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02 帰り道は返り道

 帰り道

 

 帰り道はその人にとっての霊の返り道だと云う。

 黄泉返りよみがえりの『返り』である。

 だから一定の帰り道を帰る者は霊に守られ、安全に自宅へと帰れる。

 だが、誰でも少しくらい寄り道などしたりするだ。

 生涯で寄り道を一回もせずに帰る者などいないだろう。

 さて、その寄り道により悪霊が憑く場合がある。

 悪霊は帰り道に進入し帰る者を襲う。

 ただ、1回の寄り道で憑く悪霊なんぞ、いつも帰り道で守る霊にとっては敵ではない。

 しかし、10回、100回、1000回と続く寄り道で練り固まった悪霊は脅威となる。

 物理的なものもあれば呪術的なものもある。


 怪異


 帰り道で通り魔に会うとかもこれが影響しているとかなんとか。

 また守ってくれる霊の強さにも関係あるらしい。

 と、丸々・罰は言っていた。

 彼自身、ただ本の受け入りって言ってたけど。

 さて、僕がこの事を思い出したのは、まさしく『怪異』に出会ったからだ。

 確かに、この高校時代は寄り道が多かったと思う。

 でも仕方が無くだ。僕だってまっすぐ家に帰りたかった!声を大にして言いたい、僕は普通に帰りたいといつも思っていると!!

 

 

 

「ぅ・・・・・」

 恋と分かれた後、僕は自宅に向かっていた。

 既に逢う魔が刻が過ぎ夜は来ていた。

 ママチャリを飛ばす僕は道端、外灯の下でうずくまる人を発見したのだ。

 暗い夜道で外灯の光は映える。

 たが、それだけでは僕も見逃すだろう。

 別に外灯の下に人が居るだけなのだから。

 でも――――――それは白かった。

 白い着物だった。

 それが光を反射した。

 そしてもう一つ。

 黒い傘。

 ゴスロリ専用。

 女性だ。

 ・・・ミスマッチ過ぎる。

 無視するべきだ。

 僕はママチャリから降りた。

「あ〜〜〜〜、こりゃヤバい」

 僕の人生の中でこんな状況は危険なことしかなかった。

 ほぼ、十全、百発百中これはトラブルだ。

 ・・・どうしよ無視する?

 多分無理。

 すでにママチャリから降りていての考えだが、放って置いて事態が悪化する例は去年、嫌と体験した。

 今年度、しょっぱなからこれか・・・・。

 僕は半ば諦めながらその女性へと近づいた。

 悪くなるなら悪くなる前に何とかするべきだ。

 おぉ、なんというポジティブ!!少し前の僕では考えなかった事だ!!

「大丈夫ですか?・・・とりあえず声掛けとくけど、病院とかには付き合いませんよ〜」

 最悪な男だな、僕。

 うずくまる女性は僕に振り向いた。

「っ・・・・・・・・!?」

 それはぞっと背筋が凍るほどの美女だった。

 形容ができない美しさ。

 肌はアルピノのように白い。

 眼は蒼い。青くなく蒼いのだ。

 その美しさに僕は動けなくなった。

 見惚れた。

 だが、違う。

 これは霊による金縛りの原理だ。

 女性は立ち上がると、僕をじっと見た。

 口を開く。

「寒い」

「え?」

 金縛りとは体が動かないだけで、顔は動き、言葉も話せるのだが、今はどうでもいいこと。

「でもいいわ。貴方から貰う。力はぜんぜん感じないけど、獲物だもん」

 ・・・こいつ、化生の類!

 妖怪だ!

 女性が手を伸ばす。

 捕食される。

 直感でわかる。

 このままでは僕は死ぬまで力を吸い取られる。

 だが、体は動かない。

 絶体絶命

 何度味わっても慣れるものではない。

 ・・・しかしこのままじゃ死ぬよな?僕。

 死の諦めは堕落した時から出来ている――――しかし、今は出来てない。

 一途二・恋が僕を諦めさせなかったから。

 女性の手が僕の首に触れる。

 一瞬で鳥肌が立つ冷たさ。

 人間が持つ温度ではない。

 雪女

 それがこいつの正体だ。

 初めて逢う。

 妖怪に会うこととは違う。まさにそれは事故なのだ。

 だから『逢う』なのだ。

「さて、このままじゃ・・・いかんよな」

 本当、遺憾いかんだ。

 このあと僕は雪女に口付けをされ生気と云う力を奪われる。


 搾取される。

 死ぬほどの接吻で。

 冷たい口付け。

 凍る。

 体も凍る。

 心も凍る。

 

 

 死ぬ。



 『対処策』

 とりあえず一個ある。

 僕はお守りを首に掛けている。

 それが対処策。

 丸々・罰が僕に持たせた。

 くれたわけじゃない、このお守りは丸々さんが僕に文字を書かせた紙をお守りに入れたのだ。

 あとは呪文を唱えるだけ。

 女性の顔が僕に近づく。

 焦りはない。

 こんなことしょっちゅうだ。

 まずは不適な笑みを出せ。

「へっ」

 僕は三日月の笑みを出す。

 雪女は不機嫌な顔を見せたが、それも数秒、すぐに僕の唇を奪いに来る。

 だが、その前に僕の唇が動いた。

「イヤーイヤーハスター!!」

 異世界の風を喚び出す。

 突風が僕と雪女の間に生じ、双方を吹き飛ばす。

「きゃぁ!?」

「ぐっ」

 体の前面に圧迫。

 だが、体の自由が戻ったことを知る。

 僕と雪女は壁に衝突。

 ・・・ママチャリは!?

 結構近くに転がっていた。

 僕はそれに近寄り、持つ。

「よし、フレームは歪んでいない」

 すぐに漕ぎ始めるが、

 がしゃり

 後輪を掴まれた。

 掴むのはあの雪女。

「寄越せ、お前の力。・・・・・・お願い」

 それは弱々しかった。

 僕は微妙な違和感を感じながら、振り切ろうとするが動かない。

 意外に握力がある。

 妖怪と人間には身体能力的な差がある事が多い。

 多分、走って逃げられないだろう。

 あのお守りは一度っきりだと聞いたし、策はない。

 そもそも首からぶら下がっていたお守りの感触は無い。千切れたか、消滅したのだ。

 ・・・もうちょっと用意しとけば良かった!

 一個だけだったのが僕の失態。普通はもうちょっと保有するべき。

「あ〜、恋と付き合う事に自惚れてたかな、・・・これ?」

 気持ち的にも、守り的にも。

 大抵の物理的脅威は恋が撃退してくれたからだ。

 でも、恋は居ない。

 今度こそ、マジ危険。

「ちょうだい、おねがい・・・私は死にたくない」

 ・・・それは僕もだ!

 冷たい感触が僕の右手を掴んだ。

「すまないが、僕は死ぬ気はない!」

「おねがい・・・」

 振り離せない。

 雪女が僕に身を近づける。

 そして僕の顔をホールドした時、

「はっ!?」

 

 

 生を想った。

 死を恐れた。

 

 名前を呪った。

 

 

 

 死を覚悟――――――できなかった。

 

 

 

 

 

 ―――救世主はヤバ〜いところに現れぇ〜る。



 そんな台詞を聞いた気がした。


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