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第1のお客様『無謀なルーキー』 02

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「ご主人様、あの2人大丈夫ですかね??」

客が去り、ガランとした店内を箒で掃きながらエーリャがぽつりという。

彼女は獣族の亜人としては背が低く、人間の平均的女性と並んでも少し見上げてしまうほどだ。

そのちっちゃめな体をゴシックなメイド服で包み、猫っ毛で少し堅いボブヘアーを乗せている。


しかしぱっと見で一番目を引くのは大きなフサフサな耳と、お尻から生えた長い茶縞の尻尾であろう。

ちなみにメイド服はエーリャの趣味であり、主人の性癖ではない。

「攻撃魔法ばかり。しかも広範囲の低級ですから心配です」

派手であり相手は驚くであろうが決して致命傷にはならない、そんな魔法。

もちろん魔法の性質は説明しているのだが、はたして理解をしてくれたのだろうか。


「お前途中で止めそうになったろ?」

「いっ!?」

相変わらずいやらしい主人の洞察眼に変な声が出る。


「たしかに威力は無いが例えばゴブリンの群れに襲われた時、威嚇して逃げることはできる」

「……そうですけど」

「反対に1体のモンスターに対して威力が高い魔法しかない場合、あの子達の命は無いだろう」

「……そうですけど」

「結局俺たちにできるのは」

主人が椅子から立ち上がり、頭をかきながら裏の工房へと消えた。


「私達にできるのは無事を祈るだけか……」

部屋の隅に隠れるように置かれている聖母像にエーリャが長く手を組んだ。





森を突き抜ける長い馬車道は程よい木陰で、僅かな汗も吹く風がそっと乾かす。

本当は仕事がある隣町まで馬車で行きたいところなのだが、駆け出しとさえ言えない2人は冒険の支度にほぼ全財産を使ってしまっていた。

口が寂しいのか干し肉をずっと噛んでいるエドと、それも大切な食料なのにと少しつまらなさそうなゾーイ。


「えーーと、明日採りに行くのなんだっけ?キノコ??」

「朝露茸!!」

ギルドから請けた冒険者としての初めての仕事はとても簡単なものであった。

街から歩いて2日ほどの距離にある小さな村。

そこの薬師が朝の限られた時間しか生えないキノコを採集するために、夜間森に泊まる際に護衛をしてほしいとのこと。

別に危険なモンスターがいる森ではないのだが野犬などが生息しており、どうにも一人では不安とのことだ。

本来ならばしっかりとした冒険者を雇いたかったのだろうが小さな村の薬師だ、財布も軽いのだろう。

しかし2人にとっては切り詰めれば10日は食べていける金額だ。


「私達もプロになるんだから、エドもしっかりしてよ」

子供のころからゾーイに怒られる事が多いエドはつまらなさそうな表情で干し肉を飲み込んだ。

「だって森で一晩過ごすだけだぜ?

 俺たち森の村に住んでたんだし日常じゃん!」

「そうでなくて、これはお金をもらうんだから心構えというか」

言いながらも自分自身もお金をもらう仕事は始めてで、なかなか言葉が出てこない。

しかし、エドのこの態度が正しくないのは間違いない。


「俺の目標知ってるだろ??」

ショートソードで道端の藪を意味なく斬りながら歩く少年。

「古代神殿を探索して王宮にあるモノリスを読み解くこと」

大陸最大の謎と言われる石版が王宮にある。

大きさはちょうど大人の男性ほど。

いつの時代に作られたかもわからない。

傷つけることが出来ず、何で出来ているかわからない。

しかし表面には謎の古代文字がびっしりと刻まれている。

モノリスを理解できれば、人は一歩先の世界へ進めると言われていた。

「ゆくゆくは歴史に名を残す俺が森で寝ずの番かー」

この言葉で流石に怒ったゾーイがエドの頭を強く叩く。


「朝露茸は解熱剤になるんだよ!」

お金を出せば魔法使いから病の治療を受けることが出来る。

しかし魔法医の治療は高額であり、一般市民が受けられるはずがない。

そんな中薬師が作る自然由来の妙薬は、人々が受けられる数少ない医療である。

特に今年は雨が少なく森が痩せており、薬草や果実が不足していて世界中で薬が枯渇している。


「私達が失敗して薬師さんが亡くなったらあの村はどうなるの!」

小さな村に立った1人の薬師。

「……ごめん」

エドが肩を大きく落とし謝る。

なにも悪気があったわけではない。

大きなことを言っているが、いくつかの初心者(ルーキー)向けの依頼からこれを請けたのはエドである。

人を守りたかったのだ。


ゾーイがエドをギュッと抱きしめた。

お互いの鎧の金具がぶつかり小さな音がする。

鎧越しのため温度も柔らかさも感じないが、耳元で聞こえる声と汗の匂いが少年を熱くする。

「一緒にがんばろ」

エドの耳元で笑顔の音がした。




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