第1のお客様『無謀なルーキー』 03
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森の奥深く。
湖畔でエドが野営の準備をしている。
といっても火をおこしてテントを張る程度であり、
すぐに終わってしまい手持ち無沙汰になってしまった。
隣村についてから1日休みをもらい、
体力を万全にしてから森に入った為疲れもまだ見当たらない。
辺りに鈴付きの縄を仕掛けに行ったゾーイのところにでも行こうかとも思ったが、
雇い主の薬師が少し前に薬草の採取にでかけているのだ。
置いていくわけにもいかない。
「終わったわ。これでなにか近づいたらわかるはず」
木々をかき分けてゾーイが現れた。
「足跡はどうだった?」
「気になるのは猪と犬の新しい足跡くらい。あとはこれ」
ヒョイッと上げた手にはすっかりと絞められた兎が1羽。
「なんだか懐かしいな。
村ではよく食べてたな」
そうねと呟いたゾーイが、これもなれた手付きで内蔵を処理して皮を剥いで湖で洗った。
「今晩はごちそうですね」
背に籠を背負った、年の頃は30ほどであろう女性薬師が帰ってきた。
「ええ、干し肉とパンでは味気ないですし」
薬師がぎこちない営業スマイルのゾーイに、籠から取り出した赤いものを手渡した。
「兎ならこれをソースに使うといいでしょう」
「コケモモ!」
好物の甘酸っぱい果実に、パッと少女らしい笑顔になったゾーイ。
可笑しそうに薬師とエドが笑い、ハッとゾーイが我に返った。
「では私はテントの中で休ませてもらうよ」
意外と豪華になった夕食を済ませてお茶を一杯飲んだ頃、
ちょうど日が沈み始めて森は一息に漆黒となった。
薬師は早朝の採取のために早々とテントへと入った。
これには若い男女を2人っきりにしてあげようという考えもあるのだが、
当人は気がついていない。
聞こえる様々な鳥と虫の声。
暗黒の中にぽつりと浮かぶ頼りない焚き火。
虫よけになると薬師からもらった香木が煙を上げていた。
隣り合っている2人が、薬師の邪魔にならないように小さな声で話している。
「ねえエド」
「ん?」
「少し寒いね」
湖で湿度が高く、風もない夜はお世辞にも過ごしやすいとは言えない。
「革の鎧が暑いくらいなんだが」
距離を詰めたゾーイがエドの肩により掛かる。
「私は寒いの!」
テントに浮かぶ影の距離がさっそく近づいた。
苦笑した薬師がこれ以上見るのは野暮だと背中を向けたて瞳を閉じた。
「くっつきたいなら素直に言えよ」
「エドはもう少し女心を学んだほうが……」
ゾーイの言葉が途切れる。
エドも異変に気がついた。
森で生まれ育った2人だからこそ検知した小さな異変。
周りは変わらず夜の動物たちの大合唱が響いている。
しかし正面――遠くからその音が段々と消えて、無音が2人に迫っていた。
「なにかが……」
「来る!」
エドが視界を広げるために焚き火から焚き木を拾って辺りにばら撒く。
「ゾーイは薬師さんを起こしてそばにつけ!」
立ち上がりショートソードを抜くのと同時に、
森の木々と闇をかき分けて赤く光る瞳が無数に飛び出してきた。
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