幼馴染みは拗らせツンデレです。②
「吉井くん……私、特美(※)1年の鎧塚りりあと申します。あの……少しだけお時間をいただ」
「断る」
即!!……むしろ被せてる!!
せめて話は最後まで聞こうよ!!
全部言わせてすらもらえない。
吉井響、告白あるあるだ。
私の淡い期待は5分ともたず崩れ去った。
もう既に歩き出している響ちゃんを捕まえ、私には珍しく文句をつけてみた。
「もうっ響ちゃん! 話くらい聞いてあげなよ! あんないい人そうな美少女が……」
だがそれは地雷──
その言葉に反応した響ちゃんは、まるでスローモーションのようにゆっくりと振り返り、限り無く冷たい瞳で睨む。
さながらツンドラ地帯の如し。
ガッと私の髪を掴むと、超速で額の中央を逆の手の人差し指で連打した。
通常響ちゃんが私に対して振るう暴力行為は『梅干』のみ──
……これは相当怒っている。
「おーまーえーはーなーにーさーまーなーんーでーすーかぁぁ~?」
ちなみに伸ばし棒1本間につき、約7連打位の速さだ。
「大体にして美少女だからなんだという……お前は俺によく知らない女と『美少女だから付き合え』とでも言う気か? え?」
「言ってない! 言ってないよ?! そうだよねっ……! 響ちゃんは美人なんか鏡で見慣れて…… 」
伸ばし棒は無くなったが、連打はまだ続き──
最終的に『ベチッ』と音をたてて仕上げのデコピンがとんだ。
「はあぅっ!!」
『ペチッ』ではない、『ベチッ』だ。
痛いヤツだ。
「人をナルシストみたいに言うんじゃねぇ!!」
フォローが適当過ぎたのでお気に召さなかったらしい。
すっかり放置されている件の美少女、りりあさんが、ただオロオロとその様子を見ている様が視界に入る。
これは……本当にいい人そうだ!
彼女は恐る恐る、といった体で声を掛けてきた。
「…………あの……誤解を受けるような真似をして申し訳ないんですが……そういう内容ではなく──ですが、その」
どうやら愛の告白などではないらしい。
だがその内容を話すよりも先に、彼女はこう尋ねてきた。
「お二人は…………どんなご関係なのですか?」
「「…………」」
「──おさっ、もが……っ?!」
「お前は黙ってろ」
──『どんな関係なのか』。
そう聞かれて勿論『幼馴染みです』と答えようとしたのだが、何故か響ちゃんに口を塞がれ、それを制された。
「……」
「……」
なのに何故か響ちゃんは答えようとしない。
表情を確認しようとしたが、口を塞がれているため、顔が上げられなかった。
「……お前は黙ってろ」
もう一度そう言うと、響ちゃんは私の斜め前に一歩踏み出しながら手を離した。
斜め後ろに追いやられた私には、やはり彼の表情は見えない。
私は響ちゃんに対し、さながらム○ゴロウさんの様な、大きな愛情を持って接してきたつもりだ。
だがそもそもムツゴ○ウさんは獣を手懐けるが、私は響ちゃんから獣扱い……
たまに「酷いな!」と思うことも、まあないではない。
響ちゃんの愛情表現が半周回るのはわかっているが…………なにを言うつもりなんだろう。
正直気になる。
「こいつは……」
響ちゃんはりりあさんの方を向きながらも、こちらを気にしている様子。
「こいつは俺の……」
でもなかなか言わない。
「……俺のっ!!」
──そしてようやく振り絞るように言葉を発した。
「俺の犬だッ!!!」
はい!!
お約束────!!!!
「えっ……犬……ですか?」
りりあさんは動揺を隠せず、ちらっとこちらを見た。
どうやら彼女は『殿下と犬』と二人が揶揄されていることを知らないようだ。
予想していたので正直なところさしてショックでもなかったのだが、目が合ってしまった手前もある……
これは怒っていい案件ではないだろうか……
うん、『ポチ』呼びはともかく……
犬呼ばわりはないな!
怒ろう!
ただ、如何せん怒り慣れていない。
『ちょっと響ちゃん!それはヒドイでしょ!』……と、とりあえず気持ちを作りながら2歩程前へ出て、響ちゃんの顔を見た。
「……!」
──固まっている……
覗き込むと、油の足らない機械の様に不自然に、ゆっくりと顔を逸らされた。
多分コレ……超後悔してるヤツだ。
これは……どうしていいか困る……
「……
…………
…………────わん」
悩んだ結果……両手を握り、手の甲をりりあのさん方に向けてそう言うことにした。
犬 の 真 似 。(※苦し紛れ)
りりあさんは、ビックリしたのを通り越して、呆然としている。
スベった。
完全にスベった。
「…………おぉ~まぁ~えぇ~はぁ~!」
すぐ側で不穏な空気と共に、ゴゴゴゴ……と、あるはずのない擬音が聞こえた。(奇妙な冒険をする方の漫画風の文字で)
逆 ギ レ 。
「お前にはプライドってモンはないのか?!」
「えぇ~?!だって……響ちゃんが…………」
私はそこで再び口をつぐむ。
──『やっちまった』って表情をしてたから……とは……言えない。
「──くそっ!」
「ちょっ……響ちゃん?!」
そう吐き捨てると響ちゃんは走り去った。
── さながらヒロインの如し……
呆然とそれを眺める私。
手には響ちゃんの鞄。
隣にはりりあさん。
謎の状況を残し、走り去った響ちゃんが見えなくなっていく。
暫く二人は無言で立ち尽くしていたが、りりあさんが先に口を開いた。
「あ、あの……なんか……ごめんなさい……」
「えっイヤ……こちらこそ……」
あ、本当にいい人だこの人。
私はボンヤリとそう思った。
※特殊課、美術コースの略
この学園には普通科と特殊課があり、特殊課には音楽コース、美術コース。スポーツコースが存在する。
響と律は普通科。
校舎は別校舎である為、律は鎧塚りりあを知らなかったのである。(響と律は特殊課でも有名)




