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ティアリーゼは幼少の頃から姫としての扱いを受けてこなかった。
それでも、まったく教養を捨てて育ったわけではない。
この日もお茶の練習とのことで、足の届かない椅子に座らされていた。
「あたし、おちゃくらいじょうずにのめるよ?」
「ティアリーゼ様、『あたし』ではなく『私』です」
「はあい」
足をぷらぷらさせながら返事をする。
大きくなってから落ち着きのある女性となるティアリーゼも、幼少期はおてんばな女の子でしかなかった。
「……わあ!」
だから、目の前の皿にある菓子を見たときも大声を出してしまった。
「ねえ、これすごくいいにおいがする!」
「お茶の時間にはしゃいではいけませんよ」
「じゃあ、どうしたらいいの?」
「なにもしなくていいんです。淑女というものは、声を上げる上げない以前に、物事に動じないんですよ」
「よくわかんない……」
困った顔をしたが、もう心は菓子に夢中だった。
「ね、これ食べていいの?」
「この間教えたお作法通りに食べられるのなら構いませんよ。ひとくちで食べられるものだからといって、一気に全部食べてしまわないようにしてくださいね」
「はあい」
返事をして、なるべく淑女らしくというのを心掛けながら菓子を手に取る。
まだ温かいのはこれが焼き立てだからなのだろう。
香ばしい甘い匂いが鼻孔をくすぐり、ひとくちで食べるなと言われても誘惑に勝つのが難しそうだった。
しかし、ちょっとした仕草もしっかり見られている。
ぱくりと食べてしまいたいのを必死に堪え、まずは小さく端だけをかじった。
「わああ、おいしい」
「ティアリーゼ様」
「……おいしいっていうのもだめなの?」
「いけません。そういうときは、同席した方に向かって微笑むだけで充分です」
「でも、それってたのしくないよ。おいしいってきもちは、いっしょに……わか、わか……」
「分かち合う、でしょうか」
「それ! わかちあうほうがいいっていいたかったの!」
「ティアリーゼ様、席を立ってはいけません」
興奮気味だったティアリーゼは慌てて椅子に戻る。
なんとなく納得いかない思いを胸に、まだ残っていた菓子をちょっとずつ食べ始めた。
(これ、クルミがはいってる。こっちはジャム……。……おいしいのにどうして、そういっちゃだめなのかなあ)
菓子は期待した通りとてもおいしい。
おいしいが――なにか、もやもやしたものが胸に渦巻いている。
(あたし、おかしはおいしいっていいながら、いっしょにいるひととたのしくたべたいな)
それを口に出すことが許されないのはわかっていた。
おいしいお菓子はティアリーゼの口に幸せを運んでくれる。
だが、心まで満たされるかと言えばそうは言い切れないのが、少しだけ寂しかった。