境界への客⑪~境界突入禁止~
境界へ入れなくなりそうです。
お楽しみいただければ幸いです。
「先生、境界を放置すれば境界地震が起こるんですよね? それはどうするんですか?」
「キング級やクイーン級を中心としたチームを作るために会長が動いている。当面はそれで対応することになるだろう……」
俺にも召集がかかっているという先生の横顔を見ながら、境界へ入る方法を探すことを決めた。
何日間も境界へ入れないと獲得できるポイントが減ってしまうので、強くなるのが遅くなってしまう。
そのことに対して不安を覚えてしまったため、それ以降何を話しかけられても上の空で、まともに会話をした記憶がない。
「じゃあな澄人……これから頑張れよ……」
「ありがとうございます……」
ドアを開けられるまで放心してしまい、降りた時にようやく家に着いたということがわかった。
先生の車が見えなくなるまで見送り、今はなんにもできないと気持ちを割り切る。
(俺が1人でどうこうできる問題じゃないな)
家へ入る前にふとアイテムボックスの中を見たら、襲撃者から回収したアダマンタイトの装備がそのまま入っていることに気付く。
(あれ? これどこへ返せばいいんだ?)
あの影渡りと呼ばれていた人以外、この武器について誰にも聞かれなかったので存在を忘れかけていた。
明日にでも師匠か先生へ渡すと決めて、アイテムボックスの表示を消した。
「ただいまー」
家に入って靴を脱いでいたら、俺を呼ぶ声と廊下を走る音が聞こえてきた。
あまりの勢いに靴ひもを解く手が止まり、廊下へ顔を向けていたら心配をしていた3人に盛大に出迎えられた。
夏さんが俺から連絡を受けてハンター協会へ連絡をしたものの、事件なので清澄ギルドは動くなと言われていたらしい。
それでも聖奈やお姉ちゃんが向かおうとしたところ、師匠から平義先生が向かうと聞いたため家で待機をしていたようだ。
今日のことに関連して、お姉ちゃんがこれから会議を行うと言うのでリビングへ集まる。
最初に俺が自分の身に起こったことを改めて説明すると、聞き終わったお姉ちゃんが腕を組んで顔をしかめた。
「事件が……いえ、明日から8月までギルドの活動を休止するよう協会へ申請するわ」
活動の自粛ではなく、休止を申請するというお姉ちゃんの決断に唖然としてしまった。
お姉ちゃんは俺たち1人1人と目を合わせてから息を吐く。
「聖奈と澄人は再来週に期末試験。それに、私と夏も月末に大学の試験と資格取得の講習があるから、これを機にスパッと活動を止めて、そっちに専念しましょう」
7月の中旬に期末テストがあり、聖奈はなんとしてでも良い点数を取らなければ中間の挽回ができない。
お姉ちゃんや夏さんにも大事な試験が7月末にあるというので、境界に入っているときに襲われるリスクを考えれば、ここでハンターとしての活動をしないというのも大切だと思った。
(今日はまだ弱い人だったけど、キング級の人に襲われて試験を受けられなくなったら、それこそ目も当てられない)
お姉ちゃんの決断を聞いて否定する理由がない。
ただ、ギルドの休止申請をすると所属しているハンターが活動をできなくなるので、境界への突入申請が行なえなくなる。
(8月までライフミッションしか行えないのか……あ、異界ミッションが期末テスト後に解禁されるな)
異界ミッションをきっぱりと諦め、ライフミッションのポイントを増やすために神格を上げるのも有りかと思えてきた。
収集物を売却したおかげでもう少しで20万ポイントが貯まる。
【貢献P】 189000
しばらく勉強以外の時間をライフミッションとスキルを使うことにした。
すると、聖奈が俺の肩をつつき、眉を落としてこちらを見ていた。
「お兄ちゃん、瑛に怪我はなかったんだよね?」
「無事だけど、ちょっと怖い思いをさせちゃったから明日謝るつもりだよ」
聖奈と楠さんについて話をしてから、緊急会議が解散となったので部屋へ戻る。
今日の出来事を忘れないようにハンター用のノートへペンを走らせる。
【6月28日】
楠さんを境界に見学者として連れていった
境界探索中に襲撃があり、キング級のハンターが関与している
ハンター協会は襲撃に備えるため、クイーン級以上のハンターを中心として、境界を攻略するチームを作ろうとしている
ここまで書いた時、襲撃する相手に境界の位置などがわからないようにするだけで解決すると思ったが、できないことに気付き、それと同時にハンター協会がやろうとしていることもなんとなくわかった。
(もし俺の考えた通りのことをするなら、師匠がバランス配分を少し間違えるだけで破綻しそうだな)
基本的に発見された境界は観測センターで開示されて、競売することでハンターが突入に向かう。
俺の予想は、ハンター協会が作るチームへ直接境界の情報を渡して、場所がわからないようにした状態で攻略を行うのではないかというものだ。
しかし、そうなった場合、危険度により収集物の価値が変わってくるため、不公平感を生みやすくなる。
それに、今回チームに召集されなかったハンターは境界の情報さえ入らないので、突入が一切できなくなってしまう。
(一番は犯人が捕まって今まで通りのことができるようになることだけど、裸眼だと姿が見えない相手か……)
俺が考えても仕方のないことだと思い、ペンを机に置いて、対応していると思われる師匠を心の中で応援する。
日課である勉強を行い、明日の準備を行なっている時、スマホが震え始めた。
(振動が長いから電話かな? こんな時間に誰だ?)
もう22時を過ぎていたため、寝る準備をしようとしたら電話がかかってきた。
何度もかかってくるため緊急の用件だと思い、自分のルールを破りつつ画面を見ると、天草先輩からかかってきている。
「こんばんは、澄人くん。夜遅くごめん、今大丈夫かな?」
「大丈夫ですよ。どうかしましたか?」
天草先輩の声は妙に切羽詰っており、焦るように俺へ話しかけてきていた。
あまり慌てない天草先輩のその声を聞き、俺は身構えて何を言われるのか待つ。
「草凪くん、ハンターが境界内で襲撃される事件を知っているかな?」
「一応……俺も今日襲われました」
「その件に……草凪ギルドが関わっているらしいんだ」
「どういうことですか?」
草凪ギルドは境界周辺を襲撃したとして、半年の活動停止が言い渡されている。
それが解除されたと思ったら、今度は境界内を襲うようになったのかと脳裏に思い浮かべてしまった。
(その可能性は十分あるな……)
俺は後で他の人にも聞かせるためにスマホの録音ボタンをタップして天草先輩の言葉を待った。
ご覧いただきありがとうございました。
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