勝てない相手はいるのです。
昭和風似非少女漫画テンプレ的な悪役踏襲・『吉井響 FC』会員No.一桁台女子の右手を制し……
逆光を背にそこに佇んでいたのは ──
黒服に黒メガネの男性だった。
『……誰だよ?!』
その場の全員がきっとそう思ったに違いない。
そして全員、ツッコミたくてもツッコめない……なにしろ生粋のツッコミ気質であるこの私ですらツッコめないのだから。
「まったく野蛮な方達ね……」
突如、集団が2つに割れる。
割れた海の間を歩くモーゼの如く、そこからゆっくりと現れたのは……
『美人過ぎる生徒会長』──
通称『白百合の君』こと白鳥 百合枝様だ。
白百合の君はSP数人を引き連れている。
明らかに学校外部の人間である。
生徒会長のくせに無秩序だ。
「──この方が……『白百合の君』……!!」
にわかに集団はざわついた。
なにしろ百合枝様は『美人過ぎる』だけでなく、カリスマ的な生徒会長なのだ。
「流石『立てば芍薬、座れば牡丹、歩く姿は百合枝様』と言われる程の美貌だわ……!!」
「なんて麗しい……! むしろ神々しい……!!」
「ああっ……なにかが浄化されていくっ……!」
「──!!」(土下座)
──後々考えると色々ツッコみたいところだが、この時は百合枝様のオーラに気圧されてできなかった。(※後日談)
百合枝様はとても美人ではあるが、響ちゃん程ではない。
しかし彼女には圧倒的女帝オーラ(意味不明)が備わっていると知る。
……この学校どうなってんだ。
百合枝様はざわつく皆に向けて、こう宣った。
「そう……私は生徒会長であり、『吉井響様をそっと愛でる会』会長、白鳥 百合枝!!」
「「「「えぇぇええぇぇ!?」」」」
とんだ伏兵がいたものだ。
百合枝様の『愛でる会』は別組織らしい……『吉井響FC』なる集団は、あっという間に黒服に連れられていった。
外部の人間大活躍だね!?
『FC』は事実上組織解体だろう。
いやまぁ……よくわかんないけど、多分。
「……大丈夫? 柳田さん……怖かったでしょう」
「わ……わたくしの名をご存知で?!」
「ウフフ、勿論よ♥ だって会長ですもの」
「左様で……光栄に御座りますぅ!!」
百合枝様は優しくそう言って、壁に寄りかかり、小さくなっていた私に手を差し出す。
私はそのオーラに圧倒され、謎の口調になった。
その背に見える大きな羽根。
そしてキラキラのエフェクトと後光。
女神や……女神降臨やぁ……!
……はっ!?
違う!!幻だ!!
ツッコミ気質の筈の私が最も嫌いとする似非関西弁でそう思い、ノリツッコミ的なガチツッコミを入れてしまうとは……!
百合枝様のオーラ、恐るべし……!!
しかし差し出された美しい手……
それは正に天から舞い降りた女神様のよう。
あまりの美しさに躊躇しつつも手をとろうとした………が、すぐに冷静になり、その手を止める。
……よく考えると、この後のが怖くない?!
『吉井響 FC』には目の敵にされていて今に至る訳だ。
『吉井響様を……(忘れた)』が自分に優しい訳がない。
「怯えているのね……無理もないわ」
察しのいい百合枝様は自らの組織を説明し出した。
『吉井響様をそっと愛でる会』とは、
『吉井響に対しての隠し撮り、またSNSなどによる画像流出やストーカー行為、芸能界等へのスカウト行為等を厳しく取り締まり、自然な彼を許される範囲で愛でよう』
……というものらしい。
「『FC』と混同されている方も多いけれど……
私達組織はその名の通り、響様をお守りし、その美しさを厳然たる秩序の下で愛でるものなのです!」
まるでオペラでも歌うかの様な大袈裟なフリをつけて高らかに彼女は言うが、もうツッコめない。
──私は初めてツッコめないクラスメイトの気持ちを知った。
エフェクトが見える……!
少女漫画的な花とキラキラの……!!
ふふっと百合枝様は笑って、再度手を差しのべる。
「……だから響様の大切な幼馴染みを傷付けるなんてこと、致しませんわ」
女神や……女神降臨やぁ……!!
私はもう一度そう思うと、今度は百合枝様の手をとった。
──ツッコミ気質が完全に敗北した、人生初めての瞬間だった。
この私が似非関西弁になるなんて……これは正に完全敗北……完膚なきまでに叩きのめされたと言っても過言ではない。
似非関西弁になるのはトーシロツッコミの証であり、恥ずべき行為である。特に関東の民は『関西=面白い』と思いすぎなのだ。
関西弁を使ったところで面白くないものは面白くないのだが、なんとなく面白いような気分になってしまうという関東人あるあるに乗っかっている。
……何の話?
百合枝様、恐るべし……(無理矢理戻した)
っていうか響ちゃんはどうしてんのかな……?
鞄が無事で良かった……




