序章①~草凪澄人の追放~
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「水鏡家当主よ。澄人には……本当に才能がないのか?」
じいちゃんが悲しそうな目で俺を見下ろしてきた。
周りにいる大人たちからも同じような視線を感じる。
特に妹の聖奈は涙を流しながら顔を伏せて下を向いている。
周囲の大人たちがみんな困った表情を浮かべている中、じいちゃんの横に立つ俺を才能がないと判定した人が口を開く。
「澄人くんも5歳になったばかりです。これからは普通の子として育ててみてはーー」
「それはワシが決める」
(じいちゃん……これは……)
じいちゃんの年齢は50代後半だが、年相応ではない若々しい容姿をしている。
また、並外れて良い体格から発せられる威圧感のようなものが強く、怖いと感じてしまうこともあった。
そんな光景を目の当たりにしながら、何もできない自分の心を閉ざす。
(またこの夢か…………)
俺はこの場面を見たことがあり、これが自分が見ている夢であることも知っている。
しかし、何度体験しても悲しさが胸の奥からあふれてきてしまう。
5歳の自分が今のように何もできずに黙っていることしかできなかった記憶が残っているからだ。
「澄人よ、恨むならワシを恨め」
幼い日の俺に向かってそう言った祖父の声音はとても暗く聞こえた。
クシャクシャと頭を撫でてくるじいちゃんの大きな手は優しくもあり、力強さを感じさせる。
「よく聞け、澄人」
じいちゃんが膝を折り、俺と目線を合わせて耳元で囁く。
「お前をこの家……草凪家から追放しなくてはいけない……」
当時の俺はこの言葉の意味がわからなかったが、じいちゃんの悲しそうな表情を見て涙が流れていく。
ただ1つだけはっきりと覚えているのは、この日以来俺の身の回りから人が消えたということだけだった。
数十年も家に一人でいる環境に慣れ、自分の心が枯れているのが分かる。
(俺にはなんの才能もない……わかっているさ……じいちゃん……)
同じ始まり方をする夢から、自分に才能がないから捨てられてしまったことを自覚している。
夢の中でも涙が出そうになったとき、突如黒い空間に一筋の光が差し込んできた。
『お前には神より授かった特別な能力があるはずだ――』
"特別だ"その言葉だけが頭に何度も反響していく。
ただ、その声を聞いていると苦しくて呼吸をすることすら忘れてしまいそうになる。
"助けてくれ!! 誰か!!!!"
喉の奥まで出かかった叫びを抑え込むように歯を強く噛みしめたとき、頭の中に別の考えが流れ込んできた。
『自分を信じろ』
(誰??)
今まで一度も聞いたこともない男性の声が頭の中に鳴り響く。
聞いたことがない声で映像が遮断され、夢にもかかわらず黒い世界に放り出される。
(自分には何もないということを否定したかっただけか……)
謎の声というもの、自分の夢が作り出してしまったものなのかもしれない。
俺は両足を抱きかかえるように身を縮め、ひたすら夢が終わるのを待った――。
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