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プロローグ

最近、ファンタジーっぽい話を書きたい欲が高まった結果、昔の短編をセルフリメイクです。かなりエピソードを足してるので、短編を読んだ方もお楽しみください。



 王宮でしか見られない美しい虹色の光を灯す魔法燈を用いたシャンデリア。

 ご婦人方のつけてくる様々な香水の香りが混じらないように常に循環される風の魔法。

 楽団の繊細な音でさえ拾う音響魔法は音楽を耳に心地よい音量で楽しませてくれる。

 他にも目にとまらない部分でさえ細やかに使われた高等魔術は魔法大国クロスディアの名を知らしめるのに最適であるだろう。

 そして、会場がこのようにきらびやかであるからには、この場に集う人々は思い思いにできる限りの衣装を纏う。

 壮麗な王宮に、美しい衣装の貴族達。どの場所を切り取っても絵画に相応しいであろうこの舞踏会は招かれた外国の貴人達に感嘆のため息をつかせた。

 その美しい会場を、まるで主役であるかのように胸をはり、片腕に美しい令嬢を携えて歩む一人の男がいた。

 この舞踏会の中でも群を抜いて高価できらびやかな衣装を身に纏い、そしてその衣装に負けない程に美しい容姿をしている。黒い髪は黒曜石のように艶やかで、緑の目は翠玉でさえ劣るほどに美しく、顔の配置はまるで彫像のように整っている。

 彼は壁際で一人、飲み物を楽しんでいた令嬢の前で立ち止まる。

 その令嬢が彼に気付き、飲み物を使用人に預け、挨拶をしようとドレスをつまんだその時、まるで舞台の台詞のようによく響き、かつ衆目の注目を鷲づかみにする言葉が放たれた。


「公爵令嬢ジュリアーヌ・ロイズ、ヒルダを虐めたことにより、お前との婚約を破棄する!」


 その衆目を固まらせるような一言の直後、舞踏会の開始の鐘がなり、クロスディアの威信をかけた舞踏会は始まりを告げたのである。














 一瞬の静寂の後、波が広がるようにざわめきが広がっていく。

 そんな中、小さなため息を吐いた令嬢は先程し損ねた丁寧なカーテシーを行い、顔を上げる。

 周りの喧騒など意にも介さないように顔色も変えない無表情で口を開いた。


「ご挨拶が遅れてしまい申し訳ございません、フリード・クロスディア殿下。わたくしのエスコートを断りヒルダ様をお連れになるとは伺っておりましたが、まだ舞踏会が始まったばかりでございます。余興の冗談はお止めになり、どうぞ第二王子として、いえ、王太子としてのお役目を果たすべきかと進言させていただきます」


 まるで陽の明かりのような白に近い明るい金髪に、澄み渡りどこか冷たささえ感じさせる深い青の目。人形のように整った容姿はその無表情からか一層冷たげに感じられるが、誰が見ても美しい少女であった。

 そのあまりのも淡々とした言葉にフリードは苛立たしげに舌打ちをした。


「この後に及んで可愛げのない。まさしく春の妖精を妬み、嫌がらせをしたという”氷の姫”というあだ名にぴったりな冷たく根性のねじ曲がった女だなお前は。明るく朗らかなヒルダとは比べものにならぬよ」

「それは申し訳ございません。国母に相応しいのは常に冷静な態度と王宮の教師の方々に伺っていたもので。……そして、先程のヒルダ様を虐めたという言葉は全く記憶にございませんので、ご冗談だと思ったのですが、少々度が過ぎておりますよ」

「何が冗談だ。ヒルダ、私がついているから怖がらずに話してごらん」


 そう促されて、彼の腕からおずおずと前に出てきたのは、鮮やかな赤い髪と橙の目の美しい令嬢であったが、フリードに見えない角度でジュリアーヌに向けられた侮蔑のこもった笑顔は彼女の可憐な容姿を損ねていた。


「はい、フリード様。わ、わたくし、何度も伯爵令嬢と格下の分際で殿下に近づくなと脅され、ドレスを破かれたり、魔法で持ち物を壊されたりしましたわ。……そして、この前は身を退かなければ殺すと言われました。わたくしが何者かに襲われ、重傷を負いそうになったこと。そして、それには強い魔法が使われていたこと、皆様もご存じでしょう」


 涙ながらにそう訴えるヒルダをちらりと見て、ジュリアーヌは淡々と応えた。


「それで、どうしたと言うのでしょう?」


 そのあまりにも無関心な態度にヒルダの顔が真っ赤に染まり、殊勝な振りをかなぐり捨てて怒鳴る。


「な、何ですの? その態度は! ご自分の立場を分かっていらっしゃるのかしら! それにわたくしに対する謝罪もありませんの!」

「先程も話したように全く覚えがありませんし、わたくしの記憶が確かならこのようにお話するのはこれが初めてでございますね。わたくし、初めて話す際に身分が下の方から話しかけるのは不作法だと思っていたのですが、どうやら伯爵家では違うのですね。その上、証拠も無いのに謝罪の要求とは……わたくし、このような貴族令嬢がいらっしゃったなんて驚きましたわ。クロスディアの貴族は皆、きちんとした教育を施され、礼節のある方々ばかりだと思っておりましたのに」


 流れるような皮肉にヒルダの顔が更に真っ赤に染まる。

 隣にいるヒルダを庇うように胸に寄せ、フリードは憎々しげに口を開いた。


「ヒルダは貴様と違って見苦しい嘘などつかぬよ。それにヒルダを襲ったあの魔法、使いこなせる者はそういないと聞いている。何もかもヒルダより劣っているが、貴様の魔法の腕だけは確からしいからな。証拠のようなものだろう。素直に認め、自分の置かれている状況を自覚するのだな」

「まあ、フリード様にお褒めいただくとは初めてでございますね。……ですが、状況を自覚なさった方が良いのはそちらでは?」

「何だと!」


 そのフリードの言葉にわざとらしいため息をついて、ジュリアーヌは話し出した。


「分からないのであれば、わたくしが説明させていただきます。まず、わたくし達の婚約は陛下が定めたもの。わたくし達の一存でどうにかなるものなら、わたくしもっと早くに婚約破棄を主張させていただきましたわ」


 その言葉にフリードの顔が歪む。どうやら、自分が言い出すのではなく、ジュリアーヌから言われるのは屈辱であるらしい。


「次に、殿下達がおっしゃる証拠ですが。わたくしは確かに殿下がお褒めいただいたように、この国でも有数の使い手といっていただけております。ですが、それは若い世代で特に優れているからということです。公務に参加なさらない殿下はご存じないかもしれませんが、わたくしよりも年上の方々にはわたくしよりも腕の良い方は沢山いらっしゃいます。証拠というには弱すぎますわ。……それに、わたくし、それなりに腕はございますので、本気でヒルダ様を害したいと考えるなら、物を壊すなどの小さな事や、今回の件のように足のつく事はいたしません。わたくしが犯人なら、もっと自然にヒルダ様がここに立てないようにいたしますわよ」


 ジュリアーヌが言ったように彼女よりも腕が良い魔法使いがいるのは確かだろう。

 しかし、それでも彼女を嫌っているフリードが認めざるを得ない程に有能な使い手であるジュリアーヌのその言葉に、ヒルダは今度こそ本気で怯えた顔をした。


「そして、最後に。この舞踏会でこのような事をなされたことの重大さですわね。この広間はとても美しいでしょう? 今回の舞踏会は国外からもお客様がいらっしゃるので、この国の威信をかけて準備を行ってきたのです。それこそ、殿下の想像できない程の人員と、時間と、予算をかけて。それをこのようにぶち壊すなど、国の恥を晒したようなものですわね」

「なぁ! 貴様ぁ!」


 その言葉と共にフリードに注がれた侮蔑の視線に、フリードは激昂し、手を振りかぶる。

 高くて細いヒールの繊細な靴とたっぷりと布を使った美しいドレスは、急な動きなどには向いていない。

 魔法で防ごうにも、咄嗟に出せる魔法では威力が大きすぎてこの場では不向きだ。

 勉学は逃げ回り続けたが、剣はそれなりの腕があるフリードにぶたれれば貴族令嬢であるジュリアーヌなど張り倒されるだろう。

 それを分かっているジュリアーヌは目を閉じ、これから来る衝撃に構える。

 その時。


「そこまでだ」


 静かな声で場を支配した人物がフリードの手を掴み上げた。

 目を開いたジュリアーヌが小さな声で「ルーカス殿下…」と呟く。

 フリードと同じ色彩を持ち、彼よりも落ち着いた容貌の四、五歳ほど年上の青年。

 日陰王子と呼ばれていたこの国の第一王子その人だ。


「女性に手を上げるとは何事だ? お前は今、何をやっているのか分かっているのか」

「おや、兄上こそ、何をやっていらっしゃるので? 王太子である私に逆らい、この女の味方するのでしょうか」

「味方などではなく、彼女が正しいのはどこから見ても明らかだ。いい加減にしろ。お前が、今のこの国の王太子なんだぞ」


 その言葉を聞いたフリードは嘲るような顔をして、掴まれた手を振り払った。


「ええ、分かっておりますとも。兄上が相応しくないと追い立てられた地位に私が座っております。貴方の栄光などとっくに過去のものとして諦めたらどうでしょうか?」


 その言葉にルーカスは眉をひそめた。


「フリード、何を言っているんだ」

「貴方が王太子であった頃の婚約者。この女の義理の姉であるのですよね。貴方と婚約させる為に引き取られ、貴方が王太子でなくなったせいで役立たずになった哀れなご令嬢。確か、もうじき、辺境伯の後妻として嫁ぐのでしょう? この女に恩を売り、私を貶めても、もうどうにもならないのに哀れなことで」


 周りがその言葉にざわついた。

 ルーカスがかつての婚約者と仲睦まじかったのは有名であった。王太子を追い落とされると共に婚約を破棄された事も。そして、今でも彼女を想っていることさえ、周囲の悪意の無い興味によって面白おかしく噂されていた。

 あまりにも稚拙な話にジュリアーヌに哀れみを持って話を聞いていた周りが囁きあう。

 もしもこれがルーカス殿下の謀であったとしたら。

 真面目で優秀な方と聞いているが本当か?

 だって、あの・・フリード殿下に王太子を追い落とされるような王子であるのだ。

 その言葉は小さな声だが、重なればそれなりの音量だ。

 自分の耳に聞こえてきたその言葉に勝ち誇ったようなフリードが口を開こうとした時。


「わたくしのことをおっしゃいました?」


 凜とした声が響いた。

 焦げ茶の髪に琥珀の目。地味なドレスを纏った令嬢はジュリアーヌやヒルダにあるような華はない。

 だが、確かな知性と品を感じさせる淑やかな令嬢であった。


「…お姉様!」


 先程までの無表情が崩れ、ジュリアーヌが心配するような色を覗かせる。

 それに安心させるように微笑みかけ、フリード達の方に歩み寄ると、誰もが見とれざるを得ない美しいカーテシーを行った。


「以前、お会いしたのは随分前になりますね。お久しぶりでございます、フリード殿下。ロイズ家の長女、エリーゼでございます。お先に声をかける不作法をお詫び申し上げます」

「ああ、あなたが…」


 可哀想な哀れな令嬢。そんな評判を裏切るように淑やかながらも凜と立つ佇まいにどこか圧倒されたようにフリードが頷く。

 それに微笑みかけ、エリーゼは品良く一歩踏み出した。


「そして、これからのご無礼も先にお詫び申し上げます」


 パシーンッッッ


 盛大な平手打ちの音が響き渡った。

 突然の事に呆然とするフリードにエリーゼは淑やかに笑いかけながら、深く頭を下げる。

 近くにいたルーカスは少しだけ苦笑し、彼女の側に寄り添った。


「な、何を! あなた、フリード様に何をするのよ!」

「お黙りなさい!」


 清楚な雰囲気をかなぐり捨て、一喝する。


「ふざけたことを言わないでくださいませ。ルーカス殿下はそのような事をなさる方ではございません。わたくしの妹が犯人だという証拠は無いにも等しい中、それを指摘されただけであのような悪趣味な憶測をなさるのはお止めくださいませ。ルーカス殿下は真面目な方です。王太子でなくなった後も、真摯に国のために勤め続けていらっしゃいます。フリード殿下がなさるはずの仕事をルーカス殿下がなさっていること、貴方なら当然ご存じでしょう。そして、それを公表していなかったのは、今の王太子である貴方の立場を慮っていたのです。貴方が目を覚ましてくれる時を待ち望んで、支えていたのです。そんな方が、あのような方法で貴方をはめようとするはずがないでしょう」

「…っ、それを言う貴女の先程の行動はさぞかし兄上に相応しく礼儀にかなっているのでしょうね」


 その言葉に鮮やかに笑う。


「まあ、まさか。無礼であるのは承知の上でございます。ただ、わたくしの大事な妹を傷つけようとした人を誰であろうと許すはずがない。それだけのことです。処罰は甘んじてお受けしますわ。女性に手をだそうとした素敵な王太子様?」


 彼女の凜とした宣言に会場が呑まれる。

 フリードが悔しそうに、軽く俯き何事かを呟く。

 周りには聞き取れないほどのその言葉はエリーゼには届いていたようで、ほんの少し驚いたように表情を崩した。

 そんな彼女の肩にそっと手を置いて、静かな笑みを向けた後、ルーカスは先程の言葉の続きを言った。


「ヒルダ嬢、あなたが襲われた事件。調べさせてもらっていた。下手人は王都の犯罪組織だ。そして、それは自作自演だな?」

「な、なんてことをおっしゃるのです!」

「調べは付いている。貴女の家は裏で国の犯罪組織と繋がっていた。そして、それはフリードの母親である王妃様の実家もだ」

「お祖父様がそんなことをなさるはずが!」

「止めないか」


 信じられないと喚きだしたフリードの声を遮るように疲れた声が喧騒を止める。


「…陛下」

「…フリード、お前の王位継承権を取り上げ、王族を名乗る事を禁ずる」

「なぜです! こんな、こんな事を信じるのですか!?」

「信じるも信じないもない。事実だ。彼女の言葉に惑わされ、お前を王太子にした私が愚かだった。衛兵、連れていってくれ」


 未だに騒ぎ続けるフリードと呆然としたヒルダが連れていかれ、場が静かになる。

 再びざわめきだす前に国王陛下が厳かな声で宣言した。


「今日をもって、我が国の王太子は再び第一王子ルーカスとする。……ジュリアーヌ嬢」

「はい」


 呼ばれたジュリアーヌは王の目の前まで行き、礼をとった。


「迷惑をかけたな。何か望みはあるか? 可能な限り叶えよう」

「恐れながら、わたくしの姉とルーカス殿下の婚姻を認めていただきたく存じます」


 背後に立っていた二人が息を飲む。


「そなたが婚約するのではなくか? 次期王妃の座を手放すと?」

「はい。わたくしの姉はわたくし以上に王妃に相応しい素晴らしい方です。…それに、わたくし、密かに想っていた方がいるのです」


 先程の無表情が嘘のように、ふわりと笑う。

 その無表情ゆえ氷の姫と噂していた貴族達は、ジュリアーヌの儚げで美しい笑みに息を呑んだ。


「分かった。婚約を認めよう」


 周りから歓声があがる。まるで舞台でも見ているような劇的な出来事に興奮を隠せない。

 多くの人々が次期国王夫妻であるルーカスとエリーゼの周りを取り囲む。勿論、ジュリアーヌも同様だ。

 先程まで遠巻きにしていた事は忘れ去ったようである。

 そんな中、話しかけてくる周りに如実ない返答を返していたエリーゼは、ふと隣のルーカスを見つめ、こう言った。


「申し訳ございません。靴があっていなかったようで、足が痛くて、このままでは立っていられません。少し退出することをお許しいただけますか?」

「大丈夫か? すまない、察してやれなくて無理をさせた。何か出来る事は?」

「まあ。でしたら、わたくしをエスコートしていただけませんか? 支えが欲しいのです」

「しかし…」


 この状況で主役が二人抜けるのはあまり良くないだろう。

 それを見て呆れたように、ジュリアーヌが声をかけた。


「ルーカス殿下、お姉様の気持ちを察してあげてくださいませ。二人・・で、ということでしょう?」


 数年振りに婚約者に戻れた恋人同士。

 つもる話もあるだろうと、周りはそっと距離をとる。

 それに二人して綺麗な笑みを返し、次期国王夫妻は去っていった。

 その仲むつまじくお似合いな姿に、貴族達は皆顔を見合わせ微笑んだ。






 エリーゼは広間を出た後、衣装室に向かおうとするルーカスの手をそっと引いた。

 この忙しさからか使用人も配備されていない部屋を見つけると、その部屋に入る。


「エリーゼ、靴は良いのかい?」

「口実である事に気付いていらっしゃるでしょう。はき慣れた物ですので、今日もぴったりです。…それより、誤魔化さないでください」

「…何のことだ?」

「わたくし、ようやく気付けたのです。そういうことなのでしょう? だから、どうか、これ以上、隠さないで欲しいのです」


 そう言って、自分を見つめるエリーゼの瞳にゆらぐ感情にルーカスはふと息を吐く。


「…あやつは馬鹿だ。本当に、馬鹿だよ」


 言った瞬間、耐えきれなかったように涙が出るルーカスを、涙をこらえながらエリーゼが抱きしめる。


「…ええ。本当に、馬鹿な子達ですわ」














*****************






 舞踏会も終わった真夜中。ジュリアーヌは王城の庭を歩いていた。

 見事な隠匿魔法を用いたジュリアーヌの姿は王城の見回りの兵にも見つからない。

 王族を幽閉する高い塔の前で立ち止まり、見上げる。

 時の王族の怨念や恨みを吸っていると言われるほどに陰気な塔にため息を吐き、解錠の魔法を使うと塔に入った。

 コツリ、コツリと音を立て長い階段を登る。

 音を消す魔法は必要ない。どうせ、ここに見張りはいないだろうから。

 目的の場所に着くと息を吸う。

 解錠の魔法を使い、鍵が開く音と共に大きくドアを開けて叫んだ。


「頼まれたとーり、持ってきたわよ! この馬鹿王太子・・・・・フリード!」

「お、ありがとな、ジュリア! それから、今日から元だ!」


 にっと笑ったフリードがいそいそとこちらにやってきて、ジュリアーヌが持ってきた籠を覗き込む。

 中に入っていた高級ワインとつまみの数々を見て歓声を上げた。

 本当に、先程の馬鹿王子と同じ人とは思えないとジュリアーヌは内心でため息をついた。

 うきうきとグラスを取り出し、二人分のワインを注いだフリードはにっこり笑ってこちらにグラスを差し出す。

 それを受けとると、自分の分を掲げ、誇らしげにこう言った。


「それでは、無事に終わった婚約破棄に乾杯!」


 ため息を吐きながら、ジュリアーヌもそれにならう。


「…はいはい。あんたの演技力に乾杯!」


 チンッと軽い音を立て、グラスがぶつかり、第二王子と公爵令嬢の最後の夜が始まった。






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