瘴気の謎⑦~異界ゲート管理室~
澄人が草根高校の異界ゲート管理室で豊留さんと話をしています。
「どうかしたの? 何か疑問がある?」
「えっと……どうして異界では雨が降ると探索ができなくなるんですか?」
俺は自分の考えを整理するために、豊留さんに質問をした。
すると、豊留さんは作業の手を休めてこちらを向いたまま、ゆっくりと話し出す。
「雨の時に行う探索で事故が多発したからよ」
「事故がそんなに起きていたんですか?」
「ええ、それで雨が降っていると危険だということになって……えーっと、三十年前から雨の日はお休みにしているわね」
豊留さんがパソコンとにらめっこをしながら具体的な年数を口にしていた。
事故はおそらくモンスターによるものだと考えられるが、今は調べるときではない。
それよりも雲の動きが気になる俺は、巨大スクリーンへ視線を戻す。
雲の発生源と思われる場所から流れてきているように見えた雲は、地図上で見ると円状に不自然な広がり方をしていた。
その中心部を見つめていたら、いつの間にか豊留さんが呆れた顔で横に立っている。
「ねえ、澄人くん。もう遅いから帰った方がいいんじゃない?」
ため息をつかれながら豊留さんに言われ、外を見ると日が落ちかけている。
校舎も薄暗くなり、気配も感じないことから、教員を含めてほとんどの人が帰っているようだ。
時計を見ても夜に差し掛かっている時間で、豊留さんも帰ろうとしているのだろう。
(資料以上のことがわかった。雲の発生源を調べに行こう……あ)
このまま長居して豊留さんに迷惑をかけるわけにもいかないため、素直にここを出ようとした。
「豊留さん、最後に質問をしてもいいですか? これを聞いたら帰ります」
「ふぅ……なに?」
俺は立ち止まって振り返り、豊留さんの顔を見る。
椅子に座って疲れ切った顔を向けられたため、俺は遠慮なく聞いてみた。
「異界の上空で見えない敵に襲われました。同じようなことって起きたことありますか?」
俺が雲に触れようとした時、見えない敵に襲われた。
その見えない敵に関する情報を集めるために豊留さんへ質問をした。
豊留さんは俺の問いかけを聞いて、少しだけ考えるような仕草を見せた後、困ったように笑う。
「あるわ。異界を上空から撮影しようとして紙気球を作ったとき、試しに何度か飛ばしたんだけど、すべて引き裂かれたみたいに落とされたわ」
「引き裂かれたみたいに?」
「ええ、写真はこれね」
豊留さんがパソコンの操作をして、スクリーンへ写真を投影させる。
そこには確かに大きな爪痕のようなもので、人よりも大きな紙気球が引き裂かれたような跡がある。
「この跡はなんだと思いますか?」
「不明よ。いくら空を観察していてもモンスターの姿なんて見えなかったわ」
「それなら……すみません。今日はありがとうございました」
「いいのよ。また来てね。バイバーイ」
このまま話を続けたら、また長い時間豊留さんを引き留めてしまいそうだった。
手を振る豊留さんに見送られながら観測室を出て、頭を下げてから扉を閉める。
(異界へ行こう。答えは向こうにあるはずだ)
いつまでもここにいるわけにはいかないため、大地の裂け目へ向かうためにワープを発動した。
異界に戻った俺は、地図を開いて先ほど確認した雲の発生地を確認する。
(やっぱり、【大地の裂け目】だ……雲はここから広がっている)
管理室の地図でも見たが、やはり発生地はこのライコ大陸にある、巨大な亀裂となっている谷だった。
その場所は、以前に俺が走ってギリギリ飛び越えたような深い谷だ。
ミス研を含め、草根高校の異界ゲートから突入した団体はその谷を境に向こう側へ行っていない。
谷は深く、降りれるところまで降りたが、下の様子は暗くて何も見えなかった。
(まさかここが雲……瘴気の発生場所だったとはね)
見えないほどに続く大地の裂け目を眺めてから、空を見上げる。
次々と雲が生まれ、裂け目から離れるように流れている。
よく観察をしていればこれが異様な光景なのは一目瞭然だった。
(異界の空は普通じゃないことが当たり前だったからなにも気にしていなかったな)
俺が異界で今まで目にしてきたものは、どれも常識の範疇を超えたものばかりだった。
それで思考が麻痺してしまい、今回のように指摘されるまで調べようともしなかったのだ。
(ダメだな。異常なことには必ず理由がある。反省しよう)
大地の裂け目を見下ろしながら自分の甘さを痛感する。
しかし、反省するのはここまでにし、今は谷と瘴気の謎を解明するのが先だ。
「雷の翼で降下するか……よし」
俺は一息をついてから、雷の翼を使ってゆっくりと下降していく。
そして、底の暗黒な世界が広がる黒い景色を見て、眉間にシワを寄せてしまう。
「暗い? こんなに早く暗くなったか?」
谷を飛び越えたのがだいぶ前のことなので記憶が曖昧だが、こんなに早く暗くなった覚えはない。
もしかすると、谷の底で何か異変が起きたのかと思い、警戒しながら先に進むことにした。
「……ん?」
辺りへ雷を展開しながらゆっくり下りていくと、急に空気が変わった気がした。
肌にまとわりつくような生暖かい風が吹き始める。
その不気味な雰囲気に、翼を止めて周囲の様子をうかがう。
(ここは……本当に俺が前に来た所と同じ場所なのか?)
風が俺の周囲にまとわりつくたびに嫌な予感が増す。
俺は反射的に剣を構え、いつでも攻撃できるように感覚を研ぎ澄ませる。
(何かいる……見えないし、気配を捉えられないけど、確実に何かがいる……)
周りを注視しても、闇が広がっているだけで何も見えない。
奥に潜むものが動き出すのを待っているのだが、一向に出てくる気配がない。
(俺の思い過ごしか?)
数十分くらい経った頃、甘い考えが脳裏をよぎり始める。
もしかすると、このまま何も起こらないのではないかと思った矢先、背後からわずかに血の臭いが漂ってきた。
(なんだ!?)
すぐに振り返ると、そこには二メートルはあるであろう大きな口がこちらを向いていた。
薄暗い中で白い歯だけが浮かび上がっており、鋭い牙が生えている。
その口は俺を噛み砕くために閉じようとしていたため、横っ跳びで回避行動を取った。
「ちっ!!」
ガチンという音とともに、一瞬前まで俺のいた場所に大きな口から唾液が流れ落ちているのが見える。
ここで逃げられたら懸念材料として残ってしまうため、剣を振り上げて大きな口を切り裂く。
俺の行動に驚いたのか、大きな口が徐々に透明になっていき、その姿が消えようとしていた。
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