05 一途二・恋、その人間性
さてと、僕としてはこれで雪女の事件は解決だと思った。
しかし、丸々さんでも予測できないことが起こってしまう事もある。
それにあの後の丸々さんは生気を与えた反動で1週間以上は寝込んだままで、雪女に看病される始末だったのだ。
雪女の変化に気づかなかったのかもしれない。
僕も気づけばよかった。
帰り道、雪女と会った時。
「熱い」
の言葉に。
4月と言っても太陽は暖かいが空気は寒い。
僕は暑がりだな、と言った。
熱いと暑い。
そこが味噌だったんだ。
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「指揮居るわね」
突然僕のクラスに一途二・恋が来た。
工業高校ではやはり工業系の実習があるため実習服に着替えなきゃいけない。
で、その実習の終わり、皆(男達)が制服に着替えている時のことだった。
「「「「「「きゃぁ〜〜〜」」」」」」
男達の悲鳴が上がった。
お前ら男だろうが!!
立場が逆だった。
「なによ、別に減るものじゃないでしょ」
とても男らしい発言。
「恋。駄目だよ。今は着替え中だよ!?」
一緒についてきたらしい女子生徒が恋を諌める。
前髪を切りそろえた女子生徒。恋の同級生だ。
笹久崎・佐々砂
噛みそうな名前の女子生徒は人見知りが激しく口数も少ない。
彼女が僕が恋と付き合うきっかけを作ってくれた人だ。
僕はすぐに着替えると彼女達のもとへと向かう。
「君は気遣いをしらないのかい?」
「気を使って、中には入っていないわ」
どこら辺に気を使ったのだろう?
「と、とりあえず屋上に行こう」
「えぇ、そうね。笹、同行ありがとう。ちょっと行って来るわ」
「あれ?一緒に来ないの?」
「私なりの気遣いよ」
恋はそそくさと歩いていった。
「気遣いね・・・。笹ちゃん、ごめんね。恋と行動すると大変でしょ」
「いいえ、恋と一緒に居るとたのしいもん。私は大丈夫。早く行ってあげなよ」
「あぁ、恋は待ってくれないからね」
じゃ、とお別れを言って僕は急いで恋を追った。
この獅子工で女子生徒の数はとても少ない。
だが、一つだけ女子ばかりのクラスがある。
デザイン科だ。
一途二・恋も笹久崎・佐々砂もそこに所属している。
笹ちゃんは結構絵画の才能があると有名で、ここに居る理由もわかるが、何故恋が所属しているかは不明。
やはり絵は上手いのだろうか?
聞いてみる。
「上手じゃないわよ」
それが答えだった。
「超ド下手」
付け加えた。
「私の絵を見た先生はこう言ったわ。『・・・・・・・まるで、ピカソの到来ね』」
「自虐ネタだな、おい」
「自虐・・・、あぁ、ぞくそくする!!」
「・・・・・・・」
Mかよ。
学校の屋上、僕と恋の2人しか居ない。
「ねぇ、いいシチュエーションだと思わない?」
「え?まぁ、ここからの景色は結構きれいだからね」
と、いきなり恋が僕の尻を撫で始めた。
「うひゃ、ちょ何やってんだよ!?」
「こういうシチュエーションの事よ」
うふふ、と僕の後ろで笑う変態女。
こいつSだよな。
SでもありMでもある。
今度から紹介の文には『SMの一途二・恋』を付け加えなきゃいけない。
「ところで話があるんだろ?」
「えぇ、そうよ」
「なにさ?」
「雪女のことよ。私が指揮から聞いたことから思うのだけど、貴方、『えんがちょ』したの?」
「あ〜そういや忘れてたな。なんだかんだでうやむやになってしまってた。雪女は僕に魅き寄せられたままなのか」
「そうよ、今は契約も縁切りもしてないから不安定な立場なはずよ。罰ほど詳しいわけじゃないけど、彼女の概念が定着してないわ。どっちつかずじゃ、何が起こるかわかったものじゃない」
何が起きる、か。
「彼女が害を及ぼさなくても、彼女に害が及ぶ。――なんだ、恋。雪女の事、心配してくれてるんだ」
「それは違うわね。これは貴方のためよ。どうせ、不運の連鎖とかでとばっちりが指揮に来るわ。ほぼ確実に。だから私は忠告したの。私にとって指揮は大事な人よ」
「恋・・・」
ちょっとジーン、ときた。
「私は貴方に恋しちゃってるのよ。絶対的に私の愛情からは離れられない。私は狂千思」
狂千思の一途二・恋
一途に恋する狂戦士。
だから狂千思。
丸々さんがモジった言葉だが、当てはまりすぎてる。
「僕を殺そうとするまでの愛情ね〜。あれはマジで怖かった。丸々さんがいなきゃ死んでたし」
「罰はかなり強かったわ。あの魔道書、とても強力ね。全て一撃必殺っぽいし、ヒット率高いし。それに勘違いしないで、貴方を殺そうとしたのは、貴方が誰かの殺されそうになったからよ。誰かに殺されるくらいなら私が殺したほうがいいもの」
とても強い愛情なことで・・・。
「でも考えたら、あの時貴方を殺すんじゃなくて、殺そうとする相手を殺せばよかったのよね。私はうっかりさんだわ」
「どっちにしろヤベーよ、殺すな」
無表情で自分をうっかりさんと言う恋。
彼女はいつも冷静な態度だ。
多分、僕が誰かに殺されたら、その誰かを殺すんだろうな。
前だって、雪女が僕を殺していたら、恋は雪女を殺していた。
「ところでさ、恋。お願いがあるんだ」
「なに?」
「もうそろそろ僕を撫で回すの止めてくれない?」
彼女はあの後ずっと僕の内腿やら背筋やらを撫で回していた。
ぞくぞくするじゃないか!
「あら、まだ前の方を撫でてないのに・・・」
「撫でるな!!」
今、前を撫でられると危険です。
どう危険かというと・・・・、まぁ、そんな訳ですよ!
僕は自分から離れることにより、愛撫から逃れる。
恋は名残惜しそうに撫でていた手を見つめていた。
「あら、指揮者様は奴隷の好意を無駄にすると・・・」
「僕は君を奴隷だとは思ってないよ!!」
「本当に?」
「本当だ!!」
「本当に私にあれこれしてもらったり、させたりしたくないの〜〜」
「うぐっ・・・・、ない!」
「ほんと〜に〜?」
「スカートをきわどい所でひらひらさせるなぁぁぁぁぁぁぁ!!」
「本当、イジり害があるわ」
「くっ・・・隷従してるのに、なんでこいつは強気で居られるんだ」
「それが私だもの。文句あって?」
そりゃもう色々と。
「ごほん、では気を取り直して。――――じゃあ、今日でも丸々さんのところ行こうか。まだ回復してないみたいだし、お見舞いついでに」
「そうね、指揮。放課後お見舞いに行きますから、お土産として苛性ソーダを買って来なさい」
「拒否する」
殺す気マンマンだ。
しかも僕が買うから、捕まるの僕だし。
「本気よ」
「冗談って言えよ!」
何故、僕が気を取り直したとこで、取り直させる。
でもまぁ、僕と彼女は放課後、丸々さんのところへ向かうこととなった。
「指揮。次の授業に戻る前に前のテントを畳んだ方がいいわよ」
「――――――っ!?」
気づかれてた!?
「お前、マジでSだよな」
「さぁ?私としては自覚してるけど」
「なお悪い!」
しかし、と恋は続ける。
「私も授業に戻る前にショーツ替えなくちゃ・・・・湿っちゃった」
「・・・・・・・」
一途二・恋。
僕は一生彼女から離れられないだろう。
鼻血を抑えながら思った。




