過保護な女神
「私ってば好き嫌いがハッキリしてるって言われるのよね、そんであんたは好き」
「……」
「そんなバカ面も好き」
俺が死んだ瞬間に鼻息の荒い女が言った台詞はそれだった。
後にそいつが女神だと分かる。
「食らえ悪党、俺の正義の一撃アガッ!?」
「何だこのガキ、滅茶苦茶弱いな。引っ込んでろ」
折角の異世界に来たと言うのに俺は何の力も無かった。
代わりにあったのは、
「ちょっとあんたら何言ってんの!」
「な、何だ? 脳内に声が……」
「理不尽なイカズチ!」
「ギャー!? 快晴なのに雷がー!」
俺のものではない謎の力。
それは明らかに女神による干渉だった。
「ほら、あなたも助けて貰ったんだからお礼ぐらい言って」
「ひぃ、ありがとござまたー!」
大体がこんな感じだった。
これでは女神の加護を受けたというより悪魔に取り憑かれた感じだ。
お陰で俺は仲間にも恵まれず能力を得る事もなく、平和で孤独な異世界ライフを過ごしていた。
「なぁ女神さん、俺に凄い力をくれ」
だが俺も黙ってはいない、こんな女神を利用する方法を考えてもいたのだ。
「ヤダ」
「何で?」
「私に頼ればいいじゃない、何なら依存すれば?」
とてもじゃないが女神の口にする台詞ではなかった。
全てがこんな調子だから女も仲間を作れない。
まるで女神のペットになった気分だ。
「おい、女神」
「……」
俺もただ飼われているだけではない、最近一つ発見した。
女神の居ない時がある。
恐らく女神のお役目って奴だろう、その間なら俺にも僅かに自由があった。
早速俺は酒場に向かい女に嫌われる方法を聞いて回る。
すると帰って来た答は暴力と飲んだくれと甲斐性なしだった。
彼らまるで自己紹介でもするようにスラスラと答えてくれた、流石だ。
「おい、女神。顔を出せ、話がある」
「え、なになに?」
そして女神を呼び出した訳だが、俺の前に現れたのは謎の光だった。
生まれて初めて女を殴るという決意に燃えていた俺はいきなり出鼻を挫かれる。
だが、
「甘えてんじゃねぇぞこのアマァ!」
俺の必殺の手加減ビンタは光に触れて何の衝撃もないまま空を舞った。
「……え」
「ごめんねぇ、私ってば一応女神だから、触れ合ったり叩き合ったり出来ないの」
内心ホッとした俺に女神の追撃が襲う。
「そんな方法で嫌われようと思ったの? そんな猿知恵で? ウフフ、可愛い。猿知恵可愛い。サルカワ~」
その言葉で、俺は本気でこの女神の元から逃げ出す決心をした。
そして俺と女神との戦いが始まった──。