幼馴染みは超絶美形です。
※律視点です。
響ちゃんは鄙には稀なる美形。
彼が通るとにわかに周囲がざわめき出す。
「キャッ、響様だわ~♥」
「今日も麗しいわぁ~♥」
「柳田さん羨ましいぃ♥」
「私も響様のお鞄をお持ちしたぁい♥」
「ちょっと遅れて響様に罵倒されたぁい♥」
熱い視線や黄色い声、感嘆の息……それは勿論響ちゃんのみに注がれるもの。
……でも私にも、嫉妬の対象物として、響ちゃんとは違う意味での熱い視線が注がれる。
鞄は持たされるわ、嫉妬はされるわで、踏んだり蹴ったりだ!!
しかも最近では後半の台詞でもわかるように、ちょっとアレな方々の羨望を受けるようにもなっている。
全く嬉しくないぃぃぃ!!
っていうか罵倒されて嬉しいの?!結構な性癖だね!!?
罵倒云々はともかく、是非代わって鞄を持ってほしい。
実はそんなに重くないのだが、荷物が多くて良いことは何もない。
なんとか響ちゃんを上手いこと丸め込んで、彼女らに鞄を持たせられないだろうか、と考えていたものの……
実際に一度それを試してみたところ、女の子達の間で奪い合いになった挙げ句、響ちゃんのお高い革製の鞄がボロボロになったことがあった。
革製の鞄だよ?!ボロボロになる?!
女子の執念、恐ァァァッ!!
──ソレ以来、我慢して持つことにしている。
女子の執念は恐ろしいが、『吉井 響超絶美形伝説』は女子には留まらない。
話は5日ほど前に遡る。
クラスの男子が戯に私を『ポチ』と呼び、からかった。
あくまで戯れにだ。別に私にとっては大したことではない。
──しかしそれを見た響ちゃんは静かに激昂した。
いや、そもそもアナタのせいだからね?
話を戻すと、響ちゃんは自分が『ポチ』って呼ぶくせに……男子であろうと女子であろうと、私の事を『ポチ』呼ばわりする輩を許さない。
まず手始めに、私をからかった男子生徒と私の間に、持ち前の長い足で壁ドンをかまして威嚇。
「足技ぁぁぁぁ!?」
うっかり空気を読まずにツッコんでしまうほど、ビックリした。
『……何故お前がツッコむ!? 空気読めよ!!』……というツッコミへのツッコミが周囲から返ってきそうな状況なのに、何故か誰もツッコまない。
自分が二人いてほしい。
ツッコミ要員が足りていない。
私のツッコミをスルーし、響ちゃんは男子生徒に凄む。
「……誰に許可をとっている? コイツを『ポチ』と呼んで良いのは俺だけだ」
──バターン!
不思議な色の瞳に凄まれ……その美しさに、絡んでいた男子生徒は気絶。
「えええええ?! どういうことぉ?!
殺人ビームでも出したのぉぉぉ!!!」
後で解ったことだが、息をするのを忘れたらしい……
「不良に絡まれた時『一旦は詰め寄られるも、逆に壁ドンをして顔を近付けたら、相手がその美しさに倒れた』……という逸話はほんとうだったのか……!」
「なにその逸話!!?」
周囲の男子生徒の驚嘆にツッコんだのは私だけである。
何故か皆、驚きながらも納得している。
「納得するところじゃないと思う!!」
「……イチイチうるさい!」
迂闊にもまたツッコんでしまった私は、響ちゃんにこめかみをグリグリされるというお仕置きを食らった。
つーか誰かツッコんでよ!
なに?!『息をするのを忘れた』って!!
サラッと保健室に運ぶの、冷静すぎない?!
──そもそも私は『ポチ』と呼ばれる事にあまり抵抗がない。
それから陰で『パトラッシュ』って呼ばれるようになったときには流石に「『ポチ』がダメだから『パトラッシュ』って!」……と思ったけれど、よくよく考えてみるとおそらく
『私➡ポチ➡犬』
『響ちゃん➡暴君ネロ➡ネロ➡フランダースの犬➡パトラッシュ』
……という流れなのだろうと気付くと、むしろちょっと面白い。
ただし面白いと思ったあまり、ウッカリ響ちゃんに「なかなかいいセンスだと思わない? 誰がつけたんだろうね?」と言ってしまった為に、私は再びこめかみグリグリ(※通称『梅干』)の刑に処された。
「お前……少し黙ってろ! ちっ……俺がなんで怒ったと思ってやがる」
「…………」
じゃあ『ポチ』って呼ばなきゃいいじゃん……?
──だがそこはツッコまない。いや、ツッコめない。
『ポチ』はかつての響ちゃんの愛犬であり、人間不信の彼にとって、家族と私以外で唯一心を許せる存在だったのだ。
そして……ポチがいなくなったのは私のせい。
あの日から響ちゃんは私を『ポチ』と呼ぶようになった。
そんな超絶美形の響ちゃんだが、その幼馴染みである私は、地味な見た目通りに性格も地味である。
だからと言って、ツンデレ美形キャラの幼馴染みにありがちな『彼といると釣り合いがとれなくて引け目を感じる』とか『逆らえなくて辛い』……みたいな事は特にはないので、一緒にいるのは全く嫌ではない。
そう…………嫌ではないのだけれど……