幼馴染みは拗らせツンデレです。
「ねぇ、響ちゃん……鞄、重いんだけど~」
私はなるべく悲壮な調子で訴える。
勿論鞄を持ってほしいだけなので、実はそんなに辛くもない。
ぶっちゃけ鞄もそんなに重くはない。
私は知っている……響ちゃんは荷物を極力持たないようにしていることを。
──私に持たせる為に。
どんな優しさなのソレ!?
普通に持てばいいじゃないか!
「黙って歩け……ポチのくせに生意気だぞ?」
結局持ってくれないが、今日はご機嫌みたいだ。……冗談を言っている。
私だけが知っているのだが、
『ポチのくせに生意気だぞ』
……は、某猫型ロボットの相方のメガネに対し、ガキ大将が言うセリフの真似なのだ。彼なりの冗談らしい。
いつも(面白くない冗談だな……)と思いつつも響ちゃんの機嫌を量る為に黙っている。元来ツッコミ気質である私だが、響ちゃんのお陰で大分忍耐強くなった。
余談だが、響ちゃんは他に『お前の物は俺の物! 俺の物も俺の物!!』という台詞も、割と使う。
特に、奪うフリをして私の荷物を持つ場合などに。
…………だからさぁっ!
普通に『重そうだから持つ』って言えばいいじゃない!?
一事が万事その調子なので、私は密かに響ちゃんの事を
『けしてデレない風ツンデレ』
……と評している。
絶対にそれは言わないけど。
響ちゃんはプライドが無駄に高いのだ。
しかも色々拗らせている。
だからツッコミどころにとても気を使う。
響ちゃんのツンデレぶりや女子生徒の嫉妬や羨望などよりも、それがストレスと言っても過言ではない。
なので響ちゃんには是非、対等な感じのお友達を作ってもらいたい。
できればツッコミ気質の方希望。
──だが、それはどうにも難しい。
超絶美形で、気質は俺様(とは言っても基本他人と絡まないので、この表現は怪しいものだが)で、おまけに理事長の息子……
本人が人間嫌いなのに加え、近寄りがたい様だ。
この学校の下駄箱は蓋のついたタイプだが、今日も ラブレターでいっぱいなようで……響ちゃんがそれを開けると、手紙がバサバサと落ちる。
(可能性で言うなら女子だろうなぁ……)
なんだかんだ言っても女子は強い。
男子はただ遠巻きに見ているだけだが、女子はダメ元で告白したりする。
響ちゃんの下駄箱をチラリと見ながらそんな風に思っていたが……
──それらを完全無視して踏みつける響ちゃん。
「ひっ……響ちゃん! 『せめてゴミ箱に捨てて』っていつも言ってるでしょお?!」
慌てて拾い集める私の頭の上に、冷淡に言い放った彼の言葉が降ってくる。
「所詮俺の見た目や家柄にしか興味のない奴等だ……どう思われようと知ったことか」
「 ──………… 響ちゃん」
…………拗らせている。
安い台詞みたいなこと言い出した。
少女漫画のダークヒーロー的だ。
「……その見た目と家柄のおかげで色々許されてるんだよ?」
「……」
「──はっ!?」
手紙を拾い集めながらそうぼやいてしまい、気が付くと羽交い締めにされていた。
「なにか文句があるのかコラ!」
「あァァあぁ!! ごめんなさいィィ!!」
迂闊にもぼやきでバッサリと一刀両断してしまったようで、梅干の刑に処される始末。
『梅干』は普通に痛いのだが、これも周囲からは『スキンシップ』として羨ましがられる。
痛い思いをし、鞄持ちをさせられている上に、それをやっかまれるという構図……
正に踏んだり蹴ったり。
実際のところ、『吉井響 FC』(※当然非公認)なる組織の人達には、当然目の敵にされている。
──っていうかFCって!!
どういう活動してんの?!
響ちゃんのさっきの台詞以上に少女漫画設定だな!!
今の私の頭も痛いが、あの人等の頭は相当イタいと思う。
……あ、なんかキレイにまとまった。(自画自賛)
「……おい、甘いモン食いたいんじゃなかったのか? 鞄持ちの褒美だ……何が食いたい?」
「えっ! 本当?!」
響ちゃんは超絶美形なちょっと拗らせているだけの人で、基本的には普通だ……と思う。超絶美形が普通でないのは置いといて。
やり過ぎたかなと思えばこうしてフォローも入れてくる。
……やっぱり友達はいた方がいい。
いなくても平気な人はいるけど、響ちゃんはさみしんぼうじゃないかと思うから。
どちらかというと、私の方が一人でも平気なタイプな気がする。
──昇降口の大きなガラス扉を開け、外階段を降りたその時だった。
「あの……」
声の方を見て、思わず頬が赤く染まる。
長い絹のような黒髪に大きな瞳、白く華奢な体躯……
そこに佇んでいたのは、『正統派清純ヒロイン系美少女』という呪文の様な文字の羅列を、具現化したような女の子だった。
目が合うと美少女は……遠慮がちにペコリと会釈をしてから、響ちゃんの方に向き直る。──驚愕に身体が固まった。
挨拶された……だと……!?
睨まれたり威嚇される事は多々あるが、こういう場面で会釈をされるのは初めての体験。
なんていい人っぽいんだ……!!
この女性なら響ちゃんとお友達になれるかも……?!
私の胸は期待に高鳴った。