表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
番外編  作者: 晴日青
初めて食べるもの/白蜥
9/28


 ティアリーゼは幼少の頃から姫としての扱いを受けてこなかった。

 それでも、まったく教養を捨てて育ったわけではない。

 この日もお茶の練習とのことで、足の届かない椅子に座らされていた。


「あたし、おちゃくらいじょうずにのめるよ?」

「ティアリーゼ様、『あたし』ではなく『私』です」

「はあい」


 足をぷらぷらさせながら返事をする。

 大きくなってから落ち着きのある女性となるティアリーゼも、幼少期はおてんばな女の子でしかなかった。


「……わあ!」


 だから、目の前の皿にある菓子を見たときも大声を出してしまった。


「ねえ、これすごくいいにおいがする!」

「お茶の時間にはしゃいではいけませんよ」

「じゃあ、どうしたらいいの?」

「なにもしなくていいんです。淑女というものは、声を上げる上げない以前に、物事に動じないんですよ」

「よくわかんない……」


 困った顔をしたが、もう心は菓子に夢中だった。


「ね、これ食べていいの?」

「この間教えたお作法通りに食べられるのなら構いませんよ。ひとくちで食べられるものだからといって、一気に全部食べてしまわないようにしてくださいね」

「はあい」


 返事をして、なるべく淑女らしくというのを心掛けながら菓子を手に取る。

 まだ温かいのはこれが焼き立てだからなのだろう。

 香ばしい甘い匂いが鼻孔をくすぐり、ひとくちで食べるなと言われても誘惑に勝つのが難しそうだった。

 しかし、ちょっとした仕草もしっかり見られている。

 ぱくりと食べてしまいたいのを必死に堪え、まずは小さく端だけをかじった。


「わああ、おいしい」

「ティアリーゼ様」

「……おいしいっていうのもだめなの?」

「いけません。そういうときは、同席した方に向かって微笑むだけで充分です」

「でも、それってたのしくないよ。おいしいってきもちは、いっしょに……わか、わか……」

「分かち合う、でしょうか」

「それ! わかちあうほうがいいっていいたかったの!」

「ティアリーゼ様、席を立ってはいけません」


 興奮気味だったティアリーゼは慌てて椅子に戻る。

 なんとなく納得いかない思いを胸に、まだ残っていた菓子をちょっとずつ食べ始めた。


(これ、クルミがはいってる。こっちはジャム……。……おいしいのにどうして、そういっちゃだめなのかなあ)


 菓子は期待した通りとてもおいしい。

 おいしいが――なにか、もやもやしたものが胸に渦巻いている。


(あたし、おかしはおいしいっていいながら、いっしょにいるひととたのしくたべたいな)


 それを口に出すことが許されないのはわかっていた。

 おいしいお菓子はティアリーゼの口に幸せを運んでくれる。

 だが、心まで満たされるかと言えばそうは言い切れないのが、少しだけ寂しかった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ