草凪澄人の影響力⑥~入部試験~
入部試験が受けられなくなりました。
お楽しみいただければ幸いです。
「俺も入部試験を受けたいんですけど……」
どうしても異界へ入りたいため、その口実を作ろうとしたが、先輩は首を縦に振ってくれない。
「4人の試験と言っても、異界できちんと行動ができるのか確かめているだけで、ほとんど合格しているようなものだよ?」
「そうですか……」
今は異界に入るのが難しそうなので、差し出された入部届を渋々受け取る。
顧問の先生の名前が記入されていなかったため、誰へ提出すればいいのかわからない。
それを質問しようとしたところ、天草先輩が俺の手を引いて門へ向かう。
「さあ、紙を提出しに行こう」
「そっちは門ですけど……」
俺は手を引かれるままに歩き出し、きりっと整っている顔の天草先輩はなんにも問題がないと軽く微笑む。
「大丈夫、顧問の先生が監視所で待ってくれているんだ」
「そうなんですね……」
歩き出したら離してくれると思っていた手は、門の監視所に入っても繋がれたままだった。
門の側面にある監視所に入ると、長い髪を三つ編みにしている豊留さんと平義先生が無言でモニターを見つめている。
「先生、澄人くんを連れてきました!」
「ん、ああ、遅かったな。ここへ」
腕を組んでいた先生は近くのテーブルを示して、俺へ座るように呼びかけてきた。
言われるがままに椅子へ座ろうとする直前にようやく天草先輩が手を放してくれた。
「先生が顧問だったんですか?」
「そうだ。まあ、元ハンターだからっていうのが大きいと思うがな」
紙に名前を書きながら話をしていたら豊留さんもこちらへ来て、目を細めて平義先生のことを見る。
「よく【元】ハンターなんて言えますね。折り紙付きの現役じゃないんですか?」
「40代にもなると境界に入るのが辛い、ここでのんびりしているのが一番だ」
2人の雰囲気が会ったばかりではなさそうだったので、書き上げた紙を平義先生へ渡しながら口を開く。
「2人は知り合いだったんですか?」
「ん? 昔の教え子ってだけだ」
先生は紙を受け取って、持っていた判子で押印をしながら答えてくれていた。
天草先輩も知らなかったのか、興味深そうにこちらへ近づいてきた。
「どうして去年までは中学校で働かれていたんですか?」
「大人には色々あるんだよ……受理をしたから、これで澄人もミス研の部員だ」
先生が入部届の確認を終えて、疲れた顔をして右肩を解すように回している。
それを見ながら、豊留さんが無言で栄養ドリンクを机に置く。
「これから、異界に潜っている生徒が帰ってくるので、頑張ってくださいね」
「普通の業務に加えて部活も見ろとか、ジジイに頼まれなかったら数日で辞めてやるのに」
栄養ドリンクの蓋をねじ切る平義先生が、冗談か本気かわからないつぶやきをしており、【ジジイ】というのが誰を指すのか聞くのを止めておいた。
入部手続きが終わり、何をすればいいのかわからずに座っていたら、豊留さんがため息をつく。
「草凪くん、入学してから3回も異界へ入っているけど、何をしているの?」
聞きたかったことなのか、豊留さんが俺の横に座り、手をテーブルへ乗せる。
お前あれから毎週入っていたのかと平義先生が呆れるような顔で言い、天草先輩は乾いた笑いをしていた。
「ユニークモンスターを探しているんです。何か知りませんか?」
これ以上1人で探していてもらちがあかないので、なんでもいいから情報をもらいたい。
雷による探査に引っかかるのは普通のモンスターばかりで、捜索範囲を広げても名前に【ユニーク】と付いているモンスターを見つけることができずにいる。
俺の質問を聞いた平義先生は腕を組んでゆっくりと首を左右に振った。
「異界でユニークモンスターが見つかったことはない。危険度A以上の境界にいるかどうかなんだぞ」
「そう言われても、雷帝龍って前例ができましたよ」
アイテムボックスから雷帝龍を倒してしまった時にドロップした、いまだに雷を放っている大きな黄色い鱗を取り出す。
それをテーブルへ置くと、何も知らない豊留さんと天草先輩が鱗からとっさに距離を取る。
「いきなりそんなものを出すな。それと同じレベルの敵なんてそうそういないんだ」
平義先生と異界へ入った時に、この鱗とユニークモンスターを探すことを伝えていたので、驚かずに話をしてくれていた。
「平義先生、画面を!!」
そんな時、監視所に付いているモニターを見た豊留さんが表情を険しくして、声を荒らげた。
3年生である緑のラインの入ったハンタースーツを着た男子生徒が、焦るように異界のゲートからこちらへ走ってきており、表情から異常を知らせに来ていると思われる。
「豊留、ここを頼む! 2人は付いてこい!」
何かを察した先生は俺と天草先輩に声をかけてから、監視所を飛び出す。
鱗を片付けてから平義先生を追いかけると、天草先輩が俺より先に監視所を出ていた。
(もう先生があんな遠くへ!?)
平義先生は俺よりも速く走り、ほとんど見えなくなってしまっている。
天草先輩と先生へ追いつくように必死に走っていたら、異界から出てきた3年生と合流した先生が話をしていた。
「大量のスライムとゴブリンが現れて、1年生の草凪さんが持ちこたえていますが、負傷者もいます! 俺は連絡をするために――」
息も絶え絶えに状況だけを伝えており、内容が支離滅裂だったが、異界にいる人が危険ということがわかった。
先生はぐったりと座っている3年生へ休めと言葉をかけてから、俺たちを見る。
「これから異界へ入る。澄人は、俺とモンスターの殲滅、天草は負傷者の治療をする。いいな?」
「「はい!」」
走ってきた3年生も怪我をしていたので、1度治療をかけてから3人で異界へ向かう。
ただ、ゴブリンとスライムが現れた程度でなぜこんなことになっているのか、少し不可解だった。
(いくら大量って言っても、聖奈なら一振りで倒せる。それに今は水守さんや草地くんもいるのに……)
一緒に異界へ入ったという上級生もいるはずなので、あの3年生があんなに慌てて戻ってきた理由がわからない。
俺は一抹の不安を覚えながら先生を追いかけた。
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