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 ツルギ達がダンジョンの入口をくぐり抜け、静けさが訪れる森にやがて小さな光が舞い。

 その光は次第に増え、天より伸びる黄金の一本の導となって地に突き刺さるティルフィングの元に下る。

 

「お帰り」


 そう言って、舞い降りた彼女は地に突き立つティルフィングを抜き取った。

 

「ちゃんと、役目は果たせたかな……?」


 そう呟く彼女はティアラだ。

 ティルフィの元来の持ち主にして剣の女神。

 そして――純白と黄金の古き王女。

 

 テルディングを片手に、大きく口の開いたダンジョンの入口を見る彼女の体は舞い上がる黄金の粒子のように儚げに透けている。

 もう長くない。

 そう、思う彼女は同時に、目的をやり遂げたことに対する達成感が、帰って来たティルフィを見て感じ取る。

 剣は剣士の魂ということもあるが、こういうことだろうと感じながら思うのだ。

 まだ若い。小さく真っすぐな、自分の自分だけの力をつけるという、そんな意志は名残惜しくもティルフィングから感じられたのだから。

 世界に切り開く矛の種に。ようやく巡り合えたのだと。そう感じられる。

 

 元々自分は真っ当な女神ではない。その器でない自分がこうして大役を任されたのだから、それを真っ当することに意味があったのだと思える。

 

 だからこそ、名残惜しい。

 

「あ~あ。ワタシも一緒に行きたかったなぁ」


 などと。思ってしまう。

 一緒に前に進み。

 この物語の先を見て見たかったと。

 女神として剣士として、そう言った立場だからじゃない。ただ彼のこの先の話が気になって、その場所に自分も居たらと思うと名残惜しいのだ。

 

 だって――もう勇者なんて現れないこんな世界に、こうしてその種が現れたのだから。

 きっとこの先いくたもの苦難がある。

 

 堕ちた光の女神に神域のダンジョン。魔界と化した火の国。一番大変なのは女神の消えた一番濃いダンジョンがある闇の領域だろうか。

 いいや――。きっとその先……。

 その到達点すら、どんなにつらくても、それでも、彼らは乗り越えるだろう。

 

 そうでなければ困る。

 

 こうして自分が役目を補った訳だから。

 

 願うことなら一緒になんて。

 

「そういうワガガママは無理だよね……」


 名残惜しいが、もう消えるべきだと。

 元々、歪を生みかねない存在なのだからと。

 

 なにより、ティアラなどという女神は存在しない。

 神格は確かに女神であれ、無理やりに第三者に上げられた神格などと、敗残兵である自分が上げられていい訳がないのだ。

 そうだ――敗残兵だ。

 最後に残ったワタシ達は負けたのだ。

 

 あの愛し愛される慈愛はもうない。あれを守れなかったワタシたちは、こうして負け犬でありながらのうのうと世界に抗っているのだ。

 あの時、ワタシは約に立っただろうか?一番無力に等しかったワタシが?

 戦えなかったワタシが?

 ワタシはそうは思わない。

 だから、こんな大事な役回り他の者がするべきだとワタシは思っていた。他の者ももちろん、反対した。

 ワタシにさせるには危険すぎると。

 

 その危険が、ワタシを思ってなのかどうかはわからないけど。ワタシも仲間たちもそう思った。

 それでも、彼はあえてワタシを選んだ。

 

 理由なんて分からない。

 けど、だからなのだ。こうして真っ当でき、満たされた思いなど。

 彼の期待に応えることができて良かった。

 ワタシは役立たずなんかじゃなないと。

 

 そう思えば、思うほど先にの話に期待は膨らむ。

 敗残したワタシ達。

 けれど、先の未来。ソレに繋がる道はほんの小さな世界の亀裂に過ぎないけど、ここに見いだせたんだ。

 だから――

 

「やっぱり最後に勝つのはワタシ達だよ」


 誇らしく。胸を張って。待とうじゃないか。我らが集う時を。

 我らは旅路の果てで待っている。

 それまで、しばしのお別れ。

 おねえさんとまた会おう!

 

 そう思いを残し、消えゆく粒子を振り散らしながら、彼女は森の奥へと歩きながらその姿をくらませ世界へ解ける。

 きっといい思い描く未来が待っているんだと信じて。

 後にはダンジョンの口がぽっかりと開いた、森の吹き抜けにささやかな風に木々がなびいていた。

 

 

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