白間輝正の戸惑い~場違いな自分~
白間輝正視点での会議の様子になります。
お楽しみいただければ幸いです。
「この資料に書かれている通り、譲っていただける日数に応じてハンター協会からミステリー研究部へ協力金をお渡しします」
理事長の横に座る初老の男性がスクリーンに映し出された資料の説明をしてくれていた。
僕はその説明を理解しようと頑張っているものの、混乱して何1つ内容が理解できない。
(澄人くんは余裕そうだな……こういうことに慣れているんだろうか?)
涼しい顔をしながら資料へなにかを書き込んでいる澄人くんを凝視してしまう。
僕と年齢が同じはずなのにものすごい【差】を感じてしまっている。
(こういうこともそうだけど、異界や境界で異常なほどの強さを持っている……なんでこの人が去年まで迫害されていたんだろう?)
会議の内容をよそに草凪澄人という人物のことが頭から離れなくなる。
(雷を自由自在に操り、ここに所属している部員が束になってもかなわない存在で……父親が一目置いている人……)
東京を追い出されてから一度も会話を交わしたことがなかった父親から、ミステリー研究部に入部できた当日に電話がかかってきた。
(草凪澄人から目を離すな……って言われても……)
今の実力では異界の中にいる澄人くんについていくことさえできていない。
それに、あんな父親から言われたことを素直に聞けるほど僕は大人ではなかった。
(そのうち満足に動けなくなるんだ……自分の好きなように過ごしたい……)
自分の体質のことを思い出し、左腕に着けてある細いシルバーのブレスレットへ目を配る。
(まだ光っていないから大丈夫か)
このブレスレットは僕の体力が半分以下になった時に赤い光を放って教えてくれる。
まだ平気そうなので、説明をしてくれている方へ視線を戻して話を聞く。
ようやく話の内容が分かり始めた時、目の前に瓶を置かれた。
「白間くん、そろそろ体力が危ないんじゃないの?」
「え? そんなことは……」
横に座る澄人くんが僕の方を見ながら心配そうに回復薬を勧めてくる。
体力の確認のために胸の前まで腕を上げてブレスレットをよく見る。
「なにも変化してな……えっ!?」
澄人くんと話をしていたらブレスレットが徐々に赤く光り始めてしまい、僕は驚きのあまり声を出してしまった。
部室にいる人たちの視線を集めてしまい、動揺して何も言うことができなくなってしまった。
「すみません、白間くんは【境界適応症】なので、回復薬を飲まさせていただいてもいいですか?」
「ええ、それは構いませんよ」
僕の代わりに、澄人くんがスクリーンの前にいる初老の男性へ事情を説明してくれた。
こちらを見ていた人たちは納得をしたように僕から視線を離す。
境界適応症。
体が境界へ対抗するため、常に体力が消費してしまう病。
徐々に消費する体力が増加し、やがて点滴のように回復薬を体へ流し続けなければならないような体になってしまう。
(この病のせいで皇立高校へ進学ができなかった……)
父親が皇立学校の教員で、兄弟は全員そこへ通っている。
落とされた僕は半ば追い出されるように草根高校へ入学した。
澄人くんから渡された回復薬を口に含みつつ、自分の体質への恨みを募らせる。
(一生これを飲み続ける人生……なにか変えられると思ってミス研に入ったんだけど……)
しかし、入部してから1ヵ月も経たないうちに、異界への突入回数が減らされようとしている。
日数に応じた協力金までくれるというので、日本のどこかにあるゲートが使えなくなってよほど困っているのだろう。
「こちらからの説明は以上になります。なにかご質問はありますか?」
「よろしいですか?」
初老の男性の説明が終わり、部長が手を挙げて指名されるのを待っていた。
持っていた資料を机に置き、その様子をぼーっと見つめる。
「どうぞ」
「私たちは毎日ゲート周辺の安全確保を行なっております。活動をしない日はその役目も引き受けていただけるんでしょうか?」
「もちろんです。その日に突入する方々が行う予定です」
質問はそれ以降出ないため、おそらくこのまま部活で突入する日数が減ることになるだろう。
これからというときに出鼻をくじかれて落胆していたら、横に座る澄人くんが静かに手を挙げた。
「ここにいるハンター協会の役員の方々へ、1点だけ確認したいことがあるのですがよろしいですか?」
澄人くんはそう言い、理事長たちの反応を待っていた。
説明をしてくれていた初老の男性が神妙な面持ちで理事長へ近づく。
「え、ええ……会長、構いませんよね?」
「ああ……」
ハンター協会の会長として座っている理事長がうなずくと、澄人くんは急に立ち上がって前に向かう。
澄人くんはスクリーンの横で画面を映し出しているパソコンへ自分のスマホを接続した。
「こちらをご覧ください」
スマホを操作しながら1枚の写真がスクリーンに投影された。
「これって……」
映し出された写真を見て、この場にいる澄人くん以外の人間が目を見開く。
その写真には異界の風景を撮ったもので、中心は山が割れたように地面が崩れている。
何を見せられているのかわからないので黙っていたら、澄人くんがコホンと咳払いをした。
「私がメーヌ……大地の精霊に頼んでこの中を調べた結果、埋まっているゲートが存在していることがわかりました」
「……なんだと?」
理事長は椅子を蹴飛ばす勢いで立ち上がり、身を乗り出して澄人くんを睨むように見つめる。
その横に座る平義先生も眉をひそめて澄人くんから目を離さない。
「特に頼まれてもいないのでなにもしていないですが、条件をのんでいただけるのなら修復いたします」
「なにをしてほしいんだ?」
理事長は澄人くんに対して威圧するように低い声を向けていた。
部長や副部長は澄人くんが何を要求するのか固唾をのんで見守っており、僕も極度の緊張で回復薬を飲み干してしまった。
「異界ゲートの情報開示とA級ゲートの突入権。そして…………」
平然とそう言い放つ澄人くんはもったいぶるように間を空け、机を挟んで理事長と対峙する。
「修復作業費として、今後50年ほど、この異界から出る収集品から生み出される利益の1割を私へ譲渡してもらいたいと思います」
理事長は椅子に座り直して、ばかばかしいと言わんばかりに首を左右に振る。
「今の要求が全部通ると思うのか?」
そんな態度をする理事長に対し、澄人くんは笑顔を向けた。
「通らなければやらないだけですし、ゲートの位置情報等の開示は一切行いません」
映し出されている崩れた山の中にゲートがあるということを見たのは澄人くんだけで、本当にあるのか確かめるすべもない。
また、異界で他のゲートを発見したということを聞いたことがなかった。
(ただ、本当にここにゲートが埋まっているのなら……今回の話が根底から覆りそうだ)
呆れるように澄人くんを見ていた理事長の目が変わり、腕を組んでうーんと考え込んでしまっている。
「……返事は後日行う……それでも構わないか?」
「もちろんです。ご検討よろしくお願いいたします」
ミステリー研究部の異界突入権についても後日話し合いを行うこととなり、会議が終了した。
衝撃を受け続けて精神的疲労を感じながら寮の部屋へ戻ると、更なる驚愕が僕の全身を駆け抜けた。
【草凪澄人が異界で塞がっているゲートを見つけたというのは本当か?】
父親があの会議が終わってから30分も経たないうちにこの情報を知り、僕へ連絡をしてきた。
どのように返信しようか迷っていたら、続けざまにメッセージを受信する。
【お前の方からも草凪澄人へ条件を譲歩するように説得してほしい】
戸惑うようにメッセージを読んでいたら、僕の脳裏にある疑問が浮かんでくる。
考えをまとめるため、いつもはすぐに返事をしていたメッセージの送信作業を中断し、持っていた荷物を置く。
(どうしてあいつは埋まっているゲートに執着しているんだ? まるで……)
考えがまとまるとハッと頭が冴えわたり、安易に引き受けてはいけない件ということが分かった。
(……まるでゲートが使えない当事者のような必死さをあいつに感じている)
僕はこの情報を誰に伝えるのが一番自分のためになるのかということを考え始めた。
ご覧いただきありがとうございました。
これからもよろしくお願いします。
次の投稿は5月13日に行う予定です。
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