俺は体力の減少を抑えているだけです。早く治してください!」
「今すぐ治すわ! あなたはそのまま続けていて!」
返事をする余裕がなく、応急処置を使い続けていたら横の女性がまばゆい緑色の光を放つ。
切断部へ緑色の光が注ぎ込まれており、みるみるうちに肩から千切れていた腕がくっついてしまった。
ご覧いただきありがとうございました。
明日も投稿する予定です。
もしよければ、感想、ブクマ、評価、待ってますので、よろしくお願いいたします。
特に広告の下にある評価ボタンを押していただけると、大変励みになります。