03 丸々・罰は○○×
困るよ。指揮君は僕の友達なんだよ〜?それに今、線香代出せない金欠なんだ。やめてくれなぁい?」
そこには雪女の頭をがしりと掴んだ男が居た。
黒いロングコートで体を包み。
ぱんぱんに膨れた赤いリュックを担ぎ。
銀色のアタッシュケースを持つ長身の男。
クトゥルフ使い――丸々・罰
大学生
「はっ!?」
「いや〜、雪女だねん?髪も冷たい冷たい。・・・しっか〜し、カルコアの空気を感じて跳んできたらこんなことに・・・・。指揮君、君も飽きないね」
「僕はとっくに飽きてるよ。ところで丸々さん、いいところに来ました。・・・死ぬかと思った」
「君はいつも同じ事いってるねん。―――ところで、僕は君を助けるよ、いいかい?」
「大歓迎」
ならばよし、と丸々さんは頷くと、黒い小瓶を取り出し中身を飲み干す。
「元気ハツラツ!!蜂蜜酒!!」
雪女を掴んでいる手に力を込め、雪女が僕から手を離すのを確認すると、放り投げた。
「きゃんっ!」
可愛い悲鳴だった。
丸々さんは雪女に向かい、背負っている赤いリュックから本を取り出す。
「雪女には火だねん。と云う事でジャジャ〜ン!!ネクロノミコ〜ン!!―――ただし日本語版写本!」
・・・ネコ型ロボットを意識してる?
「フォーマルハウトより来たれ、クトゥグア!!」
本―――魔道書が自動的に開き、ページが飛びちる。
そのページは丸々さんの周りを旋回し、炎を召喚する。
そして丸々さんの手には光るプラズマ球。
「ほい」
それをソフトボールの投球のようにそっと雪女の前に放り投げた。
炸裂。
爆風が僕たちの方にも押し寄せるが、丸々さんが黒いコートの裾で僕を守ってくれた。
収まった頃には雪女の周りを火が包んでいたのだった。
だが、その火は丸々さんの背より高い。とりあえず上が見えない。
「丸々さん。やりすぎっしょ・・・」
「ありゃ〜〜、やっぱ秋じゃないしフォーマルハウト、こっから見えないからねん。力の抑制がうまくいかなかった」
てへっ、て頭を叩くな。僕の頭を!!
「で、雪女どうするの?殺しちゃうの?」
「殺さないよん。僕は殺生は苦手なんだ〜。それに僕は妖怪だって殺したことないよ。―――しっか〜しこの日本語版写本・・・やっぱ大量印刷されたやつだから、一回こっきりか・・・焼けちった」
黒コゲの紙片見ながらボヤく。
「ああああああああああああああああああああああああぁつ!熱い!熱い!体が溶けるぅぅぅぅ!!」
雪女の悲鳴。
火は収まらない。
このままでは雪女は死ぬだろう。
丸々さんが殺さないと言った限り、見捨てはしないだろうが。
「お願い!!・・・おねがい、助けて・・・・!!?・・・・たす・・・けて」
「丸々さん、早く!!なんか本当に溶けてる!!」
「あぁ、こりゃ急がなきゃ。別にこの火は普通の火になっちゃてるし、普通に消せばいいよ。指揮君。ABC消火器持ってない?―――え?ない?いや、まぁそうだろねん。だとすると僕が消すしかないねぇ。・・・僕、24時間で3回しか魔術使えないのにな〜」
と、そんな軽口を叩いていながら既に彼の手には一冊の本があった。
『水神クタアト』
「これ、僕が頑張って写本したんだ。日本語にさ。最近はインターネットも便利だね。外国語も日本語に翻訳できるんだから」
「結構前からあったと思うよ」
「あれ?そうだっけ?」
丸々さんは水を召喚すると、消火作業に移った。
そしてそこには雪女だけが残った。
丸々さんは雪女に近づき、抱き起こす。
ぽたぽたと溶けた体が純粋な水となって地面と丸々さんのコートを濡らす。
「君は美しいねん」
「たす・・・けて・・・、たす・・け・・・、おね・・がい・・・」
丸々さんは真顔で返す。
「ごめん、酷い事をした。守ることに気を使った、やりすぎたよ・・・・」
妖力がない。
彼女は自分を救うために僕を襲ったのだろう。
既に春。雪女がこの街に出てくるなんて可笑しい。
笑えない程に。
何故、彼女がこんな所にいるのか、いや、それは僕の所為だ。
僕が引き寄せた。いや、魅き寄せた。
小馬家屋・指揮の概念に。
お化け屋敷の概念に、
集ったのだ。
「彼女は助かるか?」
「助かるさ。力を補充すればいい。・・・・雪女は別段危険な妖怪じゃない事が多い。ただ、彼女達は愛が欲しかっただけなんだ。それが不運にも人に害してしまった。哀しいのさ。だから、・・・同情でもいいから助ける」
丸々さんは黒い小瓶――蜂蜜酒をとりだし、その金色の液体を雪女に飲ませた。
途端、雪女の溶解は収まり、雪女の白い肌に生気が戻る。
だが、雪女の意識は途絶えた。
死んだわけじゃないだろう。
丸々さんは彼女を背負う。
「とりあえず僕の部屋に運ぶよん。――――――はっ!?別にやましい事しないからねぇ!!!!」
「・・・なんでそんなに力強く否定するの?」
「え、いや・・・まぁ・・・、うん」
うん、じゃねぇよ。
丸々・罰
20歳
童貞
「ぷっ」
「あ、お前笑ったな!!この17歳!!」
今、僕の年齢が明らかになった。
因みに、恋も同じ歳です。
「いや、深読みはいけませんよ。○○さん」
「同じ言い方なのに、その伏字はなんだ!?何が入る!!」
「漢字2文字、初めは『童』」
「ふぬがぁはぁ!?くそう、君だって恋君とはいってないんだろ!!ど〜〜せキス止まりだろうが!」
「ぐふっ!?」
ぐさり
痛いとこを言われた。
恋は理由かあって最終段階までは行かせてくれない。
別に理由は聞いてるし、僕もそれは痛いほどわかる。
あとは恋の気持ちの問題なのだ。
その気持ちが決着つくまで、僕は待ち続ける所存だ。
「ふん、でも精神的にはそれ以上のことやってるさ!!」
訂正
やってる→されてる
「精神的にそれ以上・・・・・、ぶふっ、鼻血がぁ・・・!?」
丸々さんはとても想像力豊かです。
普段、赤いリュックの所為で変な人に見えるが、それ以外で見るとかなりのイケメンな丸々さん。
頭もいいし、運動もできるからモテていいはずなのだが・・・。
因みに、丸々さんは雪女を背負っているため、赤いリュックは僕のママチャリの籠に入っている。
あと、あのゴスロリ傘も籠の中。
とりあえず、雪女を丸々さんのアパート――家賃3万円、結構いい作り――に運んだ。
畳張りの床に雪女を寝かせ、頭にアイスノンを枕代わりにひいてやる。
「そうそう、家には電話したか〜い?」
「ん?そういやまだだ」
僕は携帯を取り出し家へと電話
妹が出た。
『こちらお化け屋敷です』
「嘘を言うな、馬鹿。電話掛けてきた人全員にそんなこといってるのか!」
『その声はお兄ちゃん・・・・・・?』
自信なさげに言われるとちょっと凹む。
「そうだ、兄だよ。ちょっと今日は丸々さんのところに寄ってるから晩飯はいいって言っておいてくれ」
『え〜、今日は私が作るのに〜』
「今日はとても運がいいな、僕」
『何か言いました?』
「いや、なにも・・・・」
「本当に?」
「あぁ、本当だ」
ふ〜ん、と妹は言うと、受話器越しにピッと電子の音が聞こえた。
『『今日はとても運がいいな、僕』・・・・・』
受話器越しにまたピッと音が聞こえる。
「・・・・・・・・・・」
『何か言いました?』
「すみませんでした。ごめんなさい。ちゃんと食べます。許してください!!!マジで!!!!!」
録音してやがった。そういえば、録音機能付きの音楽プレイヤーを買って喜んでたよな。
『わかりました。とりあえずせめてもの情けとして忠告します。今後、食べる時はリトマス紙を用意してください』
「ちょ、それってどういうこと!!なんか危機感はあるけど、リトマス紙で防げるの!?」
ぷつん、つーつーつー。
切れた。
「楽しそうな会話だったねぇ〜」
「楽しくねぇよ!」
「ところでさ。この娘のことなんだけど、まだ目覚めそうにないね」
「ふ〜ん」
「な〜〜んか、あたりさわりない感想だね」
「僕を殺そうとしたんだけど?」
「犬に噛まれたと思いなさい」
思えません。
「で、とりあえず僕は何をすればいいの?」
「これといって今はや〜ることないね。あっ、僕の晩御飯作ってよん。君の料理美味しいしさ、久々に食べた〜いよ〜」
丸々さんは簡単な料理くらいできるが、やはり一人暮らしとしては誰かの料理とかも食べたいのだろう。
「哀れな」
「哀れって言うな!!」
僕は冷蔵庫の中身を確認した。
コーラ。コーラ。コーラ。コーラ。コーラ。
ペプシ。ペプシ。ペプシ。ペプシ。ペプシ。
野菜。野菜。野菜。
牛乳。野菜ジュース。
肉。肉。肉。肉。肉。肉。
ケチャップ。マヨネーズ。マヨネーズ。マヨネーズ。マヨネーズ。マヨネーズ。
「おい、なんでカフェイン飲料が大量にあるんだ?」
「セールで安かったから」
「肉多いな」
「肉は重要でしょ?」
「マヨネーズが何故5本ある?」
「時々、作るのめんどくなったらマヨちゅっちゅするからさ」
「・・・・・・・・・・・・香取ママ?」
対処に困る。
「とりあえず作れそうな材料はあるし、久々に豪勢なものでも作ってやるか」
「豪勢なものでも合成はいやですよん?」
「駄菓子屋の飴でも舐めとくか?」
「合成着色料はカンベ〜〜ン!」
時は流れ。
僕は料理を作り終わった。
ちょっとこだわった為、1時間浪費
でも、雪女は起きなかった。
かなり衰弱しているらしい。
「指揮さんが作ったピリッとしたオニオンスープで御座います」
「お〜〜」
「ワカメとアスパラガスのサラダで御座います」
「お〜〜〜」
「まて、マヨネーズは掛けるな。ドレッシングが既に掛けてある」
「え〜」
「ちっ、マヨラーめが・・・。指揮風牛フィレの赤ワイン煮込みで御座います」
「お〜」
「まだメインに手を付けるな!」
「ぶ〜」
「デザートは杏仁豆腐で御座います」
「お〜、って、デザートだけ中華?」
「デザートは開拓してないんだ。いまの食材じゃこれが限界」
「でも、これでもイイ!!まるでフランス料理だ〜〜!!デザート以外」
「はっはっはっ、まるでじゃなくてフランス料理だよ、これ。デザート以外」
では、と僕はなんとかテーブルに2人分の料理を載せた。
「パンがあれば良かったんだけどね」
「いやい〜やこれで十分さ!」
丸々さんは既にスプーンを持って準備していた。
僕たちは向かい合い。
「いただきま〜す」「いただきます」
間
「ごちそ〜さま〜」「ごちそうさまです」
満腹になりました。
丸々さんに食器洗いを任せ、僕は雪女の様子を見た。
アイスノンが結構溶けている。
「丸々さん。アイスノンまだある?」
「一個だけだよ。氷枕があるから、それ使って」
僕は氷枕を用意し、そしてアイスノンと取り替える。
その時、雪女の頭に触れたが、とても冷たかった。
だが、寒いわけじゃない。ひんやりとした感じ。
悪くはない冷たさだ。
僕があの時、ぞっとした冷たさは状況と雪女の生の執念からだったのかもしれない。
・・・あれ?そういえば。僕の手は雪女より暖かいのに、彼女の身体は溶けていないな?
「なんでだろ?手が湿った感触もないし」
と、丸々さんが戻ってきた。
「僕自身、雪女についてはあまり知らないけどさ。多分、この身体を保っているのは彼女の妖力なんだと思うよ。だからあの時もクトゥグアの熱で溶けたんじゃなくて彼女の妖力不足」
「へ〜そうなんだ。じゃあ、取りあえずもう溶けてないし大丈夫なんだ」
「今回は蜂蜜酒でその力を補充したけど、蜂蜜酒が与えてくれる力は妖力とは違うものだからね。あまり長くは持たない。安静にさせて力の回復をさせないと危険だねん」
「そうなんだ」
「ま、手っ取り早い回復が人から貰うことなんだけど、それは僕としても看過できないね〜〜。だ〜から、自然回復を待ちたい。あっ、勿論食べることだって力の回復になるよん」
「なんとかなる、って意味でとって大丈夫だよね?その言葉」
「そ〜だね。雪女一人じゃこの街で生きていくのは不可能だけど、こうして誰かの助けがあれば十分暮らせるはずさ〜。―――多分、彼女は次の冬が来るまで帰れないよん」
丸々さんの顔が険しくなる。
「え?」
「雪女は雪とともに訪れて、雪とともに去る。だから雪が降らない今は帰れない。多分彼女がここに来たのは前に雪が振った1月だねん」
「じゃあ、今日までの3ヶ月、ずっと彷徨っていたっていうのか!?」
「そ〜だろね。指揮君の概念に引っかかってしまい、魅き寄せられ、帰れなくなった。そんなとこだろう」
「僕の所為か・・・」
「確かに君の所為だけど、これはど〜〜しようもできないことだよ〜。まさに不運なことさ〜。悪意なんてないんだから」
落ち込むことはないよ、と丸々さんは言った。
「この雪女は僕以外に人を襲ったんだろうか?」
「それはないと思うよ〜。あの時、彼女は餓えに餓えていた。そんな状況になるまでいたんだ。一回でも人間を喰らえば、3ヶ月は持つものだよん」
人間から搾取できる力は結構あるからね、と付け加えた。
それに、と丸々さんは前置きして、
「彼女は『おねがい、たすけて』って言ったんだ。優しい娘だよ〜。通常、妖怪は人間よりも上の階級だと考えてるからねん。そ〜れで助けを求めれるものじゃない、妖怪のプライドが許さないだろう。彼女は人間に歩み寄ろうとした方だよん。曲がりなりにも人間に情がある。もしかしたらん、それも君に魅き寄せられた原因かもね〜」
と、雪女が身じろきをした。
意識が戻り始めてる
何か小さく口を動かしている。
丸々さんは彼女の口元まで耳を近づける。
「み・・・ず・・・を・・・」
「水かい?」
「み・・ず・・」
「わかった。―――指揮君、氷を買ってきてくれ。純粋な水でできた氷だ」
「了解」
妖怪とて生きる物。水は必要なのだろう。
僕は急いで、アパートから出て水を買いに走った。