既に間に合ってない。
※三人称です。
一方、その頃。
響は学校へ向かって走っていた。
足は早い方ではないが、遅い方でもない
……しかし、お荷物を抱えている。
「待ってくださいぃ~吉井さん~」
情けない声を発し、それでも必死で響の後を走る……(ちなみにクソ遅い)
そう、鎧塚 りりあだ。
ぼろぼろになりながらも、律のピンチに自分を探しに走ってきてくれた手前、無下にもできない……
──などという気持ちは響にはない。
むしろ迷惑この上ないと思っている。
なのに何故彼女を置いていけないか……それはこの時から更に5分程前に遡る。
話を聞き、急いで学校に駆けつけようとした響を、りりあは彼の服の裾を掴んで制止した。
「ダメです! 私も一緒に向かいます!」
「はァ?! 冗談じゃ」
「待ってくれないなら律さんにバラしますよ?!」
冗談じゃない、勝手に向かえ、と響が言うより先に……なんと脅してきたのだった。
「『吉井さんは貴女が好』」
「黙れ!! ……ってめえ……何のつもりだ?!」
「私には事の成り行きを見届ける権利があります!!
こんな面白……んげふんっ……
兎に角、そういうことだから勝手に始められては困るのです!!」
臆することも失神することも、興奮のあまり鼻血を出すこともなく睨み返すりりあ。
ちょっと前までの、遠慮がちで控えめだった筈の『正当派清純ヒロイン系美少女』は、もう……いない。
「アンタ……なんかキャラ変わってねぇか……?」
響は唖然としつつもつっこむ。
そしてそんな自らの行為から、律を思い出した。
(律ならもっとうまくツッコんだところだな……)
チッと大きく舌打ちをする。
律を心配するもどかしさと、りりあに対する面倒臭さからである。
響はとりあえずは言うことを聞くことにした。
今は少しでも歩を進めたい。
……それが約5分前の二人。
響はいい加減イライラが限界に達していた。
「お前……いい加減にしろよ! 遅すぎだろ!!」
りりあは息も絶え絶え、といった感じで……それでも足だけは止めず、言った。
「返す言葉もっ……ございません……」
流石にしんどくなってきた、体力のない美術系りりあの目に、ある看板が止まった。
『自転車・パーツのいしばし』
「……そうだわ! 自転車を買えばいいのよ!」
「えっ?おい……」
りりあは既に自転車屋の方に走っている。
響は呆れた。
(だが……このままコイツのペースにつき合うよりはマシか)
「──先行ってるからな!」
そう言い残して響は走った。
自転車ならば鈍足のりりあでも追い付くだろう。
程なくしてりりあはやってきた。
「……吉井さぁぁん」
遠くから段々近づいてくるその声に、響はチラッと後ろをむき……
驚愕した。
「なんなんだよ?! そのチャリはっ!」
りりあが跨がっていたのはツーシーター……つまりハンドルとサドルが2つ付いている、観光地でたまに見かけるアレである。
「……アンタ頭に虫でもわいてんのか?!
観光地でもねぇのにこんなの公道で走らせてる馬鹿がどこにいる!!
大体どうやってこんなの手に入れたんだよ?!」
「ええ……私も店頭で見つけたときには自分の目を疑いました……」
りりあは遠い目をして語りだした。
*******りりあ視点*********
自転車屋さんに入った私の目は……これに釘付けになりました。
コレは……観光地によくある……!!
すると奥から歯が数本しかないお爺さんが……白いランニングに、なんとも名状し難い柄のハーフパンツ姿で店の奥からこちらに参りました。
どうやら御店主のようです。
彼は歯のない部分から息を漏らしながら、私にこう持ち掛けます。
「あぁ~しょれねぇ~、
たまたま潰れたレンタサイクルからいっぱい買い取ってねぇ~
……中古だから二万でいいよぉ~」
「!」
に……二万ですって?!
唾を飲むと喉の奥が、ゴクリ、とやたらと大きく鳴るのを感じました。
財布の中を覗くと、そこには丁度二万円……
……丁度二万円入っていたのですから!!
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──そして今に至るらしい。
「私も流石にこれはどうなのか、と躊躇致しました。
しかし……そう、私は飲まれたのです!
欲望という名の闇に……!!」
「馬鹿なのか?アンタ!」
まるで劇の台詞の様に言葉を修飾したところで、馬鹿な衝動買い以外の何物でもない──
響は無駄な時間を費やした事に気付き、踵を返す。
「あ~もう、好きにしろ!
言っとくけど俺は絶対乗らな……」
そう、足に力を込めたその時だった。
──ぐきっ
響にだけ聞こえる嫌な音。それと共に、彼はうずくまった。
捻ったのだ、足首を。
このタイミングで。
「……吉井さん……」
響の身に何が起こったのか……
驚いたのは一瞬。
すぐに状況を概ね理解したりりあは……
フッと笑みを浮かべ後部のハンドルをポン、と叩いた。
「後ろ……空いてますよ?(ドヤァ)」
絶好のサイクリング日和。
……だが、無論サイクリングではない。
(ち……ちきしょおおぉぉお!!)
晴天の空に、響の心の叫びがこだまするようだった。
「いやぁ……買ってみるもんですね!」
「クソが……覚えてろよ!」
りりあは、自転車を漕ぎながらこれ以上ない爽やかさで言う。
結果として助けられたにも関わらず、響はりりあに悪態をついた。




